大切なのは、語り継ぐこと、考え続けること。

8月6日で、広島は被爆から70年。

その広島市の平和推進課では、被爆体験の伝承者を養成する事業を3年前から進めています。

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「被爆者の方々の高齢化が進んでいまして、いま平均年齢が80歳になってしまっておられる。被爆体験を直接語り継げる方がどんどん少なくなっています。そこで広島市では、被爆者の被爆体験や平和への想いを後世に確実に伝えるために、被爆体験伝承者、という、被爆者の方の体験と平和への想いを伝える方を養成することにしたんです」

取材にお答えいただいたのは、広島市 平和推進課 主査の柴田綾美さんです。被爆者の方々がご高齢になっていくなか、その体験を後世に確実に伝えるために、伝承者を育てなければならない。それが事業開始の理由でした。では、実際に どんなことがおこなわれているのでしょう?

「まず1年目は、被爆とは何なのか?人体にどんな影響があるのか?原子爆弾とはどのようなものだったのか?戦時中の暮らしについても学んでいただきます。そして、実際ご協力いただく被爆者の方、証言者の方の講話を一通り全員の講話を聞いていただきます。

講話を聞いていただいた中で、実際にどなたの体験と想いを引き継ごうかと希望を出していただくのが1年目となります。2年目からはその希望を出した証言者さんのグループに属していただいて、毎月1回から2回、証言者さんを中心としたミーティングを開催します。そのミーティングのなかで、証言者さんの体験や、フィールドワークをして被爆した場所に行ってみようとか、被爆した場所から自宅までどうやって帰ったかたどってみようとか、証言者さんからいろんな体験を伝授していただきます。ある程度まとまったところで、自分が実際伝承者になったときにどんな話をするのか原稿を書き始めていただきます」          

この原稿を 被爆体験の証言者さんに確認していただきます。

そして、3年目は実際に、証言者さんや平和推進課の方の前で話してみる。

プログラムは、こうした流れで進みます。

いま 学んでいるのは、合計200人以上。そのおひとり、尾信さんにもお話をうかがうことができました。被爆体験の伝承者になろうと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか?

「きっかけは自分の子どもが生まれた、というのが一番のきっかけですかね。子どもが生まれて、当時ニュースとかで戦争とか事件とかを感じて平和を意識したのが一番のきっかけでした」

36歳の尾信さんは被爆体験の証言者さんのお話をこんな風に受け止めています。

「実際に聞いて、魂に突き刺さる悲しさやら怖さやら憤りを感じました。一番印象だったのは、当時、中学生の方のお話で、彼女が偶然休みを手にして友達と海に行こうと準備をしているときに、うきうきした状態のなかで、一転して地獄絵図になったという、まずここですごく衝撃を感じました。そのなかで、母親が大やけどをおってそれでも命からがらの状態で生還したんですけど、今度はそのケガを治すための環境というのに衝撃を受けまして、その当時、原爆を受けて何もない状態で、さあどういう治療をするかといったら、包帯をまくだけとか、赤チンをぬるだけという。原爆体験者の方の話を聞いてて思うのは、そのときの話だけじゃないと思いましたね。そういうのはこういう風に勉強しないと分からないことだなと思います」

被爆体験の継承事業を進める広島市 平和推進課の柴田綾美さんはこう語ります。

「70年、という節目は、正直に言って あまり関係ない」。

今しかないというのは確かに感じてはいます。こうやって証言者さんが元気で話してくださって伝承してくださるのは今しかない、というのは感じているんですが、70年という節目だからどうこうというのはありません。証言者さんというのは、平和記念公園にいらっしゃる修学旅行生さんなど団体さんにご自身の被爆体験をお話いただく方なんですね。

それに加えて、伝承者さんの研修にご協力いただくというのは、高齢の方にはかなり負荷のかかる仕事だと思うんですね。それもいとわずにご協力いただいているのは、それだけの想いがあってということだと思っています」

最後に、伝承者を目指す尾信さんがみなさんに伝えたいと思っていることを教えていただきました。

「伝承者の勉強会でもちょっと話になったんですけど、平和というものだったり戦争というものを考えるときに、こうしたら決まり、というものを作り上げるよりも、どうしたら平和を維持できるかとか、どうしたらこうならないかっていうことをそのときどきで考え続ける、という思考が大事なんじゃないかなというのが出てきたことがありまして。その考え方も一緒に伝えていければというのが僕が考えていることですね。常に考え続けることが大事なんじゃないかなと思っています」

大切なのは、語り継ぐこと。そして、考え続けること。

現在、高校生から70代の方まで、世代をこえた人々が参加。

被爆体験と平和への想いを後世に確実に伝えるために、伝承者の継承事業が続きます。