昨年、11日午後4時10分。人々が故郷に集い、一年の幸せを祝う元日に能登半島を襲った地震。

今日は、この地で被災した新聞記者として、その様子を記してきた中日新聞北陸本社 七尾支局長で、このほど、北陸中日新聞能登版、東京新聞朝刊、「特報面」のコラムをまとめた、「能登半島記 (未完) 被災記者が記録した300日の肉声と景色」を刊行された、新聞記者の前口憲幸さんに お話を伺います。

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*前口さんの本「能登半島記 (未完) 被災記者が記録した300日の肉声と景色」は、1月5日の金曜日から日記の形式で10月31日木曜日までの日々を記されているんですが、毎日それもご自身も被災されて大変な状況の中、日記のような形態での記事を発信しようと思われた理由は?

あまりに大きな大災害で、筆を取り始めたのはこの現状を、壊れてしまった能登の現状を伝えたいと、知っていただきたいという、すがるような思いでスタートしました。いつも見ている景色が見れない、いつも通っている道が通れないということの現実を突きつけられて、地元にメディアを置く新聞社の一人として何としても伝えたい、というのが正直なところでした。

*取材の難しさというのもあったのでは?

まず通れない道など、道が寸断されたというのが非常に大きくて、現地に記者が入れないわけです。その辺では苦労を重ねながらの挑戦という形になりました。

ですが、能登の方々は昔から古くから「能登はやさしや土までも」と言い伝えられている通り、皆さんそんな状況でも励ましあって、記者を気にかけてくれるような場面もあってこちらが逆に励まされながらという場面にも出くわしながらの取材でした。

*ですが、いまだに六つの地区で断水の状況にあるというのは、なかなか理解し難い状況ですね?

私も被災しまして一ヶ月二ヶ月ちかく、断水生活を経験しながらの取材の日々だったんですが、もう水がないというのは本当に不便で、お風呂に入らずお風呂入らず、顔も洗わずで現場に記者を送り出して、自身も被災地を歩くとそういったような現状が続いているのはすごくつらい日々だったんですけれども、まだ今なお水が出てない地域があると、ポリタンクを持って給水車の前に並ぶ人たちがいるっていう現状は本当に切なくてそれを知っていただきたいという思いでこの本を出させていただいたというところです。

*そして、能登を襲ったのは元日の地震だけでなく、秋分の日を挟んだ3連休初日の9月21日(土)の豪雨も・・・本の中にも「誰を恨むでもなく、天を恨みます」とありましたが、あの時の思いとは?

まさにようやく少しずつ復旧が進んでさらにもう少しで仮設住宅に入れるという状況で、知り合いのお年寄りからも「もう体育館の床で寝なくていいわ」と電話頂いたその直後に、本当に楽しみにしていた仮設住宅が水に流されると···これほど残酷なことはないんじゃないかなと。二重三重の苦難をあの与えられているというようなそういったような現状が今なお続いている状況です。

そして、行政の対応に関しましても、例えば水に流された仮設住宅の地はハザードマップで水が出る地域と言われてたんですけれども、能登半島というのは本当に地形が複雑で、そういった土地の少ない平地の少ない土地の中で、あの仮設住宅を供与するしかなかったという現状もあったので、本当に何が問題だったということはなかなか難しい現状があるというふうに感じております。

*進まない復興・・・取り戻せないもの。半島先端の珠洲市の一部では未だ断水状態・・・前口さんはこの本の続きも書き続けていらっしゃると思いますが、取材された中で、忘れられない情景とは?

この七尾支局のすぐそばにあの避難所が9月まで開設されていたんですが、その中でお年寄りが、もうすがるような目でこの現状を伝えてくれと、新聞に書いてくれと言われた時の表情が忘れられないですね。あとはその避難所で毛布を座布団にして、幼い子どもを寝かしつけている母親の姿なども本当に忘れられなくて、この地震の現状をなんとしてでも知ってもらいたいという思いで走り続けた300日でした。

*私たちができることはありますでしょうか?

まず私が取材者として、そして被災者として強く感じたのは、この能登半島地震のこと忘れないでいただきたいなと。やはり忘れられるということはこんなにも怖いことなんだっていうのを当事者となって改めて感じました。毎日溢れるニュースがあり、毎日日々刻々と変わっていく社会情勢の中で、その節目だけではなく、少しでも長くこの能登半島地震のことを、被災地のこと、被災されて家を失くして、思い出をなくして、大切な誰かを亡くした人がいるっていうことを一日でも忘れないでいていただけたらなと思います。

*この本は能登で印刷されているそうですね?

はい、被災した能登で印刷して、能登から発送しています。現在、多くの方に購入していただいていますが、資材も足りなかったりと時間がかかってしまいますが、能登で印刷していることをご理解頂いて、少し待っていただいて手に取っていただければと思います。

今日は、「能登半島記(未完)被災記者が記録した300日の肉声と景色」を刊行された、新聞記者の前口憲幸さんにお話を伺いました。

タイトルにある「未完」という表現。 現在も、災害関連死が次々と追加され、行方不明者の捜索、災害関連死200人以上の審査が 終わっていない状況の能登。「大災害は終わっていない」という意味が込められています。

「未完」がいつか「完」になることを願って、その日まで、この地の現実の姿を伝えたいとする前口さん。こちらの本、売上の一部が能登への寄付となっていますので、ぜひ、実際に手に取ってみてください。