「公共R不動産」とは?
ドラえもんの空き地をもう一度?!
使われなくなった公共施設、統廃合によって不要になった役所の建物、廃校になった学校。そうした公共空間を集めて紹介するウェブサイトが「公共R不動産」。その原点にあるのは、「東京R不動産」というサイトでした。
「僕らは12年ほど前、『東京R不動産』というウェブサイトを始めて、そのウェブサイトは東京じゅうの倉庫とか、ちょっと変わっているけれども見方によっては魅力的な物件という、マニアックな物件サイトなんです。それをやっていて、東京の古いビルの魅力を再発見してそこを貸したり、新しい人が住んだり、お店になったり、ギャラリーになったりということを続けてきたんですよ。それで随分、可能性があるけどちょっと古くて、というような建物の魅力を再発見してきたけど、次リノベーションしていくべきはどんな空間なんだろう?と思ったときに、それは『公共空間』だろう、と思ったんですよね。」

お話をうかがったのは、『東京R不動産』、そして『公共R不動産』も手がける、建築家の馬場正尊さん。馬場さんが 「公共空間をリノベーションするべきだ」と思ったのは個人的な体験が きっかけでした。
「僕2年前に『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』という本を書いたんですよ。それを作っているプロセスのなかで、公共空間ってものすごく魅力的なはずなのにもったいないことになっているというのに気がついていく、というのがきっかけなんですけど。最初は極めて個人的なことで、ある日、子どもと近くの公園に遊びにいくわけですね。砂場で遊ぼうと思って、砂場セットと小さなサッカーボールを持って近くの公園に行くわけですよ。そしたら、砂場はペットがフンをするからってネットで触れないようになっていて、芝生は養生中ですって入れないようになっていて、危険なのでボール遊びするなって書いてあって。ちょっと待って、俺たち何すりゃいいんだ?って。公園と言いながら全然パブリックに開かれた空間になっていないんじゃないか?」
馬場さんは、公園についてはひとつのアイディアとして、こんな風景を 想像します。
「その近くの小さな公園で妄想するんです。例えば、そこに小さなキオスクのような二坪くらいのカフェがあったとします。そこでお姉さんが美味しいコーヒーをつくってくれたとします。公園にベンチとテーブルが並んでてそこでコーヒーが飲めるようになっていたとします。そうすると、お姉さんは公園でお店が開けるわけですよね、それでハッピー。で、行政は今まで公園を掃除したり管理するためにお金を払ってたわけですね、掃除の業者さんに。でも、このカフェを安く貸すので、安く貸す代わりにこの公園をきれいにしてね、とお姉さんに言います。カフェのお姉さんは自分の店でもあるので、一生懸命掃除しますよね。近くに住む僕ら市民も、子どもを遊ばせながら仕事ができたり。あと、子どもを遊ばせるとそのお姉さんが見守ってくれる見守り効果もあるわけじゃないですか。要は僕らもカフェのお姉さんも役所もみんなハッピー。小さな公園に小さなカフェとか小さな花屋とか、そういうことが1個か2個でもできれば、日本中の公園がドラスティックに変わっていくんじゃないかと思っていて。」
サイトを始めて、およそ半年。
建築家で、公共R不動産 ディレクターの馬場正尊さんは公共空間のあり方についてこう感じています。
「イギリスのpub、お酒を飲むpubの語源はpublicだったりするんですよね。そこは行政が管理しているというよりも市民みんながコミットして作ったり楽しんだりする空間をパブリックスペースと呼んでて、パブなんてまさにそうですよね。街には必ずパブがあってわいわいみんなで楽しく話すパブリックスペースだからパブ。なので、英語のパブリックというのは市民がコミットしながらみんなでつくる空間、という意味での公共・パブリックなんですけど、日本の公共というと、行政が管理していると思い込んでいるところが僕らにもあり、行政にもある。そういう意味で、公園みたいな場所が僕らの手から離れて遠い存在になっている気がして、特に公共R不動産を運用し始めて、あまりにも僕らは既成概念にとらわれすぎてた、公共空間について。これに気づきました。このくらいの機会に公共空間を本来の意味での公共、本来の意味でのパブリックにひらいていける活動ができるといいなと思うし、だから、いま、リ・パブリック東京、Re-PUBLIC Tokyoというかけ声というか、ムーブメントを言い始めていて。」
合い言葉は、リ・パブリック東京。公共空間を再生すること。それはつまり、市民が関わって みんなで楽しい場所をつくること。
「資本主義がどんどん行き過ぎて、私有・所有とパブリック・公共のあいだにビシッと強い線が引かれて、道路からモノを出していると怒られたりするせちがらい世の中になりました。昔は空き地で遊んでいましたよね。ドラえもんなんかは、空き地でおこる物語がテーマになっています。あれは誰かの土地がパブリックスペースになっているわけですよね。でも今はあんな空き地、柵があって立ち入り禁止になっていたりします。
そういう意味では、僕らは所有と共有にあまりに強い線が引かれたために大切な場所を失っていたかもしれないんですよね。だけどリーマンショックとかで強い所有欲の先には喪失しかないことを知ってみたり、それがほんとに幸せだったのかですよね。それを問い直していい時期にきていて、、、
例えば昔でいうと縁側みたいな空間ですよね。縁台とか置いておじさんたちが碁を打っていたりするような、道端の、あんな空間が街ににじみ出してくると街自体が美しく楽しく面白くなるんじゃないかなと思って。それもパブリックスペースの再生なんじゃないかと。所有と共有のやわらかい空間みたいなものに公共R不動産をやるなかでちょっとずつ気づいたので、そこのデザインをやってみたいんです。」
資本主義が加速するなかで失われた、ドラえもんの空き地のようなやわらかな場所。それをもう一度、「誰かが」ではなく、「みんなで」デザインする。「公共R不動産」は、そんなリ・パブリック、公共空間の再生を提案し続けます。