スマートフォン、スマートウォッチ、スマートシティ...というように、昨今、多くの「スマート」なものが存在します。そんな中、今日はスマート絆創膏をピックアップします。このスマート絆創膏に使われるのは、電気。画像を見てみると、我々が普段使うような、普通の円形の絆創膏にチップが埋め込まれているような見た目です。この電気を使って傷を治療するスマート絆創膏、通常のものと比べて治りを早くしてくれるとのことです。一体どのような仕組みで、どのようにスマートなのでしょうか。今朝は、スマート絆創膏の開発に関わっていらっしゃるスタンフォード大学のArtem Alex Trotsyuk(アーテム・アレックス・トロッツユク)さんに事前に伺った内容をお届けします。

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JK: さぁこのスマート絆創膏、どのような仕組みになっているのでしょうか。全くの門外漢なので、わかりやすいように説明して頂けると助かります。

このスマート絆創膏はセンサーを使います。センサーが肌の状態を測定し、スマート絆創膏のマザーボード、いわゆるシステム本体にデータを送ります。そのデータをもとに電気刺激を送り、その傷の箇所に与える。なので質問の答えとしては、センサーが、肌の治療レベル、治療の状態を測り、そして必要に応じた電気刺激を送るという仕組みになっています。

JK: 電気による刺激。具体的に、どのように傷口の治りを早めるのでしょうか。

通常、人間の体には電気を通す電気伝導性というものがあります。例えば、腕や手を風船に擦ると静電気が発生しますよね。つまり人間の体には静電気を発生させる力があり、微量な電流が流れている、という点にこのスマート絆創膏は着目しました。電流は体を流れていて、細胞の中も流れています。そして電気刺激を加えることによってその電流を速めたり、細胞の動きを方向づけることができたりします。そうすることで、傷口の治療(治癒)を早めることが可能になります。

JK: 筋肉に電気による刺激を与える、アスリートの方々が使う電気治療TENS(経皮的電気刺激療法)がありますが、これとスマート絆創膏の仕組みに関連はありますか。

とても良い比較、そして着目点ですね。我々のスマート絆創膏と、筋肉に電気刺激を加える電気治療のTENSは、単純に同一条件では比較できませんが、大まかな技術としては同じグループ内のものと考えていいでしょう。TENSは筋肉や神経の痛みを治療するために電気刺激を与え、特定のけいれん等を防ぐのが目的です。機械も大きく、ワイヤーが沢山付いているのも特徴です。一方、我々のスマート絆創膏では、まず電気刺激に着目しました。TENSの電気刺激にセンサー機能を加え、更に機材をコンパクトにすることで、このスマート絆創膏が出来上がりました。ワイヤーが絡まることもなく、端末がかさばることもなく、ユーザーはこのスマート絆創膏を普通の絆創膏のように着用し日常生活を送ることができます。

JK:センサーを稼働させるには電源や充電が必要です。電源確保はどのような仕組みになっていますか。

とても良い質問です。1つ目のバージョン・ワンではワイヤレスで電源を供給することができました。臨床前試験ではマウスにスマート絆創膏をつけて実験しました。この時は、昨今iPhoneをパッドに乗せて充電する技術と同様に、電気的な空間、電場を使っていたので、バッテリーや充電は必要ありませんでした。しかしながら人間が着用する場合は同じように電気的な空間を作る電気パッドを持ち歩く訳にはいきません。そこで、現在開発中の2つ目のバージョン・ツーでは電場の代わりにバッテリーを使っています。通常、お医者さんの診察のインターバルは1週間から10日に一度かと思います。なので例えば1度目の診察でスマート絆創膏を貼ってもらい、次の診察ではバッテリーが充電されたスマート絆創膏に貼り替えてもらう、という流れです。

JK: スマート絆創膏、着用した着け心地はどうなのでしょう。電気が流れているような、チクチクとした感覚があるのでしょうか。

スマート絆創膏、マウスたちにとっては着け心地良さそうで、着用しても通常どおりの動き方をしていました。着用によって何かしらの危険性を感じているとか、明らかに電気が通っているとか、そのような様子は見受けられませんでした。一方、人間用のスマート絆創膏ですが、私自身プロトタイプを試してみましたところ普通の絆創膏となんら変わりませんでした。肌を通して流れる電流が微量なので肌での感覚はあまりないのですが、電流は途切れることなく流れています。電流が流れることによって細胞の動きを活発化させ、動きのスピードを早くさせます。なので、電気ショックなどの衝撃を感じることなくスマート絆創膏を着用することができます。

JK:スマート絆創膏を使用した場合、通常の絆創膏を使用した場合と比較してどれくらい治りが早くなるのでしょうか。

マウスを使っての臨床前試験では通常治療に12日間かかるような傷が9日目で治りました。つまり、人間に換算すると治癒力の効率が少なくとも30%上がると見込めるでしょう。

JK: どのような使われ方を想定していますか。かすり傷に使われるのか、もっと酷い傷に使われるのか、用途はどのように考えていますか。

とても良い質問です。このスマート絆創膏は特に年齢の高い患者さんの、深い傷や治りにくい傷のために開発しました。慢性的な傷で悩んでいる患者さん向けのものと考えております。ちょっとしたかすり傷にこのスマート絆創膏を使うのは、やや「やりすぎ」な感じがします。ご高齢の患者さんで、体に慢性的に治りにくい傷を抱えていて、長年病院に通って治療されている患者さんの手助けになってほしいと思っていて、それがこのプロジェクトの大きな目標です。その他の方々も、試してみてもらってもいいのですが、ペーパーカットのような軽い傷に使うにはtoo muchかもしれません。

電気を使って傷を治療するスマート絆創膏の開発に関わっていらっしゃるスタンフォード大学のArtem Alex Trotsyuk(アーテム・アレックス・トロツユク)さんに事前に伺った内容をお届けしました。

スタンフォードのリリース