
兵庫県神戸市で、2005年から毎年開催されている音楽フェスティバルがあります。スタート当時のタイトルは"GOIN'KOBE"。現在の名前は"COMIN' KOBE"。発案したのはイベント会社や放送局、自治体などではなく、ひとりの青年でした。発起人の松原裕さんにそもそものきっかけからうかがいました。
「僕が中学3年生のときに阪神淡路大震災が起きました。実際、地震が起きたことの大変さも理解していましたが、当時は神戸に住みながらもどこかちょっと他人事のような感覚で災害を見てしまっていたんです。その後、大人になってバンドを組んだんですけど、初めて県外へツアーに出かけたときに『神戸から来た』と言うと、県外のみなさんからすごく親切にされて『大丈夫でした?』って聞かれるので、あたかも『ほんとに大変だった』っていうテンションで答えてしまったんです。それが罪悪感になっていて、何か罪滅ぼしをしたいなと思ったというのが正直なところですね。」

震災から数年後、松原さんは『あのときは何もできなかった』という、後悔の念をいだきました。そして、震災関連イベントに足を運ぶようになります。
「いろんな震災関連イベントに行った時に感じた違和感というのが、若い子がいないなということでした。僕が行っても浮いたような会があったりとか。もっと若い子が来ないと話がつながらないんじゃないかな、語り継いでいけないんじゃないかなと思って、若い子を呼ぶようなイベントをして啓発できるようなことがないかな、と。
ちなみに以前、神戸では大きなフェスが開催されていたんですけど、そのフェスが2004年のタイミングで大阪にお引っ越ししちゃったんです。つまり神戸に音楽フェスがなくなる。だったら、そういうイベントと震災のテーマのコラボレーションというか、リンクしたものができるんじゃないかというのを2004年のときに感じて。そして、2005年が震災10年で、震災10年の冠をつけるとイベントの助成金がおりるというのをたまたま目にして、これだ!と思って、企画書をつくって神戸市に提出してOKをいただいて。」
阪神淡路大震災から10年。2005年、音楽フェスティバル"GOIN'KOBE"の開催が決定しました。しかし、会場がなかなか決まりませんでした。
「神戸市役所の横に東遊園地という公園があります。僕が初めて行った震災のイベントが"1.17の集い"という、震災のあった日と時間に毎年、竹で117って書いてキャンドルをともして神戸のみんなが集まって追悼するというイベントで、その会場が東遊園地でした。また"ルミナリエ"という復興のイベントも東遊園地だったので、僕としては『ここだ』と思っていましたが、マンションが近くにあるので音楽イベントは基本的に受け入れないという方針を持っていて、そこをクリアするのが本当に大変でした。

もうひとつお話すると、ステージは誰に作ってもらうかということで、いろんな人の縁でつながっていったのが、震災のとき倒壊した阪神の高速道路をなおしていた業者さんでした。その方はステージをつくるのが本業じゃないんですけど、作ってもらったんですね。朝5時くらいにステージが完成したのを一緒に見ながら、『あのときは震災のがれきの作業をしていたけど、いま前向きなことができていて感動しますね』と言われたのが印象に残っています。」
"COMIN' KOBE"の大きな特徴は、入場が無料であること。
「最初から無料と決めていました。入場無料にすることで敷居をさげて、いろんな人に参加してもらいやすくしつつ、あとは他の音楽フェスと違うっていうことの差別化というか、『あれ?なんでこのイベント無料なんだろう』ってイベントに来るときにひとつクエスチョンがあるということが大事だなと思って。」
2015年は、クラウドファンディングに挑戦。目標金額は、2000万円でした。
「1ヶ月前くらいで達成金額が800万前後でした。でも、神戸のみなさん、市役所のみんなとか新聞社の人とか今まで手伝ってくれた人がfacebookとかで『やばいから寄付して』という感じで、新聞でもいっぱい記事にしてくれたり。ラジオでも告知してくれたりとか、それで広がって、何とか目標を達成したんです。」
毎年ゴールデンウィークに開催されてきた音楽フェスティバル"COMIN' KOBE"。会場では、神戸市にある『人と防災未来センター』と一緒に防災・減災へのメッセージを伝えています。
「防災グッズの体験ができるブースをつくったり、あとはアーティストに来てもらって、ライブじゃなくてトークだけで震災とか減災についての関心をしゃべってもらう、というトークステージをつくったのが一番大きいかもしれないですね。
震災のイベントとかも数回開催して終わってしまう、やっぱり続けるのも大変だと思います。チャリティとかだと有志で集まるのも限界ですし、みんなも自分の生活があるなかでやっていかないといけないので、なかなかそういうイベントって継続しないっていうのも分かっていました。だから、このイベントは続けていくことが大切だなぁと。」
特に若い世代へ、震災の経験を語り継ぐこと。
神戸を愛する人が、神戸からメッセージを発信し続けます。