今回は、今年のノーベル平和賞を受賞した『核兵器廃絶国際キャンペーンICAN』のHidden Story。

こちらに、国際運営委員として参加するNGO【ピースボート】の共同代表、川崎哲さんにまずは、国際NGOネットワーク『核兵器廃絶国際キャンペーンICAN』とはいったいどんなものなのか、お話をうかがいました。

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「ICANの正式名称は、『核兵器廃絶国際キャンペーン』と言いまして、非政府組織NGOの連合体です。連合体というのは1団体ではなく、たくさんの団体が集まって一緒に行動しているということです。現在、468団体が全世界100カ国以上から参加をしていて、その中にある国際事務局が号令をかけるんです。実際の活動は、その468の団体がいろんな形で多様に展開しています。目的は『核兵器の廃絶』ということですが、ICANの場合は、条約を通じて核兵器を廃絶する。核兵器を廃絶するための条約をつくるということです。」

ICANの始まりは、オーストラリアの医師の集団でした。核兵器はひとたび使われれば、人々に深刻な被害をもたらします。核兵器は廃絶されなければならない。そのために条約が必要だ。世界中で、これを繰り返しアピールしていこう。ICANは、2007年に活動をスタートします。川崎哲さんが、この活動に参加し始めたのは2010年のことでした。

私は日本のピースボートという国際交流の船旅を出している団体がICANに入るということで、私自身も参加することになりました。日本のピースボートは世界を回る時に、やはり平和にまつわる活動を何かしていきたいとずっと思っていて、そのなかで2008年から毎年、広島や長崎の被爆者の方に我々の船にのっていただいて、いろんな国々で証言活動をやっていたんです。この最初の年に、船がオーストラリアのシドニーに着いたんですけど、そこに当時のICANの創設時の代表、オーストラリアのティルマン・ラフという人がいて、『お、日本のピースボートはこうやって被爆者の声を世界に届ける活動をしているんだ。これはいいね。』とうことで、ぜひともICANの活動に参加してくれと。」

核兵器廃絶条約ができるまでの道のりで、実は、日本の被爆者のみなさんが力を尽くしてきました。

ノルウェーやメキシコ、オーストリアとかそういった国が熱心に国際会議を開催したり、共同声明を発表したりして、国際プロセスのなかで核兵器は非人道兵器であるということを語っていく。そういう国際共通認識をつくるという活動を2012年から2015年くらいまでかなり活発に展開していました。そのなかでICANは、核の非人道性についての国際的な関心を高めていき、これに連携してピースボートは被爆者の方といろんな国に行く。そして、地元のICANのメンバーの団体が学校で集めてくれた学生の前で話をしたり、市役所で市長さんと面会したり、場合によっては大臣クラスまでホストしてくれたりして、被爆者が自分の経験を語り、そこにICANのメンバーが『核の非人道性というテーマで国際プロセスが進んでいます。我が国も参加するべきじゃないですか。』と言葉をそえていく。生の話ですから、被爆者のみなさんの話ほど核の非人道性を体現しているものはないわけですよ。これを全世界でやっていった結果、最終的に120カ国を越す国が核兵器禁止条約は大事だ、これを作ろうと賛成投票をして、今年その条約ができたということです。」

今年7月7日、120カ国以上の賛成で、核兵器禁止条約が採択されました。9月からはこの条約について、各国の【署名】がスタート。この署名のあと、それぞれの国で【批准】という手続きが進められ、50カ国が批准してから 90日後に発効します。しかし、この条約は核保有国、さらに日本も【署名】をしていません。

「ICANの私の回りのいろんな国々の人も、大変残念に見ていると思います。日本は唯一の戦争被爆国で、今回の条約は非人道性についての条約です。どの国がいいとかどの国が悪いということではなくて、核兵器そのものがおかしい、間違っている、それは人間に取り返しのつかない被害をもたらす、そういう観点で描かれているものなので、こういうものこそ、本来は日本のような国、それを体験している被爆国が賛同し主導したほうがいいと思うんです。これについて政府は、あるいは政府の態度を支持する人の言い分は、北朝鮮の核問題等々がある、日本は大変脅威にさらされていると。それを私なりに解釈をすると、アメリカの核は必要だと、そう言っているように聞こえます。それは、本当にそれでいいのかというのを考えなきゃいけないと思います。そういう風に言っていたら、むしろ核は増えるんじゃないですか?じゃ、うちもうちもってなりますよね。うちもうちもって言っている流れが、いまの北朝鮮問題かもしれません。そもそも、すべての核が悪いのだから、みんなでなくしていく方向をむくというのが道理だと思います。だから、北朝鮮の深刻な問題がありますけど、核兵器禁止条約に賛成していくのが、それを解決する上でもプラスなんじゃないかと思います。」

『核兵器廃絶国際キャンペーンICAN』の国際運営委員、川崎哲さんは、被爆者のみなさんと世界をめぐるなか、こんなことを考えていました。

「禁止条約ができたときに、新聞に『HIBAKUSHA』という言葉がローマ字で出ていたと報道されました。あれは偶然じゃなくて、被爆者の方が世界の国で記者会見を開いて、その都度『被爆者です』って言ってるので、世界の新聞に被爆者という言葉で出るんです。いまは被爆後72年です。だから、ほんとに自分のこととして語れる方は80歳以上ですから、そういう方と世界を回る、海外に出るというのは大変なことで、誰でもできることじゃないです。被爆者の方が日本全国で16万か17万人ご存命で、多くの方に出会ってきましたが、まだまだ語ってない、語ってこなかったという方がほとんどです。本当に悲惨な体験で、簡単にぺらぺら話すことではないので、想いをもって、勇気をもって話をなさる。その一歩は大変だと思いますが、それでも高齢になるにしたがって、いま言わなければならないと思い、一大決心されて、たどたどしい言葉でも世界に伝えていく。そういう方にたくさん出会ってきました。」