架空のKPOPアイドルたちを題材にしたアジア系ミュージカル『KPOP』、そしてアメリカに住む黒人の様々な問題を題材にした舞台『Ain't No Mo』の2作品が、昨年末にブロードウェイで開幕直後立て続けにクローズしました。クローズした理由と人種が関係あるかどうかは非常に難しいポイントですが、人種のるつぼと言われるNYブロードウェイにおけるBIPOCコミュニティは現在どのような立ち位置なのでしょうか。(BIPOCとは、black、indigenous、people of colorの頭文字をとったもので、黒人、先住民、有色人種の人たち、つまりは非白人の人たちを称するのに使われています)

今朝は、そのミュージカル『KPOP』に御出演されていたNY在住のミュージカル俳優 近藤真里奈さんにお話伺います。

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JK :御出演されていたミュージカル『KPOP』はどんな作品ですか。

MK : 架空の韓国アイドルたちがアメリカ進出を目指す一夜限りのコンサートのため準備する過程を描いたストーリーで、韓国の芸能事務所によるレッスンの様子や、アイドルグループ内の確執などをリアルに描いた作品です。

JK :ブロードウェイのアジア系作品といえば渡辺謙さんの『王様と私』や大ヒットした名作『ミス・サイゴン』ですが、これらはどのような位置付けでしょうか。

MK : 私自身、『王様と私』に以前出演していました。『王様と私』も『ミス・サイゴン』もアメリカ人の視点でアジア人を描いたアメリカ人が中心の物語のように感じます。対して『KPOP』は初めてアジア人目線で作られた作品で、アメリカ人や白人はどちらかといえば「外のキャラクター」として描かれています。今までとは違う、アジア人の苦労をアジア人目線で描いている作品で、私にとっても特別な経験でした。

JK :ミュージカル『KPOP』に対するニューヨークタイムズの劇評で一部差別的ともとれる表現があったそうですが、それはどんなものだったのでしょうか。

MK : 白人の批評家が照明について"squint-inducing"=「目を細めざるをえない」という言葉を使いました。言葉のプロフェッショナルであるはずの批評家がわざわざそのような表現を使ったことで多くのアジア人が傷つき、白人が理解できない作品は受け入れない、という姿勢が垣間見えました。

JK : そのニューヨークタイムズのレビューに対して『KPOP』のカンパニーはどのように対応しましたか。

MK : :白人である2人のプロデューサーはすぐに声明を出し、キャストもSNSで投稿してバズりました。私の経験ではプロデューサーは普通このような問題に対して沈黙を守るのですが、『KPOP』のプロデューサーは怒ってくれて、わざわざ皆の楽屋に来て「この問題についてどんどん発信していい」、と言ってくれました。そのサポートは本当に嬉しかったです。

JK : 時同じくして、アメリカに住む黒人が体験する様々な問題を描いた『Ain't No Mo』もオープンしてすぐにクローズしてしまいました。ブロードウェイでBIPOCの世界、BIPOCの視点から描く作品は難しいのでしょうか。

MK :『KPOP』も『Ain't No Mo』も、キャストだけでなくクリエイティブ・スタッフもBIPOCの人たちが多く、カンパニー全体が作品に対してプライドを持っていました。『KPOP』がクローズしてすぐ『Ain't No Mo』がクローズしてショックでしたね。ブロードウェイのマーケティングチームは白人のお客さんに向けたマーケティングしか知らないから、両作品がすぐにクローズしたのはマーケティングのせいとも言われています。そもそも、レビューも、マーケティングも、教育もBIPOCの人たちのためのシステムではないと思います。BIPOCの人たちが権力のある立場に就かないと物事は変わりません。早く変わって欲しいですね。

JK :ブロードウェイの舞台に立つアジア人・日本人として、今後ブロードウェイとどう関わり、そしてにどういう変化を期待していますか?

MK :『KPOP』の経験は色々な意味でショックで、どう前に進むか今迷い中です。これまではずっとツアーをしていて今初めてNYに住んでいるのですが、NYに根を張リ、ブロードウェイで活躍している日本人とも繋がりたいと思っています。また、白人の俳優が本役でBIPOCの俳優が代役というパターンがまだ多いのですが、いつかは本役での主役を目指したいです。

JK : 仰る通り、BIPOCの方がより多くクリエイティブ・スタッフや、プロデューサーなど高い立場として関わる、そしてそのような状況を目指すのが近藤真里奈さんの世代だと思います。応援しています!