先週に引き続き、映像作家のアリ・ビーザーさんのインタビューをお届けします。先週もご紹介しましたが、アリさんは、1945年8月、広島と長崎に原爆を投下した両方の爆撃機に搭乗した、ジェイコブ・ビーザーさんを祖父に持ち、母方のお祖父様も在米の被爆者の方と親交があったという方。歴史に向き合い、被爆者やその家族へのインタビューやデジタルストーリーによる平和の啓発活動を行っていらっしゃいます。そんな活動の中で、時には、お祖父さんの任務について、厳しい質問や言葉を投げかけられることもあるアリさん。

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今日は、それでも、何度も来日し、原爆の記録と対峙されている理由から伺いました。

私は、祖父が経験したこと、そして、あの時、何が起きたのか、きちんと学ぶことが重要だと思っています。私たち全員が、関わったすべての人から学ぶべきことがあると思うんです。

原爆を投下した人々、そこから生き延びた人々・・・もちろん、究極は、こんなことは二度と起こってはならないということですが、この事態がどのようにして起こったのかを理解しなければならないと思います。これは、歴史の記録であり、ある瞬間の物語なんだと思います。

そして、核は、現在も私たちの生活の中に存在します。例えば放射性同位体を持たない郡はアメリカには一つもないわけで、その状況で、この歴史から学ぶものは大きいと思っています。

そして、私たちが背負っているもの・・・僕は、「爆弾魔の孫」と呼ばれたこともあるわけですが、この活動を通じて、同じように、重荷を背負っている人たちがいることに気付かされました。

私は、原田小鈴さんをはじめ、被爆された方、その家族とさまざまな人々と話をしてきました。そして、同じ重荷を背負っていることに気がつきました。最初は、自分だけだと思っていたものも、同じく、背負っている別の人に会うことで、その負担は少し軽くなるような感じがするんです。だからこそ、そういった人たちの心の重みを少しでも和らげ、軽くできたらと思っています。」

というアリさん。ギリシャ神話の神アトラスが世界の重みを肩に背負っているという逸話から、戦争体験者やその家族が心に重荷を抱えている状態を「アトラス問題」と呼んでいるそうですが、その負担を実際に軽減できた経験、そして活動の意味についても話してくれました。

以前、生存者の方に会って、話を聞いていると、「この出会いで、68年間感じたことのない肩の荷が下りるのを感じた」という言葉が出てきました。その言葉だけで、来日した意味があったと思いました。そして、私たちは、この思いを引き継ぐためにここにいるんだと感じられたんです。

ですが、アメリカでは、こういった教育は行われていない現実があります。だからこそ、私がやろうとしているのは、あの時、何が起こったのか、理解を得る手助けをすること。私はナショナルジオグラフィックにいたので、実際に、アメリカ史の教科書を更新するよう進めてきました。その結果、今では、キノコ雲の写真だけでなく、乗組員と被爆者の家族が一緒に写る写真が掲載されているんです。

そして私の役目は、歴史をより身近な、人間味のあるものにすることだと思っています。本や映像などを通じて、伝えること、様々な人たちに届けること。そうすることで、次にボタンを押そうとしている人がその手をためらい、止めることに繋がれば・・・」

と話してくれました。さて、最近の調査では、核爆撃を是認するアメリカ人が減少しているという傾向が示されています。この状況は、実際に感じられているのでしょうか?

実際に私のインスタグラムでも、「原爆は正当化できると思うか」というアンケートを出してみましたが80%は間違いなく、それが正当化できるとは考えていないようでした。これからも分かるように、より良い、正確な情報を与えれば、人は、過去を客観的に見ることができる。残念ながら、私たちは起こった事実を変えることはできません。だからこそ、今、私たちができることは、それが再び起こらないように、それと向き合うことだけだと思います。

現代の爆弾は、広島、長崎を合わせたものよりもはるかに大きいものになっている、もしその爆弾が使われたら・・・それは想像を絶することです。だからこそ、起きてはならない、そして、私たちが過去の戦争と向き合う手段として、『オッペンハイマー』のような映画やジェームズ・キャメロンも映画を計画しているようですし、そういうものを見ることも大切だと思います。

では、こういった過去の歴史を知ること、そして未来へ繋げることの意味について伺いました。

戦争の歴史は、本当に暴力的なことだったと思います。私は、およそ3年間、ルワンダで過ごした経験があります。ルワンダでは、1994年のジェノサイドの後、新しい世代が現れ、自分自身の物語を語る方法を探していました。そこで、私は、ドキュメンタリー映画の制作を教えていたんです。20歳の彼らには、新しい人生があり、そして、語る物語がある。

そして、私が感じたのは、全ての鍵は「許し」という行為にあること。過去は暴力的ですが、未来はそうである必要はない。そして、私たちは互いに、共に生きるなければならないことを学ばなければならない。ルワンダではジェノサイドの後、最初に下された命令は報復殺害の禁止でした。そして「ガチャチャ」と呼ばれる草の根の裁判所で、人々は自分たちがしたことを認め、許しを求めました。そしてもし彼らが認めれば、彼らは恩赦を与えられました。

現在、イスラエルとパレスチナとの間で起こっている戦争を見ると、どうしてこれが可能なのか、と絶望を感じます。私が日本から多くのことを学んだように、私たちの国々の間、すべての国々の間に非常に多くの違いがありますが、お互いに学び、共に生きるためのより良い方法を見つけることができるのではないかと思います。

広島と長崎に原爆を投下した両方の爆撃機に搭乗したジェイコブ・ビーザーさんを祖父に持つ、映像作家のアリ・ビーザーさんにお話を伺った模様、その後編をお届けしました。

祖父の体験について、別の側から話を聞き、記録してきたアリさん。その経験を未来へと紡ぐ活動となっているよう。お祖父様のジェイコブさんも、原爆の投下後、「二度とこんなことは起こってはいけない」と言っていたと先週もお届けしましたが、そんなジェイコブさんご自身も、インタビューやメモなど、全て記録し残していたからこそ、アリさんが色々知ることができたわけですよね。その行為には、アリさんと同じく、より多くの人たちに、戦争の悲惨さ、惨さについて知ってほしかったという気持ちがあったのかも。

アリさんと原田小鈴さんの共著『「キノコ雲」の上と下の物語 孫たちの葛藤と軌跡』は、朝日新聞出版から発売中。そして、アリさんの著書「The Nuclear Family」もAmazonで購入可能です。ぜひチェックしてみてください。

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皆さんも、家族の間で伝えられてきたこと、教え、などありますか?ぜひ、メッセージ、そしてXでお寄せください。