今年10月に開催予定の第19回フリデリク・ショパン国際ピアノコンクール。5年ごとに開催される、世界的な権威あるコンクールですが、今年は過去最多の642名がエントリー。日本からも13名が出場予定となっています。

本戦の観覧チケットは、数分で即完売。日本のfacebookの公式ページのフォロワーは14万5000を数えるという人気です。

今朝は、このコンクールを運営するポーランド国立フリデリク・ショパン研究所のスポークスマンDr. Aleksander Laskowskiさんにお話を伺います。

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まずは、数あるピアノコンクールの中でも、このショパンコンクールがなぜこれだけ注目を集めるのか、その特徴について伺いました。

まず第一に、このコンクールは、世界的に愛されている、ショパンの音楽のみを扱う世界的な規模のコンクールということです。2027年には100周年を迎える歴史あるイベントで、世界に多くの喜びを与えると同時にクラシック音楽界にオリンピック精神を盛り込んだというところが、特別なんだと思います。

このコンクール設立時のアイデアはまさに音楽のオリンピックを目指したもので、ロシアから独立し、再興したばかりの若い国だったポーランドにおいて、ショパンの音楽は、ロマン派でかなり古い音楽という感じで、当時はあまり人気がなかったんです。

そこで、何かショパンの音楽が見直されるきっかけが必要だと考え、音楽の世界にスポーツ的要素を組み込んだわけです。そして、その結果、このコンクールが特別なものとなり、今日でも新たなスターを輩出するポテンシャルを持ったコンクールとなっているわけです。

前回のコンクールに参加した日本のピアニストたちにも、素晴らしい演奏をしたセミファイナリストの角野隼斗(すみのはやと)さん、彼はカティンという名前でもよく知られていますよね。そして、素晴らしいラブストーリーを育んだ、小林愛実さんと反田恭平さん 。

彼らは若い人々の間で絶大な支持を得ています。ですから、このコンクールが特別なのは、若い人々をクラシック音楽の世界に誘っているという事実なんです。

音楽のオリンピック・・・実際にこのコンクールの出場要項には、年齢30歳以下とあり、若いピアニストの世界への登竜門という位置付けにもなっているようです。では、実際にコンクールはどのような行程なのでしょうか?

コンクールの道のりは、まさにオリンピックのような長い道のりのようです 。まず、録音と推薦状で応募します。録音から選考する委員会があり、600件以上の応募があります。応募するのは必ずしもワールドクラスの演奏家だけではないので、本当に色々な人が応募してきます。そこから160人が予備予選に勝ち上がります。この予備予選は予備審査員の前で演奏を行うもので、4月と5月に開催されます。そして、その中から、幸運な84人のピアニストが選ばれ、ワルシャワでのコンクール本戦に出場します 。

本戦は、10月3日に始まり、まず、コンクール開幕を祝う美しいガラコンサートがあり、その後3つのステージとファイナルがあります 。1次ステージは80人、2次ステージでは40人に、3次ステージでは20人に絞られます 。3次ステージではおよそ45分の演奏を行い、そして選ばれた10人のファイナリストがオーケストラと共演し、その後、優勝者が決まるという行程です。

いや~聞いているだけでも、ハードな道のり。まさに鍛錬を続け、精神力と表現力とさまざまな要素が必要なようですが、ズバリ、優勝の秘訣はどんなところにあるのか、伺ってみました。

これは私の個人的な意見ですが、勝者になるための要素は、パラドックスとも言えるでしょう。なぜなら、伝統を尊重しつつも革新的でなければならず、カリスマ性があり、でも楽曲に忠実で、そして審査員と聴衆を納得させるために非常に感情豊かでなければならないからです。これらすべての要素を備えていれば、優勝する可能性が高いでしょう。ですが、そこには運の要素もあります。そしてその日のコンディションも。

なぜなら、コンクールのファイナリストは皆、トップクラスのアーティストなんです。なので、もしファイナルの日程が違っていたら、違う優勝者になることもあると思います。

それでも、素晴らしいカリスマ性と幸運があれば、多くのことを達成できます。というのも優勝することも大切ですが、たとえ銀賞や銅賞、4位であってもキャリアは開けるんですよ。ピアニストとしての名声を与え、道を切り開いてくれます。ですから、ファイナリストになること自体がすでに勝利なのです。実際のところ、コンクールに参加する84人の一人になれれば、その時点ですごいことなんです。

そんな本戦出場者の中には、13人の日本人、そして26名が中国からエントリー、とアジア勢の強さを感じられますが、この傾向はどう感じているのでしょうか?

