渋谷区の神山町にあるサンドイッチとコーヒーのお店"CAMELBACK"。

お店を立ち上げた鈴木啓太郎さんと成瀬隼人さんは高校時代からの親友、ということなんですが、以前はそれぞれ、別の仕事をされていました。

「成瀬:私はアメリカのお寿司屋さんで働いていて、若い頃はこれからもずっとアメリカで生きていこうと思っていました。もうしばらくお寿司屋さんで働いて、40歳くらいになったら自分のお店をつくろう。それもお寿司屋さんじゃなくて、サンドイッチ屋をやろうと思っていたんです。でもあと15年くらいはお寿司をやるわけですから、きちんとした日本のお寿司を勉強しようと思って東京に戻ってきました。
鈴木:私は商社で営業をしたんですけども、入社して5年くらい営業をして、ちょっと天狗になっていたんですね。もっとできるだろうと思って転職をして、失敗してしまって。蓄えがあったので、少し自然のなかですごそうと、そのころ自分はサーフィンにはまっていまして、波乗り三昧を繰り返していました。その時にアウトドアのメーカーと出会い、そこで働かせてもらって接客をしていたときに、あるコーヒー屋さんのオーナーさんから、『うちで働いてみないか?』とお誘いを受けて、コーヒーの業界に入っていきました。」
成瀬さんは、アメリカと日本のお寿司屋さんで働き、いずれはアメリカで、お寿司ではなく、よりアメリカの人に親しみのある"サンドイッチ屋さん"をやろうと思っていました。一方、鈴木さんは、商社からアウトドアメーカー、そしてコーヒーの業界に足を踏み入れ、コーヒーの魅力にのめり込んでいました。別の道を歩んでいたふたり。一緒にお店をやろうと思ったのは、どんなことがきっかけだったのでしょうか?
「成瀬:ふたりともいい悪いは別にして、途中でドロップアウトして自分の道を探しながらやってきた人生でした。年齢的に30を越えて、まわりのきちんと積み上げている人は、だんだん形になり始めていて、そういうのを見て焦り始めていた時期だと思うんです。でも、ひとりで何かをやるというのは、ものすごい準備と
労力が必要ですから、ふたりで力をあわせて、とにかくそこに追いつきたいというか。」
成瀬さんと鈴木さんは、こう考えました。まずは、これまで自分たちがやってきたことを形にすること。そして、ふたりでできることをやろう。この条件を突き詰め、物件を探しました。そして見つかったのが、今の場所。
「鈴木:ふたりとも若い頃、渋谷に遊びに行く時に車でこのお店の前の通り、東急本店通り、神山通りっていうんですけど、この道を通って遊びに行っていたんです。なので、このエリアはよく通っていて、なんとなくワクワクするというか、だんだん車の音楽のヴォリュームがあがるエリアだったので、このあたりでできたらいいね、という話はしていて。昔から続いている商店街もありますし、新旧おりまぜて可能性のあるエリアだね、と。1年くらいたったときに、地元の不動産屋さんから『こんな物件出てきましたよ』って教えてもらったのがほんとにばっちりで。狭くて間口が広い物件をさがしていたんですけど、そういう物件というのはなかなかなくて。
成瀬:ふんわり、というか、ちょっと入ってみようかなという感覚でふらっと入ってきてほしいんです。そういうきにお店が奥に深くて扉で中が見えないのは、初めての方にとってその一枚のドアの重みが重すぎて。なので、ガラス張りで中がよく見えて、広くて明るくてというほうが、中の様子もきちんと見えるし、入りやすいだろう思ったんです。」
大家さんを口説いて、人気の物件と何とか契約。サンドイッチとコーヒーの店"CAMELBACK"。ふたりの青年の挑戦が始まりました。人気メニューは、お寿司屋さんで働いていた成瀬隼人さんが作る『すしやの玉子サンド』。
「成瀬:最初はないメニューだったんです。創業当初はバケットに特化して、堅いハードなフランスパンでサンドイッチを作って、付け合わせで玉子焼きを付けていたんです。その玉子焼きをパンにはさんでみよう、ということで、はさんで食べてみて、これは美味しいと。何とか商品化できれば喜んでくれるお客さんがいっぱいいるし、私のやってきたことも形になるし、ということでメニューに入れました。」
一日に使う卵は、54個。これをおよそ2時間をかけて、玉子焼きにします。お寿司屋さんで教わったそのままの方法で、きれいに焼き上げるのです。焼き上がった玉子焼きをパンにはさんで完成する『すしやの玉子サンド』。コーヒーご担当、鈴木啓太郎さんのおすすめ、『ブラック・コーヒー』と一緒にどうぞ。最後に、うかがいました。"CAMELBACK"をオープンして、2年と少し。街とのつながり、どんなことを感じていますか?
「成瀬:一番といっていいくらいお世話になっている、この神山の商店会長の魚屋さんの次男の方がいらっしゃるんですけど、きょうも実は"あん肝"をお願いして、築地であん肝を買って来ていただいてサンドイッチ用に仕込んだんです。昔ながらの商店街が生きていて、横のつながりというか、顔を見れば挨拶するし、珍しいものがあればお裾分けに行ってとかいうような。
鈴木:僕らのひとつのコンセプトに"挨拶"があって、前を通る小学生だったりとか、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん、犬の散歩をしている方、基本必ず挨拶をするんです。そうすると、みなさんだんだん挨拶をしていってくれるようになって、我々もこの地域の仲間に入れていただいているという実感を持てています。ふだん開けっ放しなので、『おはようございます』とか『お帰りなさい』というとちゃんと聞こえますし。『ただいま』『おかえり』っていうような、それが本当に楽しいですね。」
間口が広く、奥が浅い。そういうお店のつくりが、"挨拶"に向いていました。『いってらっしゃい』『おかえりなさい』、『いってきます』『ただいま』。ひとつひとつの挨拶が、街を明るくしていきます。そして、人と人のつながりは、街にぬくもりを生み出しています。サンドイッチとコーヒーと、挨拶と。東京の片隅で、素敵なお店がきょうも営業中です。

- CAMELBACK sandwich & espresso
- 住所:東京都渋谷区神山町42-2
- 営業時間:午前10時~午後7時 (月曜日定休)
- アクセス:東京メトロ千代田線 代々木公園駅から徒歩8分

「成瀬:最初はないメニューだったんです。創業当初はバケットに特化して、堅いハードなフランスパンでサンドイッチを作って、付け合わせで玉子焼きを付けていたんです。その玉子焼きをパンにはさんでみよう、ということで、はさんで食べてみて、これは美味しいと。何とか商品化できれば喜んでくれるお客さんがいっぱいいるし、私のやってきたことも形になるし、ということでメニューに入れました。」