今朝は、先週に引き続き、名門ジャズレーベル、ブルーノート・レコードの社長兼プロデューサー、ドン・ウォズさんをお迎えしてお話を伺った模様、後編をお届けします。

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ご自身もベーシストであり、プロデューサーとしてもグラミー賞を6回受賞されているドン・ウォズさん。今日は、そんなプロデューサー業について、数々のレジェンドたちとの仕事について、お話してくれました。

ではドン・ウォズさん、名プロデューサーに必要な資質とは、どんなものなんでしょう?

良いプロデューサーとは、アーティストの頭の中にある音を引き出し、形にする手助けをする役割だと思うんだ。時には、それはただ後ろに座っているだけの時もあるんだけど。

例えば、ジョン・メイヤーなんかは、素晴らしいアイデアをたくさん持っているので、何か言うというより、「どれがいい?」と聞かれた時に、「これが一番かな」って言う感じ。それだけ。

でも、どのアーティストも彼らの頭の中に鳴っている音を解明して、それを引き出す役割だね。

ウィリー・ネルソンでも、ミック・ジャガーでも、キース・リチャーズでも、同じ。

もちろん、すごいプレッシャーだけど、彼らはいつもすごく真剣なんだ。常にレコードのことを考えながら家に帰り、一晩中考えて、また翌日には新しいアイデアを持ってくる。だから僕も負けじと、真剣に取り組むんだよ。

そんなレジェンドたちのプロデュースを手がけ、自身もベーシストとして活躍、更に、ブルーノートの社長、と3役を勤めてきたドン・ウォズさん。様々な角度から音楽と向き合う中で、世の中には、2種類の音楽があると言います・・・

僕は今でも根っからのミュージシャンなんだよ、だから演奏を続けているし、9月には自分のバンドと一緒にブルーノートで3日間ライブをやる予定なんだけど、演奏しているとき、僕は「ここではジャズっぽくやって、次はブルースのフレーズ、で、なんてことは考えない。そんなふうに頭で計算するんじゃなくて、心から演奏するんだ。

僕にとって、音楽には2種類しかないと思っている。「寛大な音楽」と「自己中心的な音楽」だね。自己中心的と言うのは、「見てくれよ、俺はこんなに速くたくさんの音を弾けるんだ」って、ひけらかすような音楽。そういうのは僕は聴きたくない。「すごいな」とは思うけど、それ以上の感情は湧いてこない。

一方、「寛大な音楽」というのは、そのアーティストが「これが、今自分の中にあるもの。言葉じゃ伝えられないから音楽にして君にも届けたい」っていう気持ちで作った音楽。そしてそれを聴いた人が、何かを感じ取ってくれたり、少しでも元気になったり・・・そんな音楽が、寛大な音楽なんだ。

だから、ボブ・ディランでも、ジョン・メイヤーでも、ウィリー・ネルソンでも、ローリング・ストーンズでも、彼らはみんな、「寛大なミュージシャン」なんだよ。

さすが、レジェンドたちと仕事をしてきたからこそ、感じられる音楽の真髄。では、ジャズ以外のジャンルについては、どう感じているんでしょうか?

僕がトロントにいた夜、ちょうどテイラー・スウィフトがスタジアムでライブをしていて、街中が彼女のファンであふれていたことがあったよ。全身キラキラな女性たちで通りは大混雑。でも、僕はそれを否定しません。人それぞれ、幸せになれることがあればそれでいいし、時代は変わっていくものなんだ。

いつの時代にも色々な音楽が存在している。僕にとっての「黄金時代」と言える1965年や1966年。ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」が全米1位だったその週、2位はノベルティ・ソングだったし・・・。でも素晴らしいのは、誰にとっても何かしら心に響くものがあるってこと。時間をかけて探せば、自分の心にちゃんと届く音楽に出会えるはず。そして、それを見つけたとき、人生はきっと今よりずっと豊かになると思うよ。

ジャズは敷居が高い、と感じる人も多い中で、ドンさんは、現在のジャズシーンをどう捉えているのでしょうか?

僕は、今のブルーノート所属アーティストの名簿を、この会社の歴史上のどの時代にも対抗できるものだと思ってるよ。ジョエル・ロス、イマニュエル・ウィルキンス、ジュリアン・ラージ、そしてブランドン・ウッディのような、素晴らしい若手ミュージシャンがいっぱいだし。また、ポール・コーニッシュという素晴らしいピアニストのデビューアルバムも控えてるしね。でも一方で、87歳で現役のチャールス・ロイドもいる。88歳のロン・カーターも、新しいレコードを制作しているしね。ブランフォード・マルサリスやジョシュア・レッドマンもいる。レーベルはすごく順調だよ。テイラー・スウィフトの流れと比較すると、ちょっとニッチではあるけれど、それでも依然として多くのファンがいるんだ。

では、最後に、ドンさんが思うジャズ、そして音楽の素晴らしさについて伺いました。

ジャズは、もともと反抗的な音楽だった。ビーバップは、今聴くと、少し古風に聞こえるかもしれないけど、ビッグバンドで一晩中譜面を読んで演奏していたミュージシャンたちが起こした反乱なんだよね。譜面を読むんじゃなく、即興演奏がしたい!って。彼らにとって気晴らしであり、羽目を外すチャンスだったんだ。

そして、それは決して今でも変わっていない。僕がブルーノートで働き始めたとき、50年、60年前に作られたレコードが、なぜ今もなお、活気にあふれているのか考えたことがあった。そして見出したのは、ブルーノートはあらゆる時代において、音楽の基礎を学んだミュージシャンと契約してきたということだった。彼らはその知識を使って、境界線を押し広げ、全く新しいものを創造してきた。ほとんどの人は知識を得たら、すでに成されたことを繰り返すだけなんだけど、先見の明のあるミュージシャンは、それを前進させる。

40年代のセロニアス・モンクであろうと、50年代のアート・ブレイキーであろうと、60年代のウェイン・ショーター、ハービー・ハンコックであろうと、あるいはロバート・グラスパーであろうと、彼らは皆同じことをしてきた、音楽を前進させたんだ。

そして、人々は、その探求心とルールをぶち破ってきた彼らの音楽に共感するんだと思う。人生って本当にややこしいと思うよ。混沌としていて、何が起きるかなんて誰にもわからない。

人は離婚するし、突然クビになることだってある。この人生で本当に信じられるものなんて、ほとんどないんだ。だから、生きていくのは簡単なことじゃない。

そんな中で、もし音楽が誰かの道しるべになったり、気持ちを少しでも楽にしてくれるものだとしたら・・・それって、とてつもなく素晴らしいことだと思うよ

名門ジャズレーベル、ブルーノート・レコードの社長兼プロデューサードン・ウォズさんのインタビュー、後編をお届けしました。

ドン・ウォズさん、「DON WAS & THE PAN-DETROIT ENSEMBLE」として、9/27(土)ブルーノートジャズフェスティバルにご出演されます!

10月には、ユニバーサルミュージックからリリースされるCD、Everything Jazzには、ブルーノート編として、50作品が収録予定。こちらは10月22日、リリース予定です。

今回のインタビューで、ジャズの魅力、音楽の力、たっぷりお話いただきましたが、皆さんが感じる音楽のパワーとは?皆さんが影響を受けた音楽やお好きな曲なども、Xやメッセージで、ぜひ教えてください。