スティービー・ワンダーのギターを弾いているのは日本人!?ギタリスト、中村陽平さんの挑戦

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今回は、2013年からスティービー・ワンダーのバンドでギターを担当する日本人ミュージシャンのHidden Storyをご紹介。現在は、アメリカのロサンゼルスをベースに活動するギタリスト、中村陽平さん。ロサンゼルスの音楽専門学校で学び、その後、世界に名だたるボストンのバークリー音楽大学に入学。そして、卒業後は日本へ帰国せず、そのままボストンでの暮らしを続けることになりました。

「2008年までボストンでウェディングとか営業的なバンドをやりながら住んでいたんですけど、さすがに学校を卒業して3年くらいしたときに、これ以上ボストンにいても、ボストンの中だけで終わっちゃうなと思って。もともとLAに住んでて、もう1回LAに行きたいなと思っていたのと、今まで自分が聞いてきたギタリストもLAにいたギタリストが多かったので、一念発起してLAに引っ越しして。最初、仕事につなげるには知り合いを作らないといけないので、いろんなジャム・セッションに行きました。世界の音楽業界を引っ張っている人達がホストをしていたり、演奏するために遊びにきたりする環境だったので、LAってやっぱり夢が広がるなと思いました。」

レストランやバー、クラブなどさまざまな場所で繰り広げられるジャム・セッション。これがチャンスの扉でした。

 「だいたいよくある流れとしては、最初の1時間くらいハウスバンドが演奏して、そのあと楽器ごとに誰かいたら飛び入りで入って行くという感じです。だいたいそういうところでつながると電話番号とかメールアドレスを交換して、ジャム・セッション以外でも、どこどこでこういうショーがあるんだけどやってくれない?みたいな感じで使ってもらえたりするんです。そういうとこからちょっとずつ繋いでいって。日本ではバンマス、こっちではミュージックディレクター、略してMDっていうんですけど、僕の場合はその当時、チャカ・カーンのミュージックディレクターやっていた人のジャム・セッションに遊びに行って、そこで気に入られて、最終的にはチャカ・カーンのツアーに使ってもらえたという流れもありました。」

2011年、チャカ・カーンのバンドに参加。最初の仕事はこんな風に始まりました。  

「その当時、僕がハウスバンドでジャム・セッションやってたところのベーシストがチャカ・カーンのミュージックディレクターで、彼から電話かかってきたんです。『今週末あいてるか?チャカ・カーンの仕事があるけどやるか?』って言われて。しかも、それはプリンスがLAでやるコンサートの前座。電話かかってきた時点でそのショーの3、4日くらい前で、チャカともそのショーの当日に初めて会ったって感じでした。」

ぶっつけ本番のショー。しかも、この人が急遽ゲストで登場しました。それは・・・ホイットニー・ヒューストン。

「ホイットニーはそのショーから1年未満で、次の年のあたまくらいには亡くなっちゃったと思います。そのときたまたま来てて、ほんと急に飛び入りで入ったんです。全然知らなかったですね。あと、プリンスのショーだったのでモニター環境もよくなくて、うちらは前座だったので機材も僕はプリンスの予備のアンプを使ったし、モニターは隣りにいるベーシストと共有する状態でした。僕は遠目で見ててホイットニーと気づかなくて、チャカ・カーンもホイットニーを紹介したと思うんですけど、チャカ・カーンの声もよく聞こえなくて、あとで、あれホイットニーだったんだ!って、そう言われれば、という感じでしたね。」

2013年、ギタリストの中村陽平さんはスティービー・ワンダーのバンドのオーディションに参加します。スティービーの前で演奏を披露するんですが、課題曲は意外なものでした。

「意外にトリッキーで、たぶんみんな知ってて有名なのは『Higher Ground』、あと『Send One Your Love』とか『Looking For Another Pure Love』という、スティービーのアルバム曲、どっちかと言うとマニアックでコード進行もすごくトリッキーな、あえてそういう難しい曲を選んだのかもしれないです。対応力を見るためかと思うんですが、オーディションの15分くらい前に言われて。僕の手応えはぼろかすだったなという感じで、自分ではダメだと思ったんですよね。また、うちに帰って一から練習して頑張ろうと思っていたんですけど、翌日くらいに電話が来て、『もう一回来て、弾いて。』と呼ばれたんです。」

スティービー・ワンダーのバンドでギタリストの座をつかんだ中村陽平さん。一緒に演奏するなかで、スティービーについて強く感じていることがあります。

「音楽への愛情もそうですし、自分の影響力が大きいというのも分かっているので、ほんとにいま世界中、戦争がなくならないことや人種差別、そういうことについて憂いていて、そういうことについてのメッセージはショーのときに必ず言います。音楽をつかって世界を変えていこうと本気で突き進んでいる人で、よりよい世界にしていこうという気持ちだったり、実際、そういうメッセージの曲を作って人の心を打ってきたというのを目の当たりにしてきました。そういうとこへの僕なりのリスペクトだったり、そういう気持ちで、よりよい音楽を作るだけではなくて、世界を変えていこうみたいな気持ちにも共感というか、心を打たれたところがあります。」

スティービー・ワンダーは、音楽で世界を変えようと突き進んでいる。スティービーの想いも胸にきざみ、ギタリスト、中村陽平さんの音楽による挑戦は続きます。