新年は七福神めぐりでにぎわう東京・日本橋。この場所に、実に364年前から、江戸幕府でいうと4代将軍、徳川家綱の時代から息づく "和紙"のお店があります。それが『小津和紙』。

「創業は1653年で、いまから364年も前からこの地で紙問屋として仕事をさせていただいております。卸商がもともとの発祥ですから、小売店相手の商売が多かったと聞いております。江戸の中期以降から松坂木綿というものを販売するようになりました。もともと、小津清左衛門という者が松坂から江戸に奉公人としてやってきまして、紙問屋を営むようになったんです。昔の豪商たちというのは、江戸店は番頭以下、奉公人に任せてオーナーのトップは自分の故郷に帰り、そこを本家としておりました。ですから松坂に本家があり、そこから江戸に向かって指示の飛脚が走ってきて、江戸店からはおうかがいの飛脚が走ってくる、そういう時代だったんです。当時は片道5日間かかっていたので、即答しても10日後にしか返事が聞けないという、そういう時代でした。」

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歴史をひもといてくれたのは、小津和紙の高木清さん。現在の小津和紙で"手すき和紙体験"の講師をつとめるなど、和紙の素晴らしさを伝えるプロフェッショナルです。高木さんが、これはぜひ見てほしい、というのが小津和紙の2階に飾られた大きな絵。

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「エレベーターで2階に上がると、正面に日本画があります。この日本画の原紙はワンシートでつなぎ目のない手すき和紙なんですが、6畳くらいの面積があります。1969年に日本の政府が日本中の和紙の里=和紙の産地に『世界一大きい手すきの和紙を作ってほしい』と募集をかけて、そのときに手をあげたのが鳥取県にある因州和紙という和紙の里。なぜ1969年に日本の政府がそういうことを言い出したかというと、翌年1970年は大阪万博第一回。そこに出品させるためだったんですね。

この大きな紙、実は世の中に出たのは10枚しかないんです。私どものお店は、10枚のうち2枚を購入しまして、1枚は1970年に児玉希望という日本画の大家である先生に、綺麗な絵をかいていただいてここに飾っております。もう1枚は、縦に向きを変えて聖徳太子の絵をかきまして、京浜東北線の王子駅にある飛鳥山公園の紙の博物館に寄付させていただきました。こないだも見てきましたが、玄関ホールにちゃんと飾られておりました。」

小津和紙、ビルの1階では"手すき和紙"の体験ができます。子どもたちはもちろん、海外からのお客さまにも人気の"手すき和紙"。こんな紙も作ることができます。

デザイン紙といいまして、例えば"落水紙"という名前のものがあります。まだ濡れてる状態のときに水槽から紙の層として出した瞬間、上から水を手ですくってぱっと落とすんです。そうすると水玉が濡れた紙に落ちてクレーターを作ってくれて、乾かすとランプシェードなんかにおしゃれな水玉模様の模様ができるんです。あとは押し花を入れちゃうとか。」

日本橋にある『小津和紙』。1階のショップでは、若い女性を中心に人気となっている商品があります。

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「私ども会社では、朱印帳のキットを販売していて、その表面材には友禅紙という紙を使用しています。友禅紙というのは、京都の着物に友禅柄というのがありますが、そこから生まれた柄を、手すき和紙、あるいは機械すき和紙にプリントしたものです。友禅紙といいますと花柄模様が中心になっていますが、なかにはまるで鎌倉彫のような柄もあります。松坂木綿柄のものもあって、松坂木綿柄というのは藍染め系の柄のことを言いうんですが、かっこいいんです。」


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藍染めの深い青と、縞模様をベースにした松坂木綿の柄。その紙を使った小物もたくさん並べられています。

筆箱、メモ、ブックカバー、カードケース、俳句帳、折り紙。いろんなものがあります。特に松坂木綿柄で鶴を折るとしぶくてかっこいいんです。だから海外の方も喜んじゃうわけです。その辺じゃ売ってない、うちオリジナルです。

私の名刺の紙ですが、いろんな産地のいろんな紙があります。印刷屋さんで活版印刷でやりますと、どこそこの大社長のような感じのすごく重厚な感じになってかっこいいです。」

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ユネスコの無形文化遺産にも登録された、『和紙』。小津和紙の高木清さんは、その魅力について、こう語ります。 

「紙質がなんといいますか、癒されるというか、ぬくもりがありますよね。例えば和紙を光にすかしてみますと、一枚一枚すべて違います。手すき和紙で一枚一枚違うわけですから、私どものお店は、同じ棚に同じ名前で置いてあっても、"すべて触って、光にすかして、そのなかで気に入ったものをレジに持って来てください"というふうにしています。和紙というのを知らない人はたくさんいると思うんです。ですから、私どもはできるだけ多くの方に和紙を知っていただきたい。そして和紙ってこんなに素晴らしいものだと気づいていただいて、趣味でもいいので何かに役立てていただけたらなと思います。」

一枚一枚、同じ紙はない。だからこそ、それぞれが輝き、ぬくもりがある。そのぬくもりを江戸時代から伝え続けるお店が、東京・日本橋でいまも営業中です。小津和紙で、まだ知らない"和紙"のいろんな面に触れてみませんか?

  • 『小津和紙』
  • 住所:東京都中央区日本橋本町3-6-2 小津本館ビル
  • 電話番号:03-3662-1184
  • 営業時間:月曜日~土曜日 午前10時~午後6時 (定休日は日曜日、年末年始)
  • アクセス:JR総武線快速「新日本橋駅」 5番出口より徒歩2分 東京メトロ銀座線・半蔵門線「三越前駅」 A6番出口より徒歩5分 東京メトロ日比谷線「小伝馬町駅」 3番出口より徒歩5分