もともと、アジアの人々にショパンの音楽を聴いてもらおうと努力してきたわけですが、日本については、例外とした方がいいでしょうね。というのも、最初の日本人参加者は1937年の第3回コンクールにすでに出場していましたから。ですから、そこには長い伝統があるわけです。なので、「アジア」としてひとくくりにはできないんです。

2015年の韓国のチョ・ソンジンさんの成功が母国に与えた影響は大きいですよね。ショパンマニアを生み出しています。そして、中国については、音楽だけでなく、スポーツなどでも躍進的な活躍をしているので、その流れがピアノにも来ているのだと思います。

スポーツイベントや文化イベントを見れば、中国の存在感が非常に大きいことがわかります 。そして、アジアの若者たちの勤勉さと努力には、頭が下がります。私は、才能は世界中に平等に分布していると信じているんですが、そこに至るために必要な努力や高い精神力は、アジアの若い世代により多く見られると思うんです。

いよいよ創設から100年に近づいているショパンコンクール、長年、そのドラマティックなイベントを見てきたLaskowskiさんに、これまでの大会の中で、劇的なシーン、忘れられない場面など伺いました。

毎回、本当に色々な感情が湧きますよ。私と上司が次のステージに進む人々のリストを発表するたびに、そこにいる皆が大きなドラマを経験するんです。私もそのリストを読み上げるたびに、心が張り裂けるような思いです。なぜなら、彼らは皆、本当に才能のあるピアニストだから。でも、ここで言いたいのは、たとえ次のステージに進めなくても、諦めないでほしいということです。ファイナルに進めなくても、レコード会社に注目され、素晴らしいキャリアを築いている出場者もいます。ですから、常に別の機会があるのです。例えば、イーヴォ・ポゴレリチのはファイナルに進めませんでしたが、世界中の音楽愛好家の間では誰もが知る存在です。

あと、この前、反田恭平さんと小林愛実さんと会ったんですが、愛美さんが言うには、『ステージに上がる前はいつも緊張して、舞台恐怖症なんだけど、もっと怖かったのはコロナの検査を受けた時だった』と 。『もし陽性だったら、コンクールに出場できなくなって、長年の練習が無駄になってしまうから』と言ってましたよ。

本当に色々な場面があるわけですが、今回は、コロナ禍のようなことは起こらないことを願っています。

フリデリク・ショパン国際ピアノコンクールを運営するポーランド国立フリデリク・ショパン研究所のスポークスマンDr. Aleksander Laskowskiさんに事前にお話を伺った模様をお届けしました。設立100周年を控え、今回は、賞金も大幅に増額となっているショパンコンクール。(1位は、6万ユーロ(約1020万円)。 前回は4万ユーロ)ちなみにこのコンクールを目指す若者たちへのアドバイスも 伺ったところ・・・とにかく、鍛錬あるのみ。そして、ショパンの音楽に耳を傾け、これまでの最高の演奏をどんどん聴いてみてください。また、ぜひポーランドに来て、ショパンの生家や博物館を訪ねたりして、ショパンの音楽を感じてみてください、といただきました。

ラスコウスキーさん曰く、ショパンの魅力は、人間の魂を音楽に表現していること、皆が経験している悲しみも苦しみも、全てをピアノの調べに載せて表現していることなんじゃないか、と教えてくれました。本戦はYouTubeでも配信されますので、みてみてはいかがでしょうか?

リスナーの皆さんの中にもピアノを弾かれる方、楽器を演奏される方、多いのではないでしょうか?皆さんのお好きな楽器、取り組んでいるレッスンなど、ぜひXやメッセージで教えてください。