新しい乗り物、ウォーキング・バイシクル。

「ウォーキング・バイシクル」。
タイヤは3つ。サドルがないので、利用者は立って乗ります。ハンドルを持ち、右足と左足をステッパーの上にのせ歩くように動かし、そのステッパーを上下させるのです。歩くよりも速く、自転車よりも簡単。電動アシストも付いています。それが 「ウォーキング・バイシクル」。開発を手がけた片山工業株式会社のプロジェクトリーダー、片山有紗さんに、そもそもの始まりについて教えていただきました。
「弊社はもともと車の部品を作っている会社なんですが、日本のカーメーカーさんがどんどん海外へ製造拠点を移転されていたんですね。現在でもその比率が大きくなっているわけなんですが、その頃から、自社ブランドで部品以外のものを作らないと、もしかしたら日本で車自体を作らない日がくるかもしれない。だったら、何か部品以外で継続的にずっと長く自分たちの技術を使って作れるようなものは何かないか、というのが、弊社の社長がずっと持っていた気持ちで」
そんななか、社外役員のご家族が入院をされ、日課だった散歩に行けなくなりました。その話をきっかけに、「歩くことをサポートできるもの」、これを作ってみてはどうか、というアイディアが出てきました。
「その場でA4サイズの紙に、スケッチを書いてみようと言って。それを弊社の社長の片山が持ち帰りまして、ずっとながめているときに、ものづくりの会社だからできるんじゃないかな?やってみましょう、ということで、2009年に、そのスケッチからデザインに直接3Dにおこして、そこから開発がどんどん進んでいったんですけど」
一枚のスケッチから、ものづくりが始まりました。
「もともとは、だいたい70代80代もしかしたら90代の方がなかなかご自分の足で例えば2キロ先のスーパーまで歩けない。かといってシルバーカーに乗って自分の体力を使わずに移動するというのは、どんどん筋力も衰えていきますし、そういうことじゃだめだから、歩くよりも簡単で、自転車よりも簡単な乗り物。最初は自転車というよりも、新しい乗り物を作りたい、というコンセプトから入りました」

作られた試作車は、実に10台。開発チームがぶつかった壁とは?
「だいたい8台目くらいから、自分たちはこの製品を作ったあとにどうやって一般のお客さまに届けるのか?まずはお見せする場所から探さなければならない。そんななか、2012年に残間里江子さんにプロデュースをお願いして見ていただきました。そのときに、これは農耕機みたいね、って一言おっしゃって。これでは女性受けもしない。でも、せっかくコンセプトがいいから、できればエイジレスで男女問わずみんなが乗れるものを作りましょうよ、って言ってくださって。鄭秀和さんをご紹介いただいて、あらためてデザインをなおしていただいて、色だとか、フォルムだとか、デザイン面でもこだわり抜いた商品になりました」
これまでは自動車の部品を主に作ってきた 片山工業。今回の「ウォーキング・バイシクル」が初めての消費者に直接届く「ものづくり」でした。
「そもそも完全に新しい自転車だか何だか分からないような乗り物を作るというのは本当に新しくて、社員も、最初は、え、なんで?え、作るの?っていう感じだったと思います。ただやはり、時代にあわせた対応だったりとかニーズは会社としても必要なことだと思いますし、あと何よりも日本のものづくりだったりとか、弊社は岡山なので、岡山のものづくりの象徴になれるようなものを作れているなという実感はどんどんわいてきています」
最後に、若きプロジェクトリーダー、片山有紗さんが思い描く 「ウォーキング・バイシクル」の未来について教えていただきました。
「いつかは自転車の代わりになるような、もしかしたら自動車の代わりになるような、移動の手段としても、エクササイズ目的としても使っていただく身近な乗り物になるといいなと考えています。ポイントとして考えているのは、オリンピックのときに海外の方が大勢東京にいらっしゃるので、日本のものづくりだったりとか、日本のデザインだったりとか、日本の新たな技術の象徴になるようなプロダクトにそれまでに育てあげられたらいいなと思いますね」
自動車部品メーカーとして、日本のものづくりを支えてきた片山工業が、ついに表舞台でその実力を見せつけるときが来ました。新しい乗り物「ウォーキング・バイシクル」が走り出しました。
●ウォーキング・バイシクルはこちらでご覧いただけます。
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