今週は、お笑いコンビ、ピースの又吉直樹さんによる小説「火花」。又吉さんご本人が明かすHidden Story

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書き上げて読み返したときに、正直、めっちゃおもろいのができたと思いましたね。

又吉さんご本人が執筆秘話、そして創作にかける想いをまっすぐに語ってくれました。今年1月、文芸雑誌『文學界』が 1933年の創刊以来初めて増刷となりました。又吉直樹さんの小説「火花」が掲載されたのがその理由。さらに、先月発売された単行本も大ヒット中です。そんな 小説「火花」。又吉さんは、こんな風に執筆をスタートさせました。

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最初はなんか、誰かひとりの変な人を書くんじゃなくて、人と人の関係性を書きたいなっていうのが、わりと自分がコント作るときもそうやって作ってるんで。最初、親友同士の話を書こうかと思ったんですけど、なかなかそっちは難しいというか、もうちょっと時間かかるなと思ったんで、あと面白い関係性ないかなと思って、恋人だったり家族だったりいろいろあるんですけど、芸人の先輩と後輩の関係性って面白いなと思って、それで書こうかなと思いました。

題材として選んだのは、お笑い芸人の先輩と後輩。20歳のときに出会ったふたりの、10年間を描きました。長い時間にわたる物語。ストーリーの構成を決めてから書き始めたのでしょうか?

もう何も考えずに、途中、編集の方にもこの先どうなるんですか?って聞かれて分かりませんって言いながら書きましたね。最初に考えてるとこうはならなかったですね。最初に決めちゃうと、書き始める前の僕の頭の中にあるものでしかなくなっちゃうんで、そこからはずれていこうとしても、プロットが決まっていると次そうせなあかんと帳尻を合わせていって自分が考えたものの外にいけない気がするんですけど、でも僕が驚かなければみんなも驚かへんから。それをどうやって作り出すかっていうのを普段から考えています。

「自分の外にあるもの」。それを呼び寄せるために、プロットは作りませんでした。そして もうひとつ、又吉さんが大事にしたのは、情景描写です。

風景と心境というのが、絶対に無関係じゃないと思っているんで。学生時代にゲーテの「若きウェルテルの悩み」というのを買って、ウェルテルは街離れてけっこう自然豊かな街に引っ越すんですよ。そこで手記みたいな、日記かなんかそういうスタイルでその日あったことを書いていくんですね、日付と。ほとんど街の何の変哲もない風景がつづられていってて。これずっと続きんやったらきついかなと思っていたくらいのところで、「今日どこどこの噴水のところに行ったら、若い学生が文学について話ふってきて、随分鼻息が荒かった」みたいなことを書くんですよ、急に。すごくやわらかい美しい風景を描写してた手記が、いきなり厳しくなって、それでその感情を初めて爆発させた日の一番最後に、「今日の手紙は正直書いたから君も納得しただろう」というので僕は衝撃を受けて。この今までのやわらかい風景描写は全部ふりやったんやと思って。僕は好きですね。ただ、みんなは嫌いやっていうのも知ってます(笑)。でも僕は書きたいとこですね。

サッカーに明け暮れた少年時代に 太宰治の作品に出会い、それ以来、太宰を敬愛する又吉さん。今回の小説に、その精神は受け継がれているのでしょうか?

太宰はずっといわゆる人それぞれの痛みみたいなものを あるっていうことを全力で主張した作家やと思うんです。他の人って、めちゃめちゃかわいい、めちゃめちゃけなげで心が美しい女の子の痛みだけを痛がるじゃないですか。でも、悪人で性格悪くてぶさいくで嫌われ者の痛みは、みんななかったことにするじゃないですか。でも、痛みなんですよね。それ痛がって何が悪いねん?っていうことを太宰は言おうとしてたんじゃないかなと僕は解釈してて。人間失格にしろ何にしろ。そういう意味でいうと、「火花」はそういうことは言うてませんけど、そういうものは根底にあるのかなと思いますけどね。

素晴らしくはないかもしれない人の痛みを描くこと。名もなき人の痛みを描くこと。又吉直樹さんは、そこに力を注ぎました。

なんか、世に出た人だけの世界みたいにお笑いに限らず、なってるじゃないですか。僕、サッカーでよく言うんですけど、日本代表が僕にとって好きなチームなんですけど、でも、その代表に入れる奴だけが勝者で、あとが全員敗者で、じゃあ、そいつらだけやってたらよかったんかっていうと、そいつらだけでやってたら日本のサッカーなんてびっくりするくらい弱いと思うんですよね。なんでレベル上がってるかというとその裾野に全力でサッカーをやった奴らがおって、突き詰めていったら小学3年くらいで辞めた奴でさえもめちゃくちゃ重要で、僕がそれ言うといつもボケみたいになるんですけど、今のA代表っていのは俺も関わっているから俺らの代表やっていうと、お前は関係ないよって言われるんですけど(笑)。日本代表が僕にとってもスターなんですけど、でも、主役っていう意味でいうとそれ以外にもおるっていう。すべてがそこだけを描くものじゃなくていいと思うんですよね。そういうのが書けたらなって。

もがく日々、立ちつくす日々、ときどき喜びをわかちあう日々。芸人の先輩と後輩が「お笑い」に全力を尽くす 青春の日々。「お笑い」を 別の仕事に置き換えれば、それは、そのままあなたの物語です。