究極のトースターが完成!その秘密は土砂降りのBBQ?
これまで、自然界の風を再現する扇風機GreenFanをはじめ空調関係の家電を世に送り出してきたバルミューダ。今回、「トースター」の販売に乗り出した理由は、どんなところにあったのでしょうか?
「空調家電を作りながら大切にしていたことがあって、それはいい体験を届ける、ということが現代の道具である家電の役割なんじゃないかなということでした。実は数字で測れるものよりも測れないもののほうが大事じゃないかなという想いを強くしてきた、という経緯がありました。お客さまはモノじゃなくて体験を買ってるんじゃないかなと思ったんですね。そう考えていくと、食べるということこそが五感すべてを使う珍しい行為なんですよ。それならば、食べるということに関係した商品なりサービスなりを提供するべきなんじゃないかなと」
「いい体験を届けたい。ならば、食べることに関係した商品を作ろう」バルミューダ株式会社の代表、寺尾玄さんはそう考えたのです。では、何を作ればいいのか??

「私、毎朝、トーストを食べてるんです。毎朝食べながら思っていたのは、このトーストはもっと美味しくなるのにな...ということです。そんなことを考えていた去年の5月、会社を休みにして全員でバーベキューに行ったんですよ。でも、その朝起きたら、あり得ないくらい土砂降りで。ほんとにやるんですか?って連絡網が回ったんですけど、まあ、思い出になるからやろうよと。簡易的なターフみたいな屋根をつくってその下でやったんですけど。このときに、気をきかせた開発のメンバーが食パンを買ってきてたんですよ。炭火で焼いてみましょうと。肉の片隅で食パンを焼き始めたんです。そしたらそれがものすごく美味しかったんです、そのパンが。まわりがサクッとしててカリッとしてて中がふわふわなんですよ。アツアツにあったまってて。この味じゃないのバルミューダのトースターが目指すものって!こんな風に、いきなり目標が決まったんです」
土砂降りのバーベキュー大会で焼いたパンの味を再現したい。開発が始まりました。
「次の日から会社の駐車場でグリラー出して、炭火でパン焼きの実験が始まったんです。でも、どうしてもあの味にならないんです。炭が違うのかな、グリラーが違うのかな、炭から網の距離が違うのかなといろんな要素を、土砂降りのバーベキューにあわせようとして実験をやったんですけど、いっこうに同じ味にならないんですよね。そのときにまた気をきかせた奴が<あの日って土砂降りでしたよね?>と。そうかもしれないね、と。水分なのかなと、いうところで、今回私たちが作ったのはスチームトースターなんですけれども、スチーム、というところに視点が移っていったんですよね」
決め手となるスチーム機能をトースターに組み込むため、試行錯誤が続きました。
「ただスチームといっても、いろんな発生方法があります。どのくらいの量がいいのか?どのくらいの時間帯、スチームを出せばいいのか、などなど、パラメータがいろいろあるわけですよね。ここの実験で、今回は5000枚のパンを焼いてきました。結局は、ヒーターの制御が始まる前に小さじ1杯5ccの水を入れて全部蒸気にしてしまうのが一番いい結果が出る、というのが分かって」
このスチームが 実際どんな風に機能するのかというと、、、
「ドアあけてパンいれて水いれて閉めてトーストモードで運転を開始します。最初に何が起こるのかというとボイラー部が発熱して5ccの水が蒸発して蒸気になります。このときパンの表面になるかというと、薄い水の膜ができるんです。で、ここからヒーターの制御が始まるんですね。パッと熱が入ったときに、最初に薄く焼き上がった膜を作ってしまう。食パンのまわりに。これができることでパンの中の水分が外に逃げにくくなります。バターなどの油脂成分、これ香りのもとですけど、これも外に逃げにくくなるんですね。そこから温度制御をしていくんですが、これも重要で、デンプンがα化する温度帯があるんですが、ここをゆっくり通過させることでより柔らかくしましょうということをやります。次にメイラード反応が起きる160度前後の温度帯があるんですが、これは何が起きているかというと、いろんな食べ物が茶色く変化することなんですよ。メイラード反応が起こることによって最初は数十種類しかなかったうまみの成分が100数十種類にふえるんですよ。これで美味しさができてくるんですよ。なので私たちのトースターは、美味しさを作り出すメイラード反応が起こる160度の温度帯をいかに長くするかということをやるんですね」
バルミューダ株式会社の 寺尾玄さんは、今回のトースターについて、こう語ります。
「私たちは、いい体験を提供しようと思っている。トースターじゃないんです。トースターはただの道具だから。そのいい体験と感じられるものを提供しましょう、ってことを考えると、ここまで突き詰めなければいけない。他にもトースターを作ってらっしゃる会社さんありますよね。おそらくトースターを提供しようと思われている。私たちは違います、すっごく美味しいパンを提供しようと思っている」
届けたいのは、「モノ」ではなく、「モノ」を通した「体験」。究極のトースターには、そんな ものづくりの極意が つまっています。