100年先まで、日本の味を伝えていく。昔なからの製法を守る、全国各地の食の作り手が集まりました。" 醤油・味噌 " の堀河屋野村、 " みりん " の白扇酒造、" お酢 " の飯尾醸造、 " 清酒 " の宮坂醸造、" 加賀棒茶 " の丸八製茶場、 " かまぼこ " の鈴廣かまぼこ。6軒の老舗の跡取り、つまり、若き作り手が6人。『HANDRED』というユニットを結成しました。和歌山県にある堀河屋野村の野村圭佑さんに、そもそもの始まりについて うかがいました。

「私は和歌山で三ツ星醤油という醤油を造っておりまして、醤油のセミナーなどをしてほしい、というご依頼をよくいただきます。来ていただくお客さんはもちろん、醤油に興味のある方ばかりです。それはそれですごく有意義な時間なんですが、『あれ?』と。醤油に興味のない人に対しては何もできていないな、と思ったんです。ある時、たまたまあるお客さんの冷蔵庫を見せていただく機会があって、醤油は私の三ツ星醤油を使っていただいている。その隣にはみりん・お酢・料理酒・お酒、そして食材がありという、私が食卓で使っているものとまったく同じだったんです。そのお客さんの選ぶ基準が非常に参考になりまして、クラフトマンシップや伝統、無添加など、いろいろな要素がありました。
そこで、これはただ『醤油』と言っていても裾野が広がらない。私はいま35歳で蔵に戻ってから5年目ですが、私と同じような環境の次世代の方がいらっしゃるはずなので、そういう方々にこの想いをぶつけられないかなと思って、ひとりひとりそういう話をしていった中で、『ユニットでやりましょうか』ということになりました。」

今回、取材にお答えいただいた堀河屋野村の野村さん。そして、白扇酒造の加藤祐基さんにそれぞれのお店のことを教えていただきました。まずは、堀河屋野村のお話から。
「和歌山県御坊市というところで味噌と醤油の製造をしておりまして、私たちが作る味噌のメインは"徑山寺味噌"という食べるお味噌です。この徑山寺味噌というのは、鎌倉時代に高野山のお坊さんが宗に渡って、徑山寺というところで禅の修行をしながら、徑山寺味噌味噌の製法を教えてもらった。そして、戻ってきたお坊さんがお寺にその製法を伝えて、紀州では名物として伝わってきたと。徑山寺味噌は日本で醤油のルーツだと言われています。徑山寺味噌をつくるときの上澄み液がなめてみたら美味しいということで、今の日本の醤油が生まれたということです。」
つづいて、白扇酒造は どんなお店なのかというと?
「岐阜県川辺町という小さい町で、昔ながらの伝統的な本みりんを製造しております。"福来純三年熟成本みりん"というみりんを作っていますが、いま伝統的なみりんというのは、みりんと呼ばれる全体の2~3%しかありません。なぜかというと、みりんは餅米と米麹と米焼酎を使うんですが、戦後、お米をたくさん使うという理由でみりんの製造が禁止されました。みりんの製造が禁止されると、まがいものというか、伸ばしたようなみりんが出てきまして。いま世の中に出ているみりんは、みりん風調味料や発酵調味料が多いなかで細々と伝統的なみりんを作っています。(加藤さん)」
ユニットの名前、『HANDRED』。スペルは、手を意味する『HAND』に、赤の『RED』でハンドレッド。そこに込められた想いとは?
「これは、鈴廣かまぼこの鈴木さんが命名しました。ハンドレッドは百ですよね。百なんですが、『HU』ではなく『HA』となっている。『HAND』手づくりであるということと、『RED』は自分たちで言うのも変ですが、"絶滅危惧的な存在になりつつある日本のものづくり"ということを意味しています。手づくりを大事にしている、そういうものを継承する我々が、100年先に向けてどのような食を提案していくか、楽しさを伝えていけるのか。これは単品の醤油やお酢、みりんという話ではなく、食卓文化そのものを作り手としてどう次世代につないでいけるのか、ということで『HANDRED』という名前にしています。
こういう伝統食材をつなげていっている人は日本にそんなに多くないんです。だから会うべくしてあった6人という感じです。(野村さん)」
日本の食文化を継承する作り手6人のユニット『HANDRED』。最初のイベントは、都内のオーガニックレストランで開催した手巻き寿司パーティでした。
「赤坂にあるbojiさんというオーガニックレストランで、富士酢の飯尾さんがよく手巻き寿司パーティをやってらっしゃるんです。それに相乗りさせていただいて、その具材でみりんや醤油、かまぼこやお茶を使った何か、そして日本酒が飲める、というイベントをやりました。(加藤さん)
お客さまにとってもひとつひとつのモノについて、その作り手と話す機会ってあるようでないんです。(野村さん)
話しているだけだとなかなか分からないので、楽しい環境のなかで体験しながら、いい調味料やお茶、かまぼこを伝えられたら、ということで第一回目は始めました。(加藤さん)」
最後にお話いただいたのは、『HANDRED』の活動で伝えていきたいこと。白扇酒造の加藤さんは、食材を買い物に行ったときの経験をきっかけにこんなことを感じています。
「何を見ても入っているんです、添加物が。便利さという意味ではこれでいいのかもしれないけれど、このまま続けていったときに日本はどうなるのかなと最近感じるところがあるので、小さい力ですが何かできたら、と考えてます。
子どもたちに安心安全なモノを食べてもらいたい。舌が5歳くらいまでにつくられる、と言われているなかで、調味料とかお茶やかまぼこもそうですが、すごく大切なところだと思っているので、小さいお子さまに本物の味を知ってもらう活動もできたらな、と思っています。(加藤さん)」
そして、野村さんが考える"食卓"とは。
「僕はお酒が好きです。料理や酒器とかでもお酒の味は変わりますが、もっとも変わるのは何かというと、一緒にいる相手です。それがまさに食卓。食を集って食べる楽しさというのがちょっと欠けているのかなと思うんです。月に1回でも、家族とか仲間と食卓を囲んで、楽しく思い出をつくっていけば、豊かな食文化が続いていくんじゃないかと信じています。(野村さん)」

さまざまな食材をつなぐ調味料のように、食卓を囲む人と人をつなぎたいそれは時を越え、昔ながらのものづくりを未来へ伝えること。『HANDRED』の挑戦は続きます。
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