ceroのニューアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』のHidden Story。

20180525hidden01.jpgceroの高城晶平さん、荒内佑さんにお話をうかがいました。まずは、アルバムづくりのきっかけになった「魚の骨 鳥の羽根」について、作曲を手がけた荒内佑さんに教えていただきました。   

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「荒内:これは、トーキング・ヘッズっていうバンドの『Remain In Light』っていうアフリカ的なディスコ・ガラージ的なアルバムがあるんですが、それは、今でもポリリズミックだと言われていて。ポリリズムというのは簡単にいうと、同じ時間内に違う周期のリズムが同時に走っていることを言います。このアルバムは実際、そこまでポリリズミックじゃないよなと思っていて、でも、言われているような評論を鵜呑みにして、実際ポリリズムっぽくトーキング・ヘッズの曲を作ってみたら面白いんじゃないかなというところから着想しています。表面的な音色はアフリカで、中で使っているリズムもアフリカ。でも、それならアフロビートじゃんとか、アフリカっぽいものになると思いつつも、そうではない第3のものが生まれて面白かったので。」

「魚の骨 鳥の羽根」、作詞の高城晶平さんは、こう語ります。

「高城:日本由来でない自然だったり、そういうものが都市的なものの中に流入してくることで倒錯的になっていく。そういうところを言葉で補強できたらなと思って書きました。"魚の骨、鳥の羽根、車のバネ、夜の雨"とふたつの項目、都市的なものと身近なもの、その外にあるものが交互に歌われることでちょっと呪術的なというか。でも、魚の骨とかは普通の日常の食卓ででるお魚料理のあとでゴミとしての骨があったり、鳥の羽根だってハトの羽根とかカラスの羽根とかあったりしますが、都市のなかにあるけど、見方を変えると呪術っぽさがあったり。

荒内:なおかつ、魚の骨、鳥の羽根、車のバネ、夜の雨と踏んでいるんですけど、韻を踏むことで都市にあるものとその外にあるもの、世界が二重化するという。」

7曲目に収録されているのは、リズムが印象的な「Buzzle Bee Ride」

「荒内:これもアフリカ由来で、でも、アフリカ大陸広しといえども、アフリカの民族音楽を聴くと"ベルパターン"っていう鉄のカウベル以前みたいなものをカンカンカンカカンって叩いているリズムパターンがあって、それが確か、アフリカ大陸全部で5種類に分類されるんです。そのCパターンというのを輸入して、アフリカのものは4拍子に入るんですけど、それをグググっと時間軸をゆがめて7拍子にしています。

高城:野性的なもの、自然的なものが都市に流入してきて、そのひとつとして蜂がナトリウムランプで照らされたトンネルのなかをブーンって飛んでいくような、そのナトリウムランプもチカチカチカって消えたりついたりしているような、おぞましい感じ。ちょっとSFライクな、そういうビジョンを思い浮かべてます。」

アルバムの終盤、9曲目は、ポップなナンバー、「レテの子」。

「高城:これは、アルバム制作の後半にできてきた曲で、僕が最後にあげたのがこの曲かな。そのとき、アルバムのエンディングというか、最後に何かカタルシスのあるものをということだけ漠然と決まっていて、実際そこに何がはまるかわからない状態だったんです。最終的に荒内君が作った「POLY LIFE MULTI SOUL」というばっちりなものがはまったわけですが、そういうことを考えていて、一個なにか快楽的なポップものをいっときたいな、と思って作り始めたのがこの曲でした。」

ceroのニューアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』。ひとつのキーワードは、ダンス。

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「高城:いわゆるダンスミュージック、4つ打って体が動く、みたいな、そういうものとは違うけど、こういうダンスミュージックも都市に流れてきてもいいんじゃないかという、そういうアイディアからスタートしています。だから、"ダンス"というのは必然的にいろんな曲の歌詞にでてくるんです。やっぱり都市に生きていると肉体と精神が乖離していくような感覚を持つと思うんですけど、そこでそれを引き止めて、動物みたいな子どもみたいな状況に戻すものとしてダンスは機能するなと感じていて。」

「POLY LIFE MULTI SOUL」、アルバムのタイトルトラックでありアルバムの最後を飾る1曲です。

「荒内:快楽的なものを何かひとつというのと、最終的に4つ打ちにしたいというのはアルバムを作り始めたときから思っていて、要は複雑怪奇なアルバムだと思われるのも嫌だったんです。これはダンスミュージック集だよっていうプレゼンのために、最後4つ打ちにしようと。

高城:『POLY LIFE MULTI SOUL』ってどんな意味なんだろう、と制作中に話していて、"POLY"とうのは複層的で折り重なっていると、"MULTI"というのは同じような意味なんだけど、面が外に出ていて多面体的に、面が散らばっている。折り重なっているライフ、散らばっているソウル、という風に解釈できるね、という話があって。いろんなリズムを持った人間が一緒に同期して一緒に走っていて、それぞれが浸食されない魂を持っていると。その状態そのものをいきいきと描写する、それがこのアルバムのテーマだったのかなと。」

インタビューの中でたびたび出てきた言葉は『都市にあるものと、その外にあるもの』『肉体性』、そして、『ダンス』でした。見知らぬ世界がいまこの場所に流れ込み、大いに胸がざわつき、あおられ、快楽を感じる。

2018年、東京、最高のダンスミュージック。

ceroのニューアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』。