新鮮な魚を、低塩=塩分の低い調味料につけ込んで、日陰干し。遠い昔から伝わる方法で作られた"縄文干し"は福島県いわき市にある丸源水産食品の看板商品です。しかし、この"縄文干し"という干物。一時は、まったく出荷ができない状況となっていました。東日本大震災で、大きな被害を受けてしまったのです。

20170310hidden02.jpg

「中之作という隣町に冷凍庫があったんですけど、それが津波で塩水をかぶって使えなくなってしまったんです。自宅と自宅兼工場のところは大丈夫だったんですが、工場は建物が古かったので、天井が落ちたり壁がゆがんでしまったりという、そういう状況でした。」

取材にお答えいただいたのは、丸源水産食品の佐藤幹一郎さん。震災で出荷が止まってしまった"縄文干し"。その復活の物語の前に、まず佐藤さんご自身のことをうかがいました。実は、震災当時、佐藤さんは北海道にいたのです 。

横浜の専門学校を出たあと、はじめは実家の仕事をしていたんですけど、ちょっと父親と意見があわないことがあって、北海道でインテリアとか、リフォームの営業をしていたことがありました。向こうに行って10年くらい経った頃に、東日本大震災がおこったんです。震災の日は事務所の当番だったので、パソコンで見積りを作っていて、社長が『テレビつけてみろ』と。見たらもう津波の映像で、小名浜の町のところに波が押し寄せるような、そういう映像をいきなり見た、という感じでした。」

ご自宅と工場も一部ダメージを受けましたが、ご家族は無事。しかし、冷凍庫が塩水をかぶり使えなくなってしまったため冷凍ができなくなった大量の干物は、被災したみなさんに無償で配られました。そして、その年の暮れ・・・

「その年の12月末にうちの父親が亡くなって、この実家には母親がひとりで暮らすようになりました。母も若くはないので心配になってきて、それで3年前に帰ってきたんです。母親が心配だったというのはもちろんあったんですけど、工場とかもぼろぼろでどうしようかな、と思っていたところだったので、それで帰ってきたという感じです。」

佐藤幹一郎さんは、北海道でたずさわっていたインテリアの仕事をやめいわきに戻ることを決意。3年前の秋、故郷へ帰ってきたのです。北海道から故郷いわきへ戻って来た幹一郎さんですが、当初は、中断していた家業を再開させるのではなくいわきで別の仕事をされていました。

「まずは干物を製造というよりも、食っていかなきゃいけないというのがあったので、いわき市内の会社に勤めたんです。ただ、実家で暮らしていると、昔のお客さんから『あれ?まだ干物やってないの、いつごろだったら大丈夫?』というような電話を結構受けたりして。それで、縄文干しを作っていったほうがいいなということで、まずは工場をなおすところから手をつけていきました。たまたま会社に勤めていたときに、加工組合から『補助金の制度があるから利用したほうがいいよ。』と言っていただいたので、その手続きをして、あとは原料。もちろん、今、試験操業という形で魚はあがっていますが、昔のように、ばんばん船で港に水揚げして私たちが加工する、という形ではできないので、中央市場から魚を買って、なんとか作っていけそうなめどがたってきて。それで、これは再開できるな、ということになりました。」

20170310hidden04.jpg

去年の6月、工場の改修が完了。問題は、原料にする『魚』でした。

「まだ試験操業で、水曜日と木曜日にあがった魚の放射能の検査をして、それでオッケーが出たものだけが中央市場とかそういうところに出されて、それを私たちが買うという形になっています。いまのところ量が出るわけではないので、少しずつ、いいものを作っていくしかないのかなと。ほんとは福島のものを使いたいんですがなかなか難しいので、福島県の試験操業があったときはそちらを買って、それ以外は、中央卸売り市場に出ている宮城とか茨城のものを買っています。近県の魚ですね。」

本格的に 作業が再開したのは、去年の秋。幹一郎さんと奥様、そしてお母様の3人で干物の製造を再開。およそ5年ぶりに"縄文干し"が復活したのです。佐藤幹一郎さんは、最後に、こんなことを話してくださいました。

20170310hidden03.jpg

父親がいろんなパイプを作っていてくれたんです。私が仕事をしていても、『あの親父の息子なんだな』ということで話が通じるので、非常に助かっているというか。原料を買う時も、中央市場の仲買の人や市場の仕入れ担当の人と面識がなかったんですが、そういう人からも『始まるんだったら、ああしなこうしな』とアドバイスをいただいたり。」

20170310hidden01.jpg

一度は途絶えかけた 丸源水産食品。北海道にいた息子が故郷に戻り、亡き父の想いを引き継ぎました。魚をひらき、味付けをし、日陰で風にあてて乾かす、"縄文干し"。控えめでやさしい味の向こうには、福島県いわき市の、ある家族の物語がありました。

日本橋ふくしま館 M I D E T T Eの櫻田武さんにご紹介いただき、取材をさせていただいたんですが、日本橋ふくしま館には、まだ「縄文干し」はありません。まもなく、早ければ4月ごろには入荷できそう、というお話でしたのでもう少々お待ちください。

ただ、直接、丸源水産食品に ご注文いただくこともできます。電話番号を、番組サイトに掲載しますので、興味をお持ちになった方はそちらからご注文ください。

ちなみに、『6品のセット』ですと、例えば、「アコウダイ、とろさば、やりいか、肉持ちかれい、しまほっけ、めひかり」こうしたものが詰め合わされていて、お値段3000円+送料。日持ちは、冷凍すれば、60日間、大丈夫です!

  • 縄文干しについてやお問合わせなど、詳しくは丸源水産食品のウェブサイトをご確認ください。

    丸源水産食品

    〒970-0311
    福島県いわき市江名字北口339
    TEL. 0246-55-7313
    FAX. 0246-38-7900