社会構造や環境など、人々が生きるうえで、より複雑になっている現在、世界各国で社会格差が広がる中、世界で注目されている新しい学問の一つが「幸福学」と言われています。
幸せになりたい、という基本的な人間の欲求・・それを学問として追求していくというもの。(大学の学科としても注目されているんですよね)そんな中、今、日本の多くの書店でベストセラーとなっているのが辰巳出版から発売されている本「グッドライフ 幸せになるのに遅すぎることはない」です。
今日は、人生の指南書とも言えるこの本の著者、ロバート・ウォールディンガーさんに事前にお話を伺った模様をお届けします。

ハーバード大学医学大学院・精神医学教授であり、マサチューセッツ総合病院を拠点とするハーバード成人発達研究の責任者でもいらっしゃるウォールディンガー博士ですが、まずは、この本を出版するに至った過程、そして、この本のベースとなっている研究について教えていただきました。
そもそも、出版前にTEDトーク「何がよい人生をつくるのか」(What Makes a Good Life)を行ったわけですが、ボストンの小さな講堂で行ったこのトークの再生数は、せいぜい何千ビューくらいかと予想していたところ、なんと、今では、5000万ビューも再生されるまでになっています。そこで、いかに皆さんが私たちの研究結果や幸せについて関心があるということがわかり、本を出版することにしました。
人々は、名声を築かなければいけない、お金を稼がなければ、長時間労働しなければいけないという、実はどうでもいいことに圧力を感じているわけですが、お金も名声もある程度満たされれば、その後は、特に幸福度が上がるというわけではないことがわかっています。
私たちの研究では、724の家族を1938年からずっと追いかけています。非常に恵まれたハーバード大学で勉強している学生たち、そして、もう一つは、貧困など、非常に不利な状況にある家庭で育った子供達と調査対象を2つのグループに分け、彼らがどのような人生を送っているのか、当事者だけでなく、その家族たちにもインタビューを行い、何が彼らの健康や幸福を支えているのか調査してきました。
85年に渡るハーバード成人発達研究からもたらされた幸せになるための秘訣が書かれているこの本では、幸せに重要なのは、人間関係だと分析されています。ですが、分断が進む現代社会の中で、私たちが幸せになるためには、どんなことに努力すれば良いのでしょうか?
努力を注ぐべきものは、2つ、一つは、私たちが没頭できる活動に注意を向けること、それは仕事でもいいし、趣味でもいい。もう一つは、私たちが大切にしている人たちに時間やエネルギーを注ぐことこの二つが充実した人生を送るために大切なこと。
何千もの人を調査する中で、それぞれの幸せの形があり、それぞれが違うからこそ、自己表現できることが大切だというこの研究。画一的な社会は、ある程度の人には合っていても、他の人の幸福度を下げることが多いので、多角的な社会の方がより多くの人たちの幸せに繋がります。
人との繋がり、そして多様性、多角的な社会が、より幸せな人生に繋がるということですが、日本では、2035年には、人口の37.2%が一人暮らしになると言われています。
また、2020年の政府による実態調査で日本人の3人に1人が孤独を感じていることが分っていますが、この状況については、ウォールディンガー教授は、どう思われているのでしょうか?
アメリカでも同じような現象が起こっていて、3分の1の人たちが孤独を感じ、単身世帯が増えています。この状況は対処すべきもので、よりお互いが関わり合う環境を作らなければならないですし、孤独な人に手を差し伸べたりしなければならない。近隣住民と活発にコミュニケーションをとることや、社会的コネクションを持つことの大切さを教えることで、人々が孤独に陥らないようにしなければならない。
どんな質問にもゆったりと、静かにお答えくださったロバート・ウォールディンガー教授ですが、ご自身は、より充実した人生のためにどんな努力をされているのでしょうか?また、内向的な人たちが幸せになるための秘訣も伺いました。
私自身は、禅を取り入れていて、これが非常に役立っています。日々、瞑想も行っていますし、定期的に体を動かすようにしています。また、この研究で人との関わりが重要だと学んだので、以前より、人間関係に重きを置くようになりました。一人でテレビを見ていたいこともありますが、友達や家族を優先するようにしています。
そして、内向的な方へのアドバイスですが、内向的なことは、全く悪いことではないし、外交的、内向的に関わらず、大切なのは、一人か二人、頼れる人を持っておくこと。人生には辛い時期が必ずあるものなので、そんな時にも寄り添ってくれる家族や友人を持つことが大切です。
それでは、最後に、閉塞感を感じ、出口がないと感じてしまっている日本の読者、リスナーの方たちへ幸せになるためのアドバイスもいただきました。
誰かと繋がれる場所を見つけること。全てがしっくり来なくても、そのうちの何人かと親しい関係が作れればいいんです。色々トライしてみて、うまく行かない時もあるかもしれないけど、その中で、心通じる人が出てくるかもしれない。野球で例えれば、毎回、ヒットが飛ばせるわけじゃないけれど、当たる時もあるものです。
禅の教えで The attention is basic form of love (気遣うことは、愛情の基本)という言葉を教えてくださったウォールディンガー教授。より良い人間関係を作るには、人を気遣う気持ちを養うこと、そして、家族や友人などにその時間をより多くかけること。と教えてくださいました。
ロバート・ウォールディンガー博士の著書、「グッドライフ 幸せになるのに遅すぎることはない」は、辰巳出版から発売中です。
