およそ1ヶ月前、8月9日にアメリカの全く無名のカントリーシンガー、オリバー・アンソニーさんがYouTubeにアップした楽曲。「Rich Men North of Richmond」と題されたこの楽曲は、現在までにおよそ5900万回再生され、Billboardでのチャート履歴が無いアーティストながら、ビルボードHot 100初登場でNo.1獲得という史上初の快挙を成し遂げました。
公式サイトもマネージメントもないアーティストとして極めて異例のこの現象について、今日は、ポピュラー音楽研究者で慶應義塾大学法学部教授の大和田俊之さんにお話を伺いました。
●「Rich Men North of Richmond」とは、ワシントンDCの政治家などの富裕層を指し、社会格差や世間の不満について歌われたこの歌、その素朴なMVも驚きですが・・・
アンソニーさんの曲のヒットの直前にジェイソン・オルディーンの「Try that in a Small Town」がヒット、そのビデオが大変な論争になったこともあり、「いくら働いても税金で取られてしまう」「どこかの島の未成年ではなく、もっと炭鉱労働者のことを気にかけるべき」「福祉の給付金の無駄遣い」と謳うアンソニーさんの曲も当初、いわゆる極右の政治家やコメンテーターに取り上げられていました。
●アメリカでは保守層の多くが支持するこのジャンルの曲として捉えられているカントリーミュージック。今回の保守、共和党の予備選に出馬する候補者のTV討論会でこの曲が使われましたがアンソニーさんは意外な反応を示したようですね。
共和党支持、保守寄りの人々が、自分たちと同じ考えだとオリバーさんの曲を取り上げましたが、ご本人は8/25にアップしたビデオで、自分は政治的には「dead center」ど真ん中、中道、中立だと述べ、この曲が共和党予備選挙のための候補者討論会で流れたことについても「滑稽だ、この曲は討論会に並んだ候補者たちのことを歌ったものだったのに」と発言。また、はっきりと「この曲をバイデンについての歌だという人もいるがそれは違う、バイデンより遥かに大きな問題を扱っている」と発言しています。
●カントリーミュージックの根強い人気、絆は本当に熱いものがありますがアメリカミュージックシーンにおけるその人気とは?
実は2023年は異例な年で、カントリーミュージックのヒットが続いています。(モーガン・ウォレン、ルーク・コムズなど)。この曲も、メディアでは保守寄り、共和党寄りの曲として取り上げられましたが、じつは当初からリアクション動画などでアフリカ系によっても共感を得られていました。歌詞だけ見ると、特に際立って保守寄り、あるいは人種差別的とは言えず、むしろ白人・黒人にかかわらず厳しい生活を強いられている人々が誰でも共感できる内容になっているところも大きかったようです。
●アメリカの音楽シーンで、こういった社会現象を巻き起こした例というと他にはどんなものがありますでしょうか?
テキサス出身の女性三人組カントリーグループ、(ディクシー)チックスがブッシュ政権を批判。カントリーミュージックファンの怒りを買い、不買運動に発展したというケースがありましたが、カントリー音楽祭で同郷のビヨンセと共演したり・・・
昨今、BLM運動などの影響もあり、カントリーミュージック界の多様性にフォーカスする動きがあり、アフリカ系のミュージシャンのスポットライトが当たったり、モーガン・ウォレンもラッパーのリル・ダークと共演したり・・・こうした中でのオリバー・アンソニーのヒットは、分断を超えた融和を象徴するヒットなのか、それとも分断をさらに推し進める曲になるのか、今後の展開が注目されるところです。
注目を集める、オリバー・アンソニーさんの「Rich Men North of Richmond」ぜひYouTubeなどチェックしてみてください!