前のアルバム『×と○と罪と』からおよそ3年。11月23日にニューアルバム『人間開花』をリリースしたロックバンド、RADWIMPS。でも、それまでの間、彼らにとって大きな出来事がありました。昨年9月、ドラムの山口智史さんが持病の悪化により、無期限の休養を発表したのです。

武田:間違いなく大きいことでしたね。デビューして10年間、桑と洋次郎はもう16年くらい。そのなかで僕的には最も大きな出来事で、ほんとにバンドが一回終わっちゃうんじゃないかと思うくらいカオスになってしまって。智史をなんとかして前に進めるように後押しができたらなと思ってずっとやってたんですけど。
野田:最後半年くらいずっと、武田がつきっきりでリハビリやってたもんね。
武田:うん。
野田:僕らも、スタッフも含めて誰ひとり冷静にいられない状態。だけど物事を決めていかなきゃいけない状況で、すごく振り切った結論を出しそうにもなりましたけど、あのときにみんなでそこをグッとこらえて、智史は無期限休養、僕らは続けよう、ツアーもやろう、という。いま振り返ってみると、ぎりぎりのところで一番冷静な結論を出せたのはよかったなと思います。」
野田洋次郎さんいわく、"バンドについて、振り切った結論を出しそうになった"つまり、バンドを続けられるかどうかぎりぎりの状況。そんななか、新しい音楽づくりへどうやって動き出したのか?あの作品が助けとなったのです。
野田:そんな状況だったから、オリジナルでアルバムをつくろう、という入り口だと相当ハードルが高かった。やっぱり『君の名は。』っていう作品をとにかく進めなきゃいけないという事実が、逆に励みというか助けになりましたね。スタジオに入んなきゃいけなかったし、締め切りというか期限もあったし、映画の公開があるのも分かってたし。音楽を制作するモードに入れて、それはよかったと思います。対バンツアーが終わったら余計にもうこっちに向かうしかないというか、監督とのやりとりが激化していくゾーンに入っていったので、そこからはもうすっとそっちに持っていかれたよね。桑もイライラしていたのが、監督へのイライラに変わってきてね。(笑)
桑原:僕たちも個人で担当しているパートがあるんですけど、それをつくって洋次郎と武田に聞かせて、『いいね。』って。じゃあ監督とかプロデューサーに聞かせてみようってなったら、『ゼロからつくってください。』みたいな返事で、『おっと。』みたいな。(笑)
野田:しかも注文どおりつくったんだよね、桑は。
桑原:そうなんですよ。最終的にいいものができたからいいんですけど。
サウンドトラックには、MOVIE VERSIONが収録された『前前前世』。アルバムでは、歌詞が追加。その追加された部分にもある"わたしたち"という言葉がアルバムを通して聞こえてきます。野田洋次郎さんに質問。"わたしたち"に込めたのはどんな想いですか?
野田:無意識ですね、たぶん。でも、そっちに向いていっていたんだと思います。今までのアルバムに比べたら、一番ひとりではない感じというか、対象がいるし、ぼんやりだけど聞く人もどこかに見えてた気がするし。今まではどれだけひとりぼっちで曲をつくれるかみたいな、そこから何が生まれるかみたいなところが大きかったんだけど、このアルバムはやっぱり他者がいて成立する曲が多いと思います。」
『ロックバンドなんてもんを やっていてよかった』そんなフレーズが印象的な『トアルハルノヒ』。"ロックバンド"という部分を自分の仕事に置き換えれば、それぞれの人の物語が歌のなかで動き出す。そんなナンバーです。
武田:最初、洋次郎が弾き語りでこの曲を聞かせてくれたんですけど、今の洋次郎からこんな言葉が出てきて、一緒にバンドをやっている人間としては嬉しかったです。
桑原:その歌詞の力につられてアレンジもすらすらできたなと思いました。
野田:やっぱり音楽ずっとやってて、10年とかた経って。僕らは引きこもりバンドでもあるので、ずっと小さな部屋で音楽をつくって、ほんとに世界が、空気が止まってる感じがあって。だけどある日突然、ふとしたときに『ファンでした。』という人が現れて、『小学校から聞いてます。』とか『中学のときのバイブルです。』とか言ってくれる人がいて。その人のなかに少なからぬ僕らの要素というか、ちょっとした遺伝子というか、その人の行動だったり言葉がちょっとでも変わってたりするんだと思うとすごく、すごく感動してしまって。普段、働いている人たちってそんなにたくさんの人たちに見てもらえてないじゃないですか。自分がどれだけ頑張ったかとか、自分の中でガッツポーズできるタイミングがいっぱいあると思うけど、そこに観客がいるわけじゃない。自分のやってる仕事とか、そこに戻ってこの曲が響くなら、余計嬉しいですね。
アルバム終盤には、映画『君の名は。』でも使われた『スパークル』のオリジナル・ヴァージョン。
野田:実はこの曲は、『君の名は。』のお話をいただく前から原形があった曲で。あのピアノの旋律と頭の歌詞はあって、武田も『これ曲にしたい。』って言ってたんだよね。
武田:イントロのピアノとかがすごい好きで、さりげなくスタジオで弾いているんだけど、いいな~と思ってうっとりしてました。
野田:イントロ、Aメロ、その先をどうするのかっていうのがなかなか決まらなくて。すごく美しい物語になるのは想像できたけど、それを狭めたくないなと思ってずっときっかけを探していたところに、『君の名は。』に出会って。この映画に引っ張られてできた部分もあって、この機会がなかったら曲にならなかったんだろうなと思います。
メジャーデビュー10周年の年におとずれたバンド最大のピンチ。そこに現れた救世主は、『君の名は。』でした。そして その恋の物語が、"野田洋次郎"と響き合い、胸の奥にまっすぐ届くラヴソングが生まれたのです。
野田:最近あんまりラヴソングをつくってなかったというか、直球なラヴソングをつくれてなかったなと思ったので、それはすごく大きなことでした。機会を与えてくれたというか、僕のなかにある恋愛の感情もすごく引き出されたし。『君の名は。』に連れてってもらったのはすごくあると思うし、ここ数年ほんとにずっと歌ってこなかったので。わかりやすく恋の響き、恋愛っていうものについては久しぶりだったよね。
桑原:久しぶりに洋次郎、恋愛を解禁してるって思った。
野田:解禁?封鎖してないけど。(笑)
喜びも、悲しみも、とまどいも、情熱も、そして恋も。今を生きるあなたの心の真ん中をいっぱいにしてくれるアルバムが届きました。
