彼の顧客リストには、三ツ星レストランのシェフ達の名前がずらり。1998年、パリ14区に最初のお店をオープン。そして、2013年には、パリ16区にも開店。主は、美食の街がうなる肉職人、ムッシュー・ユーゴ・デノワイエ。東京・恵比寿に海外1号店をオープンしたユーゴさん。来日中、インタビューに答えていただきました。

「15歳のときに初めてお肉の仕事に触れました。15歳という若さですから、将来のことは何も考えていないわけです。そんなとき父が、エンジニアの仕事をしてみたら?と言ってくれたんですが、ちっとも面白ありませんでした。そしてあるとき、お肉屋さんを紹介してくれたんです。お肉屋さんの仕事を初めて見て、解体するところなんかを見学しました。その瞬間、肉と恋に落ちたんです。そして、分かりました、これが僕の仕事だ。肉屋さんこそ僕の天職だ、と。」
お肉に恋してしまったと語るユーゴ・デノワイエさん。パリにあるのは、どんなお店なのでしょうか?
「パリには2つお店があります。最初のお店はごく一般的なお肉屋さんです。もうひとつはイートインスペースのあるお店ですね。お肉を味わってもらいたくて料理を出すことにしました。とはいえ、私は料理人ではありませんから、奇をてらったものではなく、ごくシンプルな肉料理を出しています。オープンして2年になりますが、連日満員なんですよ。最初のお店は、1998年4月1日、パリ14区にオープンしました。なぜ4月1日かというと、エイプリルフールなので、ばかげたことをしても許されるだろうと思って。それでお店を始める、という冒険に出ました。」
そんなユーゴさん。どんなことを大事にされているのかというと・・・
「私が大事にしていることは、扱う家畜が生まれてから、私たちがそのお肉をありがたくいただくことになるまで、つまり、命をまっとうするまで幸せであること、ストレスなく育てられることです。畜産農家を選ぶ際、こうした私の思いと同じ考えをもつ農家を選んでいます。家畜が食べるエサ・牧草、それから土壌・水のすべてが天然のものであるかどうか?こうしたことが健康で幸せな家畜を育てるためにとても重要なんです。それから肉の熟成について。これは経験値ですが、クオリティーのよい冷蔵庫の中で4週間から6週間、湿度管理をしっかりすれば自然に熟成します。
ただ、お肉は家畜が息を止めてからでも日々、変わっていきます。お肉ごとに脂肪の量が異なるので、熟成度合いはそれぞれ違います。毎日冷蔵庫をあけて、手で触って、匂いをかいで、いつが冷蔵庫から出すべきベストなタイミングなのかを肌で感じて決めています。長年の勘からわかるものですが、私の仕事の中でこれがもっとも重要な工程です。」

恵比寿店は、1階がお肉の販売と簡単なお料理が楽しめるミートバー。2階が メインダイニングとなっています。
「恵比寿のお店は、パリのお店と同じようにやっています。日本では季節のものを調達しますので、野菜が少し違いますけどね。ひとつ言っておきたいのは、私はシェフではありませんので、調理はとてもシンプルに、素材の良さをとにかく活かしきることに力を注いでいます。パリでも提供している、子牛のステーキですとか、牛肉のタルタルですとか、素材のよさを味わっていただきます。恵比寿でのシェフは齊田武さんにお願いしているんですが、日本の料理人はみなさん真面目で丁寧な仕事をしてくれています。本当に信頼しています。」

ユーゴ・デノワイエさんに最後に質問。
『世界最高のお肉屋さんと呼ばれることについて、どう思っていますか?』
「私は、先輩方から教わったことをもとに、ただ一生懸命働いているだけです。人気があると言われるのはもちろん嬉しいですが、私としては何とも言えません。というのも、ただこの仕事が好きで、情熱を持っている、というだけなんですよ。朝起きたら仕事にいくのが楽しみでたまらない。どんなお肉屋さんでも私と同じようにできるはずです。できること、与えられた環境をいかして、毎日200%自分にできることをやっている。本当にそれだけなんです。」
命をいただくからには、その美味しさを最大限に引き出す。それが、その肉職人の哲学 です。
ムッシュー・ユーゴ・デノワイエ。
東京の人々に、美味しいお肉を届ける仕事が始まりました。