今日は、人間の汗が電源となり得る、というトピックにフォーカスあてます。地熱、風力、水力、太陽光など、様々なグリーンエネルギーが存在しますが、もし人間の汗をエネルギーとして使えたら、地球にも優しいですよね。一体どのような仕組みになっているのでしょうか。今朝は、汗を電気に変換する新しいバッテリーを開発しました、シンガポール南洋理工大学のポーイ・シー・リー(Pooi See Lee)教授に伺います。

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JK 汗を電気に変換するバッテリー、着想はどこからきましたか?

PL 体に着用できるウェアラブル技術の出現によって、ウェアラブル製品が人間の皮膚に接触する機会が増えました。そして、私たちは動き回っている時、または動いていないときでも常に汗をかき続けています。だからこそ、ウェアラブル技術と汗との可能性を探りたいと考え、好奇心にかられました。それがインスピレーションとモチベーションです。

JK 実際どのように汗をエネルギーに変えることができるのでしょうか。

PL 我々の電池では、汗が電解質として使われます。伸縮性のある布地のようなものにフレーク状の「銀」導体を含んだインクを印刷します。汗がこの布地に含まれた銀に触れることで電極となり、この化学反応によって電流を作ることができます。少量の汗だけでもバッテリー内の亜鉛陽極(亜鉛アノード)を酸化させ、電子を発生させ、電流を作ります。また、バッテリーに使っている素材も汗を吸収しやすいものを使っています。このように汗を電力、エネルギーに変換することができます。

JK 現在、どれくらいの汗、どれくらいの時間で、どれくらいの電力を生むことができるのでしょうか。例えば、スマホを充電することができますか。

PL 人間の実験では、15分間運動している人によって分泌された汗を使用しました。 この生成されたエネルギー量により、わずか30~40秒で最大4.2ボルトの出力が可能になります。 現在は発電できる電気量では、簡単な温度センサーで取得した温度データをリアルタイムでBluetoothを介してスマートフォンに送ることができます。ただし、現在のところ、スマートフォンを直接充電するのに十分なエネルギー量ではありません。引き続き試験を重ねてスペックを上げる必要があります。

JK どのようなつけ心地でしょうか。素材はどのようなものですか。そして、衛生的な理由から、汗をかきたくない人もいるかと思います。この点はどうお考えですか。

PL 普通の衣料に使われているような布地を使っています。そして、私たちが行っているのは、導電性インク、そしてバッテリーの電極を生地に直接印刷することです。 そのため、従来のバッテリーのようなかさばりや重さがなく、人の体の曲線に合わせて、変幻自在なので、着用の心地はとても良いです。

汗の衛生面に関してですが、我々がエネルギー源にしているのは「純粋な汗」です。汗が非衛生的と思われる理由は、汗を分解するバクテリアなどが主な要因だったりします。汗をタイミング良くエネルギー源に換えることができれば、衛生面で問題はないと期待しています。

JK 環境にはどのようにやさしいのでしょうか。どのようにグリーンな電池ですか。

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PL 既存のバッテリーの重要な懸念事項の1つは、可燃性であることです。たとえば、飛行機で旅行するときのバッテリーの安全管理は不可欠です。 したがって、我々の汗を使ったバッテリーを使うことによって、燃えるリスクを減らせます。炎や発火がなく、電解液に有害な化学物質が含まれておらず、毒性が低いです。つまり、我々のバッテリーを使用することで様々な懸念をなくすことが可能になります。

JK 現在開発中とのことですが、具体的にはどのような着用方法を想定していますか。

PL 現在我々が考えているのはリストバンドのような気軽に装着できるもので、散歩や短いジョギングに行くときに着用するのが良いと思っています。具体的には、少量の電力で済む、健康モニター用のリストバンドとかです。このようなリストバンドには、我々のバッテリーのような変形自在な素材でできたものが適切だと思っています。

JK 汗を電気に変換する布地状のデバイス、とてもユニークな発想ですね。スポーツクラブやサウナなど汗を多くかく環境では多量の発電が可能になりそうです。スポーツウェアメーカーの皆さん、是非検討しては如何でしょうか。