店主いわく、世界でもまれなスタイルのお店。"waltz"は、東京・中目黒の住宅街にあります。店頭にならぶカセットテープは、およそ3500本。Bon Jovi、Genesis、Alanis Morisette、Aimee Mann。EARTH,WIND&FIRE、The Isley Brothers、The S.O.S Band。Led Zeppelin、Talking Heads、U2、Massive Attack。

アルバムがカセットテープでも販売されていた時代の作品。さらに、レコード・VHS・カセットテープの再生機器なども扱う"waltz"。店主の角田太郎さんにお話をうかがいました。
「私はこのビジネスを始める前、長くAmazonジャパンに勤務しておりましたので、ずっとインターネットビジネスに関わっていたんですが、もともと自分のキャリアのスタート地点は、渋谷とか六本木にお店があった"WAVEというレコードショップ。そこでバイヤーを始めたのが最初の経験で、音楽商材を扱ったり、もしくはプライベートで収集するのが私のライフワークでした。特にカセットテープはかなり積極的に収集していましたが、実際に売っているお店が世の中にほとんどないんです。いま世界的にアナログメディアの再評価が進んでいるのにカセットテープはどこにも売っていない。一方で、私は1万を越える数のカセットテープを有していると。それならこれを使ってビジネスをやれば、私にしかできない、世界で唯一のものになるんじゃないかなと思って始めました。」
今や、見かけることのなくなったカセットテープ。角田さんは、どうやって集めたのでしょうか?
「非常に難しくて、お店にはほとんど売ってないです。それは日本でも海外でもそうです。海外でたまに見かけるのは、ジャンク品として扱われていて、お店の片隅に山積みになってゴミのように売られている。そのなかからいいものを、旅行や出張で海外に行ったときにちょこちょこと買い集めていましたが、集まってくると自分のお気に入りのものがどんどん欲しくなる。そうなると海外のコレクターとの取り引きが主になってきます。オーストラリアとかイギリス、アメリカもそうですが、世界にごついコレクターがいて、そういう方たちと情報交換しながら集めたりしていました。あとAmazonに長く勤務していたことで世界各国にネットワークを有しているので、waltzの在庫はおよそ20カ国から集まっています。」
世界から集まった、数々のカセットテープ。中には希少価値の非常に高いものもあります。さらに、すでに生産が終了しているラジカセ。一世を風靡したウォークマン。貴重なアイテムがずらり。
「僕がこのwaltzを使ってやりたいことは、価値観のリミックスです。ラジカセとかカセットテープは、一度役割を終えてなくなってしまったものだと思います。みんなCDに時代が切り替わったときにカセットを捨ててしまいました。ラジカセもそうです。ただ、それをこういう風に棚にぎゅっと凝縮してフェイスをあわせて陳列すると、アートになると思うんです。ヴィンテージのウォークマンや世界的にレアなカセットテープがショーケースに入っている。こういう絵は、これらの商材に新たな価値観を与えていると思っています。ひとつひとつの商材はレトロですが、新しい価値観を提案している、という意識で私はこのお店をやっています。」
カセットテープを中心に扱うお店、中目黒の"waltz"は、開店からもうすぐ1年。店主の角田太郎さんに、今後の展開について教えていただきました。
「やはり手頃な価格でお客さまに提供できる環境ができてこそ、はじめてカセットテープがもう一回再評価され文化になったと言えると思います。そのためにレコード会社、音楽メーカーと連係して、旧譜のアーカイブのカセット化やハードの復活も重要だと考えています。いま大手の家電メーカーはオーディオからほとんど撤退してしまって、ラジカセもウォークマンもほとんど作られていない状況にあります。カセットテープの人気が再燃しても、それを再生するものがなければ何の意味もない。なので、このwaltzという音楽発信基地を通じて、そういう音楽メーカーや家電メーカーに対していろんなことを投げかけて、文化自体を再構築していくというのが私の大きな意味での展望だと考えています。」
角田さんは、これまで数々の取材を受けてきました。ただ、『カセットテープのムーブメントが起きている』という視点については、 こんな風に感じています。
「本当はムーブメントなんて全然起きていないと思います。実際まだ売ってる店もほとんどないですし、だからうちが話題になっているんですよね。ハードもまだまだ手に入らないし、テープもうちに来ないと買えない。ただ、再評価の波は来ていると思います。最近ユニコーンがシングルをカセットで出して、その一歩は大きいなと思って。限定3000本で作ったんですけど、あっという間に市場から消えてしまいました。たぶん買った人のなかにはテープを聴けない人がたくさんいると思いますが、ただユニコーンのファンでカセットのかわいさも手伝って、これはモノで持っておきたいなと思って買った人がたくさんいたんだと思います。このユニコーンの現象がソニーの他のアーティストにも伝わって、他のメーカーにも広がっていくと思います。」
再評価の動きの背景にあるのは、どんなことなのか?カセットテープから大切な何かが見えてくる、いや、聞こえてきます。
「音楽がデジタルになってしまって、音楽が無形化してしまったじゃないですか。でも、カセットテープとかレコードを手に取ってもらうと分かると思いますが、音楽には形がある。音楽の形にもう一回気づいてほしいと思います。作っている人たちはデジタルだけで出したいと思っているはずがないんです。アーティストなので"アート"なんです、音楽って。パッケージというのはアートじゃないですか。音楽には形があるということを私は強く言いたいです。」
いつでも、どこでも、どんな音楽でも聞くことができる。これがいまの音楽ビジネスのトレンドです。しかし、角田さんはこう考えます。そんな環境が音楽の魅力を薄れさせているのではないか?中目黒の住宅街から、音楽業界、音楽文化へのメッセージ。それは、『音楽には、形がある』。
- カセットテープやラジカセの他にもレコード、VHS、雑誌のバックナンバーなども扱う"waltz"。形ある音楽は、ここにあります。

waltz
住所:〒153-0061東京都目黒区中目黒4-15-5
電話番号:03-5734-1017
営業時間:13:00~20:00(定休日:月曜日)