リオ・オリンピック、卓球。

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男子シングルスで水谷隼選手が、卓球 日本男子 初の銅メダル。男子団体は銀メダルで、これも史上初。さらに、女子団体も銅メダルを獲得しました。まさに手に汗握る激闘が繰り広げられた舞台"卓球台"を作ったのは千葉県流山市に本社がある、株式会社 三英。まずは開発のスタートについて、事業本部の栗本典之さんにお話をうかがいました。

最初、社内で開発がスタートしたのはロンドン五輪に向けてでしたので、今から5年前です。でも、残念ながらロンドンはダメだったので、引き続きリオに向けてということになりました。」

開発が始まったのは2011年。東日本大震災のあった年でした。地震の前日、3月10日。三英のスタッフは宮城県の石巻市にいました。

10日に我々の卓球台を石巻の体育館に納品したんです。そして、仙台に戻った日に震災ということになってしまいました。石巻の体育館は無事だったので、納品したものは無事に保管されていたんですが、そこが避難場所だったので、ぐしゃぐしゃになっていたという風には聞いています。

ロンドンに向けての開発はダメでしたが、東日本大震災もあったので、何かできないかということでデザインも変わってきて。木製のものを作りたい、というのは最初からあったので、今回は岩手のブナ材を使っているんですけども、震災復興のために木材はそれを使いたいという風に思って、リオの卓球台ができあがりました。」

卓球台の『脚』の部分に、東北の木を使おう。しかし、脚に『木』を使用するのは、非常にまれなことだったのです。

「昔は非常に簡単な木製の脚だったんですけども、最近では木はほぼ使われていません。木を使うと"揺れ"が起きますので、卓球台の脚としてはデザイン的に非常に難しいものがありますしコストも高いので、なかなか木材を使用することはないと思います。」

木を使うと、卓球台に揺れが起きやすい。しかも、コストが高い。そんな状況のなか、なぜ、木材にこだわったのでしょうか?

やはりブラジルっていうところを考えますと、日本からの移民の方で一番流行ったのは卓球だったそうです。そこで、日本らしさを強調するとなると、和のテイストとなるのは木材じゃないかなというところもあったみたいです。今でもブラジルでは卓球をやられている方が多いですね。2世3世の方の人口は結構あるように聞いてます。」

木を使用した卓球台。脚の部分のデザインは、ソニーのウォークマンのデザインも手がけたプロダクトデザイナー、澄川伸一さんが担当されました。

最初にあがったデザインは、今のものに比べて華奢でした。ちょっと触ると結構揺れがあったので、その辺は苦労して脚の部分を太くしたり、中に鉄の枠を入れたり。ちょうど天板の下あたりの見えない部分に入っていて、それで何とか揺れを止めています。脚は、初期のモデルより20ミリくらい太くなっていますね。」

山形県の天童木工の協力も得て脚の部分が作られました。そして、ボールが行き交う天板の部分には、株式会社 三英の技術がいきています。

ITTF基準というのがございまして、卓球台の天板の板面のへこみや凹凸が3ミリ以内でなければならないという基準なんですが、リオのものはこれをほぼゼロ、ほとんど平らな状況にして持って行ってます。現地でも調べましたが、完璧な状態だったと聞いています。要は木というのは呼吸をしていますので、一枚板だと必ず湿気を吸ってどんどん反ってくるんです。中の芯材の組み合わせがうちの特許なんですが、集成材を組み合わせてプレスして一枚の天板ができあがっているので、少し時間がたってもソリが出てこないように工夫をしております。」

パラリンピックの戦いは続きますが、株式会社 三英 の栗本典之さんにひとまず、リオ・オリンピックを振り返っていただきました。

選手からクレームがこない卓球台を最後まで提供できるのが一番だと思います。みんな同じ条件でプレーされますので、それがところにより条件が変わるというのが我々が一番危惧することです。"どこどこでバウンドが変わりました"というようなクレームもなく無事終了できたこと、そしてメダルがとれたのは一番だと思っております。こういうきれいな台、どこにもないような台がみなさんに認められた、というのが嬉しかったです。」

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ちなみに、今回の卓球台の名前は"インフィニティ"。天板の色は、青と緑の中間、"レジュブルー"。フランス語で『青い瞳』を意味する新しい色でした。鮮やかでありつつ、目にやさしく、競技が見やすい色。それを支える脚の部分は、東日本大震災の被災地・岩手のブナを使い、その曲線は、山形の天童木工が美しく作り上げました。情熱が交差する卓球台。その裏には、職人さんたちの知られざる物語がありました。この卓球台"インフィニティ"は、現在開催中のリオ・パラリンピックでも見ることができます!選手を応援しながらぜひ、卓球台にも注目してみてください!