3年に一度、瀬戸内海の島々にアートがあふれる『瀬戸内国際芸術祭』。今年が3回目の開催です。この芸術祭、そもそもの始まりについて、瀬戸内国際芸術祭 実行委員会の今瀧哲之さんに教えていただきました。
「もともとのきっかけは、みなさんご存知のアートの島、直島というところで30年ほど前に今の芸術祭の総合プロデューサーをやっている福武總一郎がアートプロジェクトを始めました。それが非常に評判を呼んで、地域再生の活動としても根付いてきたので、それを直島以外の島、今回は12の島が会場になっておりますが、それに広げて芸術祭を始めたいということで、2010年から今の形でスタートしております。直島のアートでおじいさん、おばあさんも含めて島のみんなが元気になる。それを瀬戸内のいろんな島にも広げたいなということで、始まりました。」
2010年、第一回の『瀬戸内国際芸術祭』は7つの島と高松港周辺を舞台に7月から10月にかけて開催。およそ93万人が来場し、海外のメディアにも取り上げられるなどいきなり大きな反響がありました。この成功を受けて2013年、芸術祭はさらに加速していきます。
「2回目から会場が7つの島から12の島に広がったこと、そして会期については春夏秋に約1ヶ月ほどの3シーズン制をしいて、それぞれの島にあったシーズンをご覧いただくということが大きく変わった点です。シーズンに分けた理由は、瀬戸内の島と言ってもそれぞれの島に個性がありまして、例えば桜で有名な島だと春がいいとか、海水浴でにぎわう島だと夏がいいですとか、秋のお祭りがとてもにぎやかな島だと秋がいいよねとか。島にあったシーズンがあるので、それぞれ一番いいときに作品を見てもらいたい、ということでシーズン制をしいております。」
今はまさに、瀬戸内国際芸術祭2016、夏の会期の真っ最中。今回の見所を、実行委員会の今瀧哲之さんにうかがいました。

「1点目が"食"、食べ物ですね。せっかく芸術祭に来ていただくので、瀬戸内や島の美味しい食材を使ったお料理をぜひ食べていただきたい。なので、それぞれの島にお食事どころを作品と一緒にその施設で提供したり、地域のお母さんと一緒に作ってみなさんに提供するなど、そういうプロジェクトを強く進めております。
もうひとつは海外との交流です。特にアジアとの交流を大きなテーマにしてやっておりまして、アジア・オセアニアの作家さんも多く招待していますし、そういった方を招いたイベントもかなり精力的に取り組んでいます。そして最後の3点目ですが、香川や瀬戸内の地域に古くからある文化をきちっとお客さまに届けたい、発信したいということで今回取り上げているもののひとつが、盆栽です。香川の高松は松の盆栽が日本のシェアの8割を占める盆栽の産地でもありますので、女木島という島に盆栽で作ったアートハウスプロジェクトを実施しています。また、香川は特に獅子舞が盛んで、県内で1000ほどの獅子舞がお祭りで披露されているんです。そういう獅子舞のパフォーマンスを要所要所のイベントで積極的に取り上げています。」

今回の芸術祭ではさまざまなアートに加え、新たなポイントとなる"食"。なかでも、特におすすめなのは・・・
「ひとつは豊島にある【島キッチン】。島のお母さんと"こえび隊"というボランティアグループと一緒に、島の食材を使ってランチを提供するとても人気のある施設があります。もうひとつは今回、女木島に新しくできました【イアラ】という、作品に併設されたレストランです。東京からプロのシェフのソウダルアさんもチーフでお迎えして、瀬戸前寿司、瀬戸内でとれるお魚を、江戸前ではなく瀬戸内風にアレンジしたランチを提供しています。今は穴子とかマナガツオとかがちょうど旬で出ています。かなり美味しいんですよ。(笑)」
瀬戸内海の12の島にアートが点在。そこに地域の文化も溶け込んでいるのがこの芸術祭の特徴です。作品の制作にも、島の人が関わっているのです。


「現代美術の場合は、作品の制作に一般の方とか住民の方が参加できるのがひとつのポイントです。芸術祭の中心をなす数多くの作品がアーティストと島の方、それを支えるボランティアの方の共同作品になっています。
そうした作品が島に入ることによってこれだけたくさんの方にお越しいただけるので、ひるがえって、その作品が地域の人の島への誇りに結びつく。『島に元気を取り戻す』というのがこのもともと芸術祭の目標なので、今少しずつそこに近づいているという状況だと思います。」
芸術祭による島の変化。実は、はっきりとあらわれている島があります。
「特に象徴的なのは、男木島という人口200人に満たない島。ここは芸術祭によって人気が高まった島で、この数年間で30人以上の方が移り住んでこられています。そして、閉鎖になっていた小中学校や保育所が実はいま復活して開校しまして、島の人口も若干ですが増え始めているというような、芸術祭の活動を象徴する島になっています。休校になった学校が島で再開するというのは、前代未聞の出来事だと思っています。
もともとのテーマが地域を元気にする、再生していくということで、当初は私自身も"本当にできるのか"と、半信半疑だったところもなかったわけではありません。でも、10年近くこの仕事に携わってきて、現代美術を使って地域が変えられる、というのを目の当たりにしてそれが確信に変わってきています。こういった瀬戸内海の誰も来なかった島に、何万人、何十万人という方がお越しいただけるとは夢にも思っていませんでしたが、それが現実のものとなって、たくさん移住者の方もお見えになっています。この活動が確信に変わったいま、これを将来にわたってどれだけ続けていけるかが我々に課せられたミッションだと思っています。」
国内のみならず、海外からも多くの人が瀬戸内にやってきます。そして、なんと移住者が増え、休校になっていた学校が再開。アートによっておだやかな瀬戸内海に、新しい風が吹いています。
3年に一度、瀬戸内海の島で開催される"瀬戸内国際芸術祭"。ただいま夏の会期の開催中です!食や地域文化も楽しめる現代アートトリップ、ぜひご堪能ください!!
瀬戸内国際芸術
会期:夏 2016年7月18日(月・祝)~2016年9月4日(日)
秋 2016年10月8日(土)~2016年11月6日(日)
アクセスやチケット情報、各島の開催期間など、詳細はウェブサイトをごらんください。