100年に一度、いえ、1000年に一度とも言える大規模再開発が進行中の渋谷で現在、展覧会を開催中の建築家・内藤廣さん。渋谷再開発の「デザイン会議」の座長を務め、数々のランドマーク、名建築を設計されてきた内藤さんのインタビュー後編を今朝はお届けします。
人口減少、高齢化が進む日本において考えさせられる再開発、建築の意味。そして、改めて見つめ直すそれぞれの街の個性など、内藤さんならではの視点で見る東京には、新たな発見や魅力が溢れていました。
JK ：大都市を取り巻く再開発の中で「多様性」「持続可能性」「国際競争力」などさまざまな耳障りのいいキーワードが踊っていますがこちらはどう捉えていらっしゃいますか？
内藤： 私は、渋谷以外にも、新宿、品川、名古屋などいくつかの都市を見ているんですが、それぞれの街にはそれぞれの街の癖というか、DNAがあるわけだから、それを活かすべきだと思っています。そこをちゃんと汲み取ってやらないと、ここから先は生き延びれないかもしれない。ここから先は、ちゃんと街とともに呼吸をして、そこのDNAを生かすような開発が出てくれば、その街は生き延びることができるんだと思います。
JK： それぞれの街のDNA・・・これはどういう風に組み上げられるものなんでしょう？
内藤： これは、実に微妙で、言葉にもならないかもしれないけれど、例えば渋谷で、ある時、平日の真昼間に女の子が2人、スクランブル交差点の前で立っていたんですよ。多分高校生ぐらいね、で、その子達が渋谷の道玄坂のほうを見て「これが渋谷だよね」って言ったんです。その彼女たちが言った「これ」は何だろうと、それが分からないと渋谷の計画ってやっちゃいけないんじゃないかって思ったんです。それがDNAです。彼女たちが「これ」って言ったのはおそらく渋谷が森に見えてたんだと思うんです。おそらく彼女たちが出てきた地方都市では立ち話の内容も次の日にはみんなが知ってるみたいな・・・でも、渋谷では、彼女たちが雑踏とかビルの中に紛れ込めば身を隠せるような場所で。そういう、なんかこうスポンジみたいなものがたくさんあって、それが僕は渋谷のDNAなんじゃないかなと思うんですね。
JK： では、それをどうやって建築物や環境に落とし込むのでしょうか？
内藤： 開発っていうとツンツルテンの隙間のないようなものができちゃいますけれども
それでは渋谷はだめになると僕は思うんですね。やっぱり色々なひだがあって、逃げ込めるような隙間があって・・・そういう隙間だらけの町ができるといいなと思ってます。
JK： 昨今、明らかに人口が減ってきているという傾向です、超高齢化です、そんな中で、建築は、この縮行く日本にどう寄り添ってくれるんでしょう？
内藤： この先、東京は、超高齢化、超高密度都市になっていくと思っていて、これは、人類未体験ですね。だからこそ、中途半端に作ったものやマネーゲームで作ったようなものは立て替えるというより、壊す、減っていくんだと思います。でもそれは別に暗い話ではなくて、それをいかにクリエイティブにできるかというのを、これからみんなで考えていく時代なんじゃないかなと思います。
JK： 先生は70年代半ばはスペインの建築事務所にいらっしゃって、ヨーロッパ、特にドイツなどは、再開発ってないですよね？
内藤： 僕がスペインにいた頃はマドリッドの中心地のアパートの値段が高いので、町の周辺に行政が昔の住宅公団みたいなものを建てたりしていましたが、時代時代によって再開発のやり方も変わるんだと思います。けれど、心配なのがそれによってその街の個性が薄くなってしまうこと。例えば、バルセロナでバルセロナオリンピックをやった時にかなりの再開発を旧市街地にも入れたわけですが、それによってバルセロナの味が薄くなった感じがした。やっぱり都市はもっと個性的であるべきだと思います。そして、東京は、実は非常に個性的な街がたくさん山手線の中にあって、その個性をもっと生かすようにしたら、東京はとても素晴らしい町になると思うんです。僕は「ネックレス」って言ってるんですけど、小さな宝石が散りばめられたネックレスみたいに、電車に乗って5分隣の町に行くと全く違う街がある。こんな面白い街、ないと思うので、そのためにはいらないものを減らしつつ、個性的な街をキュッとまとまった形で作っていくのが多分これから求められるんじゃないかなと思います。
今朝は、建築家の内藤廣さんのインタビュー後編をお届けしました。東京は、個性的な街が山手線の輪の中にいくつもある、ネックレスのような街。「都市はもっと個性的であるべき」という言葉もありましたが、 内藤さんの視点で東京を見直してみると、とっても魅力的な街であることが再発見できるようでした。
そんな内藤さんの頭の中を覗けるような展覧会 「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘」は、渋谷ストリームホールで開催中です。
どうでしょう、皆さんは、東京の中で、お好きな街、個性的だと思うエリアありますか？ぜひ、Xやメッセージでお寄せください。