世界最大級のゲーム賞「The Game Awards 2023」では5部門でノミネートされ「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」は逃したものの、「Best Action/Adventure Game」部門を受賞したのが、日本のゲーム、「ゼルダの伝説 ティアーズ・オブ・ザ・キングダム」。今年5月のリリースから大人気となっているこのゲームなんですが、実は、このゲームを教材として使っているという大学があるんです。ゼルダの伝説をプレーすれば工学部の単位がもらえちゃう?そんな楽しい授業を行なっているというアメリカ・メリーランド大学工学部のライアン・ソチョル准教授にお話を伺いました。

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ゼルダの伝説のゲームをプレーしながら、機械工学を学ぶという授業。そもそもどんなきっかけからスタートしたものなんでしょうか?

ゼルダの伝説ティアーズ・オブ・ザ・キングダムのリリースパーティが5月にあって、そこで早速プレーしてみたんだけれど、やっているうちに、このゲームがいかに機械工学を学ぶ過程に似ているか、気がついて、教材になり得るんじゃないかと感じたんです。

機械デザインや機械工学、そしてロボット工学の研究のトレーニングになるんじゃないかと思いつき、コースを考案したんです。

そう語る、ソチョル教授。もともとゼルダの伝説が大好きで、ご自身は、5、6歳の頃からゼルダの伝説で遊んできたということでした。自宅には、今でも初代のオリジナルのニンテンドーも持っているというソチョル教授ですが、ゼルダの伝説には、どんな学びのポイントがあるんでしょうか?

ゼルダの伝説シリーズには、工学を学ぶ上で本当に大切なものが詰まっていると思うんです。まず一つに、探究心、何かに挑むモチベーション、工学というのは、科学者として探求する心が必要なんです。どうしてこんな風に動くのか、考えることがね。そしてもう一つが、問題解決能力。この能力は工学者としての人生を左右することになる要素だと思っています。この2つが見事に詰まっているのがこのゲームで、まさに機械工学を学ぶにはぴったりなんです。

でも最初は、学生たちもこれで本当に単位がもらえるのか信じられなかったようで、さらに、受講者の半数以上がゼルダの伝説をやったことがなかったんです。

だから、初日に僕が盾やマスターソードの剣を持って教室に入ってきた時は、生徒たちはポカーンとしてました。「何やってるんだこの人は」といった目で見られました。

でも、コンピューターデザインや機械工学の教材としてはとにかくピッタリで、かつ、生徒たちの心を惹きつけて、積極的に参加させることができるんですよ。

では実際に、生徒たちはどんな課題が与えられていたんでしょうか? 

このコースはいくつかのパートに分かれていて、それぞれの場面がどう作用し合うかも学べるようになっているんです。ゲーム内は現実とは大きく違い、例えば、ゲームの中では重力は、地球の3倍となっているし、そういう部分を考慮しながら、どういう機械、マシーンを作っていくかを考えます。車輪だったり、プロペラだったり、色々な機械やロボットを設計して、長いレースの中で、速さを競う訳です。

そして、早くゴールしたチームがA+、といった風に成績を貰える訳ですが、単に早くゴールすればいいだけでなく、途中でトランスフォーム、形を変えたりしなければならないというルールも設けています。同じパーツでどうトランスフォームするか。岩が転がっている道や水の中、もしくは空だったり・・・様々な状況で、どんなロボットが早く進めるのか、考えて設計していくんです。学生たちは、みな、同じNintendo Switchを渡されて、ゼルダの伝説のカートリッジとコントローラーをもらって、同じ状況で構築していくんです。

実は、以前は東大の研究室にいたこともあるというソチョル教授。その際には、3Dプリンターを使ったロボットアームの研究をされていたそうですが、その時の経験で、研究におけるクリエイティブ、創造性や独創性を学んだという教授。今回のこのコースも大人気で、定員の2倍を超える受講希望者が集まったそうです。では、今後のこのコースはどんな予定となっているんでしょうか?

今後はもっと様々なコースが誕生する予定です。もちろん私の授業は、来学期も実施しますが、さらに、修士課程のコースや、反対に、機械工学の基礎を学ぶコースにも「ゼルダの伝説」を使った授業を行おうと考えています。基本的な機械工学の設計にも使えるし、高度なロボット工学にも使えると思っています。そして、ゼルダの伝説が誕生から40周年を迎える時は、外せないですよね。特に、僕はあの音楽が大好きで、授業でも使ったぐらいなので、以前参加した「ゼルダの伝説インコンサート」のようなイベントがまた行われたら嬉しいですね。絶対に参加したいと思います。

ゲームの「ゼルダの伝説」を教材として使用する「ゼルダコース」を開設したアメリカ・メリーランド大学工学部のライアン・ソチョル准教授にお話を伺いました。以前には、全く別の研究で「スーパーマリオ」を活用したこともあるというソチョル准教授。親しみのあるゲームで、研究も楽しい時間となっているようです。