今回は、医療用ウィッグや訪問理美容の活動をするNPO法人『全国福祉理美容師養成協会』。通称『ふくりび』のHidden Story。

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ふくりびを立ち上げたのは、理事長の赤木勝幸さんと事務局長の岩岡ひとみさんです。もともと赤木さんは愛知県の日進市で1995年からサロンを営まれてきました。そんな中、介護施設で髪を切る活動を始められます。

「赤木:当時、介護保険制度もない時代に、訪問理美容を休みのときにやっていたんです。あの当時、看護師さんとか職員の方が介護をしやすいようにみなさん髪を短く切っていたんですよ。男性も女性も同じヘアスタイルで、なんか違うなと思って。

岩岡:定休日に老人ホームに行っているというので一緒に行ったら、全然しゃべれなくて、表情もない認知症のおばあちゃんがいたんです。でも、鏡を見せてしゃべりかけて髪切って、ということをやったら、最後は『きれいになったわ、誰かわからんくなったわ』ってけらけら笑っていて、これはすごい、美容の力はすごいなと思ったんです。それで、この活動をちゃんと広げたいと思ってちらしを作ってみたらすごいオファーが来ました。これは定休日だけじゃ無理だと思って、小さい求人広告を出したら、30人くらい求人来たんですよね。」

介護施設などで髪を切る 訪問理美容。施設のほうからのオファーも殺到しましたが、実は、そういう仕事をやりたい美容師さんもたくさん存在しました。

「岩岡:30人全員面接して、なんで、どういう風に働きたいのかなどを聞いたら、やっぱり美容師としてはさみを握りたいと。ただ、パートだとそういう条件のあうところがなくて、結果、レストランのウェイトレスをしてたり、スーパーのレジうちをやることになる。でも、やっぱりもう一回はさみを持ちたいという女性が多くて、そういう人たちに研修をすればできるねと。育児経験や介護の経験もあるのでお年寄りとのマッチングもよくて。 」

2007年、NPO法人『全国福祉理美容師養成協会』、ふくりびを設立。その後、赤木さんと岩岡さんは、さらなる課題に気づきます。サロンのお客さんから 医療用のウィッグについて相談されたのです。

「岩岡:医療用ウィッグというのは、主に抗がん剤の副作用で脱毛された方、脱毛症の患者さん向けのかつらです。お客さんに相談されて調べたら、あまりいいものがなく高い。とても闘病中で子育てもしている30代40代の方が30万もするかつらは買えません。治療にもお金がかかるのであきらめてしまうんです。すごく安い化繊のファッションウィッグというか、コスプレのナイロンのやつか、30万とか60万のかつらの2択しかない。もう少し適正な価格でナチュラルでおしゃれも楽しめるものがあってもいいんじゃないか、と思いました。そこで、書籍をクラウドファンディングで出して、まずは美容室でも医療用のかつらを作れますよ、というのを病院や患者さんにも発信して、美容室側も知識を得ないとサポートできないので、その書籍をがん拠点病院500に寄贈したらすごくニーズがあって。」

最初は4軒から始まった医療用ウィッグのパートナーサロンが、今は全国に110軒。セミオーダースタイルのウィッグは、人の髪の毛を使っていて価格は6万円ほどで販売されています。

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「岩岡:なぜ人毛にしているのかというと、化繊だと結果、ヘアカラーリングとかパーマとかができないんです。切ると言っても化繊なので美容師さんが同じように切れないし、はさみも変えないといけなかったり扱いにくいので、決まった髪型をそのままし続けるしかない。美容室で使いやすい製品にしたり、在庫コストを減らしたり、ベーシックな型をアレンジして使えるという風にすることで安くできるので、2種類しか色がないけど、染めてカラーリングすることでいろんな種類を無限大に作れる。長さも髪型もショートやボブなど、なんでも切って作れるんです。あと、自分の髪やお友達の髪でつくるドネーション型のウィッグもやっています。だいたい4人から5人分の髪があればひとつのウィッグが作れます。」

さらに、ふくりびは今年5月、東京・御茶ノ水に『アピアランス・サポートセンター』をオープンしました。

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「岩岡:アピアランス・サポートセンターは、外見にあらわれる副作用をサポートしています。髪の毛だけじゃなくてネイルの施術もできますし、メイクの相談もできます。顔にぶつぶつが出ちゃうよとか、色がくすんでしまって肌が黒ずんじゃうよというときに、どういう風にカバーをしてメイクをすればいいのか、というアドバイスもしています。専門的なところが全国的にもないというのが現状なので、実際の施術ができるとか、居場所になるとか、楽しみになるというのが重要だと思っていて。

赤木:ウィッグのことなんですけど、暑さ対策で、裏地のほうに汗わきシートをはるんですよね。あと熱さまシートとかを貼ると涼しくなるんですが、そういうことを患者さんは看護師さんに教えてもらってるわけじゃなくて、アピアランスセンターに来てもらうと何でも対応できるんです。足の爪がべろっとめくれたりとか、結構つらいので、脚のマッサ―ジをしたりネイルケアをしたりとか、少しやわらげたりしています。我々はそういうことしかできないですけど、たくさんの方に来ていただけたらと思います。」

病気の苦しみを少しでもやわらげたい。好きな髪型や素敵なネイルで楽しい気分になってほしい。NPO法人「全国福祉理美容師養成協会」、「ふくりび」の挑戦は続きます。ふくりびのサイト(アピアランスセンターの情報もこちらにあります)

http://www.fukuribi.jp