4年間。音楽シーンにおいては、とても長い空白でした。もちろん、単なる空白だったわけではありません。ベストアルバムも出ました。47都道府県ツアーも、908フェスもありました。音楽劇『最高はひとつじゃない』、宮本亜門さん演出の舞台『SUPERLOSERS』。数々のパフォーマンスを披露してきたKREVAさん。

でも。
前のアルバムから"4年"です。しかも、レコード会社を移籍しました。久しぶり。そして、環境も一新。そんな状況で届いたKREVAさんのニューアルバム。タイトルが衝撃です。『嘘と煩悩』

「嘘800と煩悩108を足すと、908になって、クレバ=俺、っていうのは何年も前から思いついていたアイディアだったんですけど、今じゃないな、いつか出してやろうと思っていたんです。この移籍という、あらためていくぞっていうタイミングで、ひっかかりのあるタイトルがいいなと思ったときに、じゃあ『嘘と煩悩』はぴったりだなと思って、ここで出しました。
13~14年前に出したデビューアルバムは『新人クレバ』っていうタイトルで、そこから新人がとれて『クレバ』っていうタイトルでもよかったかもしれない。でもそれよりは、『嘘と煩悩』でイコールKREVAっていうほうが自分らしいのかなと思っています。
アルバムをこのタイトルにしようと決めてから、頭の中で鳴っている、俺の中の『嘘と煩悩』を形にして1曲目の『嘘と煩悩』をつくりました。普段あまり並ばない二つが並んでいると、フレッシュな聞き心地というかね、嘘と煩悩って一回聴くとセットで並びそうな言葉なんですけど、あんまり並んで使うことはないと思うので。」
デビューアルバムの『新人クレバ』から"新人"をとってセルフタイトルでもよかった。つまり、これはKREVAさんの、いわば2度目のデビュー作。アイディアが一気に注ぎこまれました。当然、"音"も ベスト・オブ・ベスト。
「他の曲は全部、古くは2011年くらいから作りためてたトラックの中からお気に入りをピックアップしていったんですけど、この1曲目の『嘘と煩悩』については、頭の中で鳴っていた音を形にするというか、『♪嘘と煩悩、嘘と煩悩、嘘と煩悩』ってずっと言ってるのが聞こえてて、その嘘と煩悩がかっこよくのる音を頭の中で思い描いて、それをひとつひとつ形にしていった感じです。」
2011年から作りためていた中から、最高のトラックが選ばれました。そして、KREVAさんはこう語っています。頭の中で、音が、言葉が、鳴っていた。
「モノを作ってる人や、スポーツ選手でもあるのかな。何やっても当たる年に一度の神モードみたいなのがあると思うんですけど、それを歌詞にした感じです。でも俺は神モードじゃないときにも、『♪神の領域、神の領域』っていうのが聞こえてて、それを形にした感じですね。神の領域は、今までも作ってきたラップの技を存分に見せるといいますか、ラップのことが詳しく分からない人も、なんかこれすごいなと思わせるような、大技の部類に入る曲だと思います。」
KREVAさんのニューアルバム、『嘘と煩悩』。音づくりの変化も感じられます。特にシンセサイザーの音は、クールで、ときにダーク。このサウンドについても教えていただきました。
「面白いと思えたら、パソコンのなかに元から入っている音でも、インターネット上で無料で配っている音でも、何でも使いました。昔は、いい音を作ったり探したり選んだりするのにものすごく時間がかかったと思うんです。でも、今は最初からシンセサイザーなりパソコンの中に内蔵されているものに、クールなものが増えてきていたので、それがいいと思ったら、何であろうが迷いなく使って、自分の形にはめていくといことをやりました。前のアルバム『SPACE』のときは、シンセサイザーを激しく鳴らしたいなと思ってやってたんですけど、今回はちょっと控えめ、控えめというとちょっと違うんですけど、トラックになじむものが多いかもしれません。最初はもう少しゆったりとしたというか、静かな雰囲気をまとまった作品にしようと思っていて、『FRESH MODE』という曲がアルバムの5曲目に入っているんですけど、その曲みたいなちょっとグレーな感じといいますか、そういう曲をたくさん作っていたんです。それを集めたアルバムにしようかなと思っていたんですね。でも、レーベルを移籍してもう1回売り出していきましょうっていうときに、それじゃないなと思って。」
アルバムの4曲目は、AKLOさんをフィーチャーした『想い出の向こう側』。
「AKLOのやつについては、『♪想い出の向こう側』っていうのが言葉とメロディがついて出てきて、なんだ想い出の向こう側って?って。(笑)そもそも想い出の向こう側なんてあるのかなと考えていたんですけど、そんな中で『昔聞いてました』みたいな昔の話が増えて、『今もかっこいいんで、聞いてくださいね』というのが何回かあったんです。その時に、その人が持っている想い出の向こう側というか、今、かっこいいことできてるから聞かせたいなと思って、この曲のテーマとかガッとできたんです。」
ニューアルバム『嘘と煩悩』。実は、最初にできた曲は、ボーナストラックを除くとアルバムのラストとなる『もう逢いたくて』。
「最初にできた曲は、2015の12月くらいですかね、『もう逢いたくて』って曲です。一番気に入ってたトラックで。バックトラックが持ってる音がそういう風に聞こえてくるというか、響きを持ってるというか。『♪逢いたくて逢いたくて』っていうのが聞こえてました。で、"逢いたくて逢いたくて"ってどういう状況かなと。今回のアルバムの裏テーマみたいなもので、ライヴ会場に来てくれた人が、"これ、俺の歌じゃない?私の歌じゃない?"と思ってもらえるものにしたくて。ライヴ終わってないんだけど、もう次のライヴに行きたくなってる気持ちを恋愛に例えて曲にしました。これ、2015年の年末だったかな。ひとりで作ってました。(笑)」
ライヴに来てくれた人の気持ちを恋愛に例えて曲にした、という『もう逢いたくて』。しかし、これはKREVAさん自身の、リスナーへの気持ちに思えます。そして、音楽づくりにかける熱い想いをうかがっているとこの曲はまた、違って響きます。『もう逢いたくて』で、KREVAさんが逢いたいのは・・・新しい音楽。
「自分が考える音楽業界のトライアングルというか、ピラミッドの三角の上のほうに入れる人というのは、安定して同じような曲を届けられる人たちだと思うんです。自分は、ヒップホップっていう音楽の特性もあると思うんですけど、常に裏をかいていきたいというか、フレッシュな面を見せていきたい。こいつ今度はこうきたか、今度はこういう感じなんだ、というのがいい方の裏切りになってくれたらいいなと思います。」
守るだけじゃ、居場所は増えない。常に、裏切りと驚きを。あふれでる創作意欲、かつてないほどフレッシュモード。ドクターKが、音楽シーンの真ん中に帰ってきました。