音作りのキーワードはラジオ?『THE BEATLES 1』を聴こう!

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全英全米でナンバーワンを記録した27曲を収めたベストアルバム『ザ・ビートルズ1』。2000年にリリースされ、世界中で大ヒットしました。その『ザ・ビートルズ1』の最新エディションが登場。音が新しくなるだけではなく、通常盤には27曲分のプロモーション・フィルムとビデオ。デラックス・エディションは50曲分のプロモーション・フィルムとビデオ付き。その映像は修復・補正され、素晴らしいものとなっています。ビートルズが設立したイギリスのレコード会社アップルのプロダクション・ディレクターで、50年近くに渡りミュージックシーンで仕事をされているジョナサン・クライドさんにお話をうかがいました。

「最初このプロジェクトが始まったときは、ビデオのコレクションをクリスマス向けに出す、ということが念頭にあったわけです。でも、作っていくうちに実は、ここにはすごいストーリーがあることが分かってきました。最初のLove Me Doから最後のThe Long And Winding Roadまで、彼らがソングライティングのときに持っていた冒険心だとかウィットだとかユーモアの精神だとか自信だとか、そういうものがビデオづくりにも反映されているんだなということが見えてきました。つまり、そのあとに続くミュージックビデオの道を開いたのが彼らだったんです。その精神を多くのアーティストが受け継いで、MTVになっていった。そういうところまで、よく分かっていただけると思います。」

そんな映像の数々、どのように生まれ変わったのでしょうか?

「補正作業をする際に一番大事なのは、いいマスターテープを見つけることです。アップルにもかなりいいものが保管されてはいたんですが、ものによっては何度かダビングを繰り返したようなものだと画像に傷が入っていたりして、マスターテープとしては適していません。自分たちのものだけでは足りないので、できる限りいろんなところに声をかけ最高のマスターテープを集めました。そうやって集まったいいマスターテープを4Kでスキャンして解像度を高くします。そして一コマずつクリーニング作業、色調を補正したり、バランスをとったり、色が薄くフェードしているものはそれを蘇らせたり。そういう作業をしました。」

『ザ・ビートルズ1』、デラックス・エディションに入る50曲分の映像。それを見たスタッフのみなさんのリアクションについて教えていただきました。

「今回のプロジェクトは、20名以上が関わっています。アビーロードでは、ジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンがヘッドになって音のレストアをする。画像のレストアはロンドンのソーホーにあるデラックスという制作会社がやりました。そして自分たちのアップルのアーカイヴ部門。それぞれが作業をして最後にそれがひとつになるんですが、ジャイルズが音を画像にのせてくれたときには、みんな本当に興奮しました。」

音を手がけたのはビートルズのプロデューサーとして活躍したジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティン。音に関して、どこが新しくなっているのか解説していただきました。

キーワードは、意外にも、「ラジオ」でした。

「ジャイルズ・マーティンは、今のほうが音がよくなっているとは言わないと思います。オリジナルミックスが一番素晴らしかったし、今も素晴らしいという考えは、自分も持っています。でも、もしビートルズとジョージ・マーティンが60年代に今のテクノロジーがあったとしたら、こうやったんじゃないかな、という想いのもと、音に例えば重みを加えるなどの工夫をしました。オリジナルに忠実にやりました。なぜかというと、60年代はモノラルミックスが中心で、ステレオミックスは出てきてすぐのものだったんです。実験的にやったようなものですね。ラジオなんかもそうですが、当時は一つのスピーカーで聞いていたわけだから、モノラルミックスが重要だったんです。なので、今回もジャイルズはあえてモノラルミックスに近いような、音を分散させたミックスをセンターよりに寄せるようなミックスをしています。音を聞いたポールもリンゴもとても気に入っていました。」

レコード会社、アップルのプロダクション・ディレクター、ジョナサン・クライドさんにこんな質問。ビートルズの解散から45年が経過しましたが、今もなお、『ビートルズを「最新」の存在として 世に送り出している』そんな自負はありますか?

「売ろうとして売れるものではないんですよね。音楽の質があるからこそ、ビートルズの音楽があるからこそ、ビートルズが生きているわけです。ビートルズの音楽が自然に息をし続けていれば、必ず誰かが見つけてくれる。子どもたちもビートルズを見つけてくれる。言われて聞くわけじゃなく、見つけてくれるんです。なぜなら、ビートルズの音楽には喜びや希望、そして美しいメロディがあります。それは人の心に触れるもので、100年後も輝き続けているはずです。ビートルズはひとつのブランドになっていると思われているかもしれませんが普通のブランドにはないものがビートルズにはあります。それはソウル、魂です。」

50年近く、ミュージックビジネスの最前線を見つめてきたエンターテイメントのプロは、こう言いました。

『ビートルズの音楽には、喜びや希望。そして美しいメロディがある。』

そしてそれは、『ザ・ビートルズ1』にギュッと詰まっています。

あなたの心に触れるメロディが、きっとそこに。