『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『ウォーリー』『カールじいさんの空飛ぶ家』『インサイド・ヘッド』、そして最新作『アーロと少年』。

20160325hidden01.jpg

ボブ・ポーリー|≪ウッディとバズ≫|『トイ・ストーリー』(1995年)|複製(マーカー、鉛筆/紙)|©Disney/Pixar

これらを手がけてきたのは、1986年、アメリカのカリフォルニアで生まれたピクサー・アニメーション・スタジオです。その、スタジオ設立30周年を記念した展覧会が東京都現代美術館で開催されています。全体の企画と構成を担当されたキーパーソン、渡辺浩光さんに会場でお話をうかがいました。

「ジョン・ラセターの言葉で、『芸術はテクノロジーの限界に挑み、テクノロジーは芸術にひらめきを与える』というのがありまして、展覧会に向けたジョン・ラセターのメッセージも流れたりします。」

ジョン・ラセターはまさにピクサーを作ったその人で、世界初のフルCG長編アニメーション映画 『トイ・ストーリー』を監督した、映画界の大きな才能です。彼がこの展覧会に寄せた言葉は、こんな風に始まっています。"ピクサーには、デジタルのアーティストと同じくらい、伝統的な手法で仕事をしているアーティストがいます。手描きのドローイング、絵画、パステル画、彫刻などのアーティストです"そんなアーティストの息吹を感じられるのが、このピクサー展。粘土で作られたキャラクターの模型、マケットも展示されています。

「トイ・ストーリーの20周年を記念した部屋は、入ってすぐのところにマケットがあります。これはウッディとバズのマケットなんですが、みなさんおなじみのウッディとバズとは少し違う、ちょっと皮肉な感じのウッディと、すごくかわいい感じのバズが見られます。最初の構想段階のアートワークが見てとれると思います。

それから今回みなさんに見ていただきたいのは、カラースクリプトという、作品全体を俯瞰してみる作品です。絵や光、そういったものがどんな風にストーリー全体をどうおおっているのかを俯瞰して見せるんですね。ピクサーの作品というのは、それぞれにデザインのスタイルを持っています。それは作品ごとに違いますが、例えば『Mr.インクレディブル』だったら、1960年代くらいのミッドセンチュリーなアートワークを使っていたり、『インサイド・ヘッド』はミロのような作品が中に出てくるようなアートワークがあったり。それはこのカラースクリプトを見ればよく分かります。」

そして、注目の展示作品は、『トイ・ストーリー・ゾートロープ』。『トイ・ストーリー2』に出てくるキャラクターのマケットがメリーゴーランドのように置かれています。たとえば、ウッディは少しずつ動きを変えたものが、円を描くように18体並んでいて、それが回転していきます。

「1体1体が少しずつ動きを変えて18体並んでいて、これが1秒間に1回転します。不思議なんですが、アニメーションの動きと実際の回転の方向が逆なんですよね。回り始めて、これが1秒間に1回転となった瞬間に、ストロボがたかれて逆に見えるんです。これはみなさんジブリ美術館に行ってもらうと、トトロのキャラクターで見ていただくことができると思うので、この2作品を比較してみるのも面白いと思います。こちらは『トイ・ストーリー2』がテーマになっていますので、ジェシーとか『トイ・ストーリー』には登場しないキャラクターたち、エイリアンもいます。これがゾートロープ、アニメーションの原理、そのものです。」

さらに、アニメーションの短編映画や、オリジナルの映像作品も見ることができます。

「ショートフィルム、つまりピクサー映画の長編作品の最初に流れる短編ですね。そのアートワークも展示をしています。特にこの短編作品というのは、まだ若手の監督など、これから監督として芽が出るというような人たちが短編を担当します。『晴れときどきくもり』という作品がありますが、実はこれは『アーロと少年』の監督ピーター・ソーンの2009年の公開作品です。こんな風に監督名も見たりすると面白いと思います。また、今回2つのシアタ--を作っていますので、実際の作品もあわせて見ていただけます。そして展覧会のハイライトとも言うべき"アートスケープ"という、ワイドが10メートル以上のスクリーンにアートワークを使って、そのアートワークのスケッチブックのなかに入り込むような作品があります。これはまさに体験です。見るというよりも感じていただける作品に仕上がっています。15分間ぜひ堪能いただきたいなと思います。」

今回の『ピクサー展』、全体の企画を手がけた渡辺浩光さんにこんなHidden Storyを教えていただきました。

「僕が昨年の夏に打ち合わせでピクサー・スタジオに行ったとき、いたるところに"Story is king"って書いてあったんです。

ストーリーは王様であると。ひとつの作品の制作期間である5年間のうちの3年から4年くらいは、ストーリーを作っては変え、作っては変え。そこまでこだわるのかというくらい、みんなで議論しながら作っていくのがピクサーのスタイルです。そしてこれはピクサーのもうひとつの大きな特徴ですが、基本的に原作がありません。ピクサーの場合はすべて監督の想いやアイディアからストーリーが提示されます。ある責任を持った監督自身が思ったり感じたりすること、メッセージやテーマが詰まっているんです。だからこそピクサーの作品はいろんな人に共感を与えたり楽しんでもらえる、そこが一番の特徴なんじゃないかなと思います。」

映画づくりの最初にあるのは、監督が体験したことであり、監督の想いです。    

『インサイド・ヘッド』のピート・ドクター監督はアカデミー賞の授賞式でこんなことを語りました。

『いま苦しい想いをしている学生のみなさん。怒りや悲しみを感じているかもしれません。

でも、どんなときでも ものづくりはできるし、それが世界を変えるんだ』

  ピクサー展に並ぶ、数々の絵画・スケッチ・粘土の模型。さまざまなアーティストのものづくりがひとつになった そのとき、多くの人の心を動かす作品が生まれ、それが世界を変えていくのです。

スタジオ設立30周年記念 『ピクサー展』は2016年5月29日まで、東京都現代美術館で開催されています!清澄白河駅から徒歩9分。およそ500点もの貴重なピクサー作品の原点をお見逃しなく!平日の朝が比較的スムーズにご覧いただけます。