先週、322日に、放送開始100周年を迎えた日本のラジオ放送。今や、生放送を聞き逃しても、radikoによるアーカイブ視聴が可能になっていたり、ポッドキャストや音声SNSなど、メディアの種類も広がっています。そこで今朝は、イギリスでご自身もラジオプレゼンターとして活躍され、世界初のスマートフォン用ストリーミングラジオアプリの開発も手がけられた、音声メディアジャーナリストでありコンサルタントのJames Cridlandさんに、現在のラジオを取り巻く状況について、お話を伺います。

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現在、オーストラリアのブリスベンにお住まいというCridlandさん。まずは、現在のラジオを取り巻く環境について、教えていただきました。

まず、なんと言っても、ラジオは今でも非常に大きな影響力を持つメディアだということなんですね。多くの国では、毎週9割の人々がラジオを聴いている状況で、ロンドン、シドニー、ロサンゼルスといった都市を見ても、ラジオを聴いている人は多くいます。ラジオの良いところは、「人と人とのつながり」や「体験を共有できること」だと思います。そして、それは今後も続いていくでしょう。

そして、ラジオは、テレビとは大きく異なり、パーソナリティとの距離が非常に近く感じられるのが良いところ。さらに、「耳だけで楽しめる」メディアで、画面を見る必要がなく、何かをしながらでも楽しめるのがラジオの魅力です。例えば、運転中や家事をしているとき、庭仕事をしているときなど、そこにいてくれる・・・どんな状況でも楽しめるコンテンツなんですよね。これは今後も変わらないラジオの大きな特徴だと思います。

とのこと。早速ラジオの魅力についてもお話しいただきましたが、今や、音声メディアといえば、ポッドキャストなども人気です。こちらについてはどう思われているんでしょう?

最近では、ラジオ局がポッドキャストを配信して、番組がポッドキャストとしても配信されることが増えてきました。これにより、リスナーは好きなときに好きな番組を聴くことがでるわけですが、実際に、日本では、若者のおよそ3分の1がポッドキャストを利用しているというデータもあり、その人気はTikTokに匹敵します。ただし、ラジオほどの影響力にはまだ至っていないと思っています。

ですが、ポッドキャストとラジオはどちらも音声メディアということで、相性も良いと思ってるんです。「人が人に話しかける」という本質は同じですからね。

そのため、ポッドキャストの普及はラジオにとってプラスの要素になり得ると考えています。さらに、オンデマンド型のラジオも増えてきていますし、ラジオの視聴方法も多様化しています。従来のFMラジオを聴く人も多いですが、スマートスピーカーやモバイルアプリなど、さまざまなプラットフォームでラジオを楽しむ人が増えています。

実際に、世界中でラジオ放送のスタイルが進化していて、選択肢が増えているのが現状です。例えば、イギリスの「Absolute Radio」では、80年代の音楽だけを流すチャンネルや90年代の音楽専門のチャンネルなど、リスナーの好みに応じたバリエーションを提供しています。これにより、馴染みのあるDJの声を聴きながらも、自分の好きな音楽だけを楽しむことができるというわけです。こうしたラジオの再構築が進んでいることが、イギリスやヨーロッパの一部でラジオの聴取者数が過去最高を記録している理由の一つだと思います。

とのこと。では、音楽ストリーミングサービスの台頭やAIについてはどう考えていらっしゃるんでしょう?

もしラジオがただの「音楽再生」メディアだったら、SpotifyYouTube Musicといったストリーミングサービスが大きな競争相手になったでしょう。ですが、ラジオの魅力はノンストップミュージックだけではありません。ラジオの最大の強みは「人と人とのつながり」や「共有体験」にあります。だからこそ、ラジオは今も多くの人に支持されているんです。

例えば、あなたのようなラジオパーソナリティがいることで、ラジオは未来に向けても意義のあるものであり続けると思っています。こうやって今この番組を聴いている何十万人ものリスナーとつながっています。この「人間同士のつながり」こそが、ラジオが長年愛されてきた理由であり、今後も続いていく理由でもあると思っています。

一方、北米、特にアメリカでは、AIによる音声がラジオのパーソナリティを務める事例も出てきています。ただ、これが長期的に定着するかは疑問です。確かに面白い技術ですが、ラジオ全体をAIが担うのは難しいでしょう。ラジオパーソナリティの個性や人間らしさは、リスナーとのつながりにおいて重要な要素だからです。とはいえ、AIには放送業界をサポートするツールとしての可能性があります。例えば、音楽業界向けの煩雑な事務作業をAIが代行することで、ラジオのクリエイターはより創造的な番組制作に集中できるようになります。そのため、AIは「便利なツール」にはなるでしょうが、ラジオのパーソナリティを完全に置き換えることはないと思います。

ということでした。

では、長年、ラジオの見つめてこられたCridlandさんに最近のトレンドについても伺いました。

最近のトレンドの一つとして、既存のラジオ局の分割という形が見られます。例えば、ベルリンの「RTL」というラジオ局では、朝の番組が大変人気だったため、これを分離させて、丸ごと24時間、モーニングショーを配信する専門局を作っています。日本では、1日平均35分しかラジオを聴かない人が多いため、放送を聴き逃してしまうことがよくあるわけですが、このように「特定の番組を24時間聴ける」という仕組みがあれば、便利ですし、ファンは喜びますよね。

また、スタジオにカメラを設置して、ゲスト出演時の様子を映像としてSNSで発信するケースも増えています。ですが、最終的にラジオの最大の魅力は「音声メディアであること」。画面を見なくても楽しめるメディアであり、テクノロジーを活用して選択肢を広げることは良いアイデアですが、ラジオの本質は変わらないと思います。

では、今後、さらにラジオが広がるため、リスナーを増やすためには、どんな試作があるのでしょうか?

ぜひ、面白かった番組の話を他の人にしてあげてください。あと、ラジオの聴き方を教えてあげてください。アプリ世代は、ラジオのチューニングの仕方を知らない人も多いので、そこから教えてあげて!

さらにラジオは、災害時にも重要な役割を果たすこともメリットですよね。最近、オーストラリアでは大規模なサイクロンが発生して、私もバッテリー式のラジオ片手に情報を得ていました。日本でも自然災害は多いですが、そんなときこそラジオの真価が発揮されます。スマートフォンやインターネットが使えない状況でも、ラジオは情報を提供し続けますので、そんな時にも使えるのは良いところですよね。

James Cridlandさん、ありがとうございました!

音声メディアジャーナリストJames Cridlandさんにお話を伺いました。日本でラジオ放送が始まって100年を迎えたということで、現在の世界的なラジオの動向についてお話伺いました

ちなみに、Cridlandさんのお好きなラジオ番組について聞いてみたところ。ロンドンの「LBC」・・・これは「(ロンドン最大の会話)London's Biggest Conversation」の略で、リスナー同士が対話する場を提供するトークラジオ。ジャーナリストのニック・フェラーリが担当する朝の番組が面白い。

音楽系ではカナダのアラン・クロスというDJが素晴らしい番組を展開中。ということでした。