316日に公開となった映画「燃えるドレスを紡いで」。

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こちらは、2016年から、パリのオートクチュール・コレクションに日本から唯一参加しているファッションブランド、YUIMA NAKAZATOのデザイナー、中里唯馬さんに密着したドキュメンタリー。

これまでに、ブラック・アイド・ピーズ、ファーギーなどの衣装などを手がけてきた中里さんが取り組んだのは、世界の廃棄衣料(いわゆるゴミとなった衣服)が集まるアフリカ・ケニアを訪問し、そこで回収した古着を使って、新たなコレクションを作るという試み。1年間に渡る、その記録を収めたのがこの映画なんです。今日は、中里唯馬さんご本人にお話を伺いました。

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ベルギーのアントワープ王立芸術学院ファッション科の修士課程を日本人最年少で卒業され、その後、パリのオートクチュールコレクションは、森英恵さん以来の日本人二人目として参加。数々のスターの衣装から、最近では、ボストンバレエ団の新作バレエの衣装も担当されているという中里さん。今回の映画の内容、驚きでした!なぜアフリカのケニアに?どうしてこういった取り組みをされることに?

ファッションデザイナーとして日々服を生み出す側の立場にいるわけなんですが、衣服がどのようにして終わっていくのか、衣服の最終到達点とは一体どこなのかということにすごく興味があったんです。以前からリサイクルセンターを訪れたりする中で、色々なデザインのヒントが浮かんでくることもあって・・・そんな中、ケニアで、世界最大規模の衣服が大量に廃棄されているという情報を手に入れて、これは一度デザイナーとして見ておきたいなとケニアに旅立ったんです。

*実際にケニアの状況を見られて・・・どう感じられましたか?

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あまりにも絶望的な光景に、僕も本当に落ち込んでしまって、もう服は必要ないんじゃないか、生み出してはいけないんじゃないかなとも思いましたが、やっぱりその現場を見るだけでは全然足りず、何かできることはないだろうかという思いに駆られ、ケニアから衣服たちを日本に持ち帰ってきて、それを最先端のテクノロジーを使って再生して、それで作られたドレスを、今度はパリコレクションという、最も高価な衣服を発表する場に持って行って・・・その時に人が果たして価値を感じるんだろうかとか、このストーリーを含めて美しいと思ってくれるのだろうかと、自分の中で実験してみたかったというか・・・そこにもし何かポジティブなものを人が感じられるのであれば何か未来に希望が持てるんじゃないかと、ファッションデザイナーとして何かこれからもできることがあるんじゃないかと思ってチャレンジしてみました。

*周りからの反応はいかがでしたか?

正直どんなリアクションがくるか分からなかったのですが、最終的には非常に大きな反応をいただいて、それまで何回もパリで発表してきたんですが、それのどれよりも大きなリアクションがあり、本当に象徴的なシーズンだったなと思ってます。特にフランスの歴史あるメディアや新聞がこぞって取り上げてくださって、評価してくださって・・・本当に印象深かったです。

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*この映画、中里さんのコレクションは、ファッションへのアンチテーゼなのか、それとも??

本当にここは難しいところなんですが、ファストファッションから、オートクチュールとある中で、「衣服」として考えた時に実は全てがグラデーションのようにつながっているもので、全て一緒になって考えていくことがとても大事なのかなと思ったりしています。

*このドキュメンタリーの後、中里さんの中で何か変化はありましたか?

ケニアに行って、私にとって非日常的な光景を目の当りにして、より考えが深まる部分もありますし、これまでは一心不乱に突き進んでいくってことを自分の中に課していたところがあったんですが、何かちょっと立ち止まったり、色々な側面から考えてみるようになりました。ファッションのサイクルというのは止められないところもあるんですが、一方で自分の中で少しテンポを変えてみたり、考えを巡らせてみるということも大切だと感じています。本当にこうコツコツ時間をかけてでも何か未来のために今からできることをやっていきたいなと思っています。

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*今後の作品のイメージやどんなものを手がけられたいと考えていますか?

ファッションショーというと見る方も限られてしまうので、今回の映画のようなプロジェクトやオペラやバレエなど、舞台芸術にも取り組んでいたり・・・そうすることでより多くの人たちとの接点が増えたり、日常的に着ている服に対するまなざしが変わるような、そんな変化を異業種とのコラボレーションなど、色々な場所で起こしていきたいと思っています。

3月16日に公開となった映画「燃えるドレスを紡いで」の中里唯馬さんにお話を伺いました。中里さん、今年の6月には、フランス(カレー市)で展覧会も開催予定ということで、更に、世界から注目が集まりそうです。中里さんの姿を追った映画「燃えるドレスを紡いで」は東京K's cinema、シネクイントほか、全国で順次ロードショーとなります。