今日は、映画やドラマでラブシーンなどの極めて親密な、性的なシーンを撮影する際、俳優が安心できる撮影の環境作りをサポートする「インティマシー・コーディネーター」という仕事に焦点を当てます。アメリカ発祥と言われているこの「インティマシー・コーディネーター」ですが、日本では今年、Netflix映画『彼女』で初めて起用されました。日本ではまだ聞き慣れないこの仕事ですが、一体どのような職業なのか、そもそもどういうニーズがあって生まれたのか、そして、日本でのこの撮影現場、どのような環境なのでしょうか。仕事にまつわる事情はどうなっているのでしょうか。今朝は、日本にまだ2人しかいない「インティマシー・コーディネーター」のお一人、浅田智穂さんにお話し伺います。

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JK :インティマシー・コーディネーターはどのようなお仕事ですか。

CA :映画やドラマの撮影においてヌードや擬似性行為があったり、ヌードにならなくても親密な身体的接触のあるシーンを「センシティブ・シーン」と呼んでいます。そういったシーンにおいて俳優の精神的・身体的な安全を守りながら、監督の演出意図を最大限実現することをサポートするスタッフです。

JK :そもそもこれはどういうニーズがあって生まれたお仕事ですか。

CA :発祥はアメリカで、2017年のHBOのドラマ「DEUCE」で初めて採用したと言われています。その後#MeToo運動が拍車をかけ、アメリカのスタジオが次々と採用したと聞いています。

JK :アメリカは割と契約社会なので俳優が出演する際に契約でトラブルが起こりにくいと言う印象がありますが実態はそうではないのでしょうか。

CA :契約があっても、その契約がきちんと細かいところまでコーディネートする方がいないと難しい状況だったと聞いています。アメリカは俳優組合がしっかりしていてルールが明確な一方、日本ではそういったルールや線引きが監督の匙加減一つやその場の空気で決められてしまうということが多かったようです。

JK : 例えば演者の皆さんが様々な判断をマネージャーさんに委ねなければならない、けれどマネージャーさんも仕事を貰っている立場として監督や制作サイドの間に入るのが難しいこともあるかと思います。そのような時、中立的なインティマシー・コーディネーターが助けになることもありますよね。

CA :そうだと思います。私自身、これまでに3本の作品に関わらせて頂きました。大体最初は「どういったお仕事をされるんですか」と言うところから始まりますが、最終的にはマネージャーさんや俳優さんから「いてくれて助かった」という意見を頂いています。

JK : 具体的に現場に入ってどのようなお仕事をされていますか。

CA : 監督と俳優、双方の同意を得ることが仕事です。具体的には、まず撮影に入る前に脚本を読み、監督に動きや意図について細かくヒアリングし、その内容を俳優と面談します。例えば、キス一つを取ってみても、監督がどういうキスを求めているのか。それに対して俳優たちの許容範囲はどこまでなのか。このようなことをきちんと確認し、全員が納得できる着地点を探ります。監督と俳優さんだけでなく、俳優さん同士での許容範囲を理解するのも大事で、その後は俳優さんたちが不安なく撮影に臨めるように準備をし、当日はクローズドセット(最小限人数しかいない撮影現場)など、適切な環境作りなどをして俳優さんたちの不安を取り除くように努めます。俳優さんたちへの配慮が当たり前になるように新しい基準の重要性を謳っていきたいと思っています。

JK :インティマシー・コーディネーターの役割や仕事の進め方がアメリカと日本では違ったり、そもそも監督から煙たがられたりすることはあるんじゃないですか。

CA :最近は本当に有難いことにこの職業を話題にして頂ける機会が多いのですが、まだまだ肩書が一人歩きしてしまっています。例えば、脚本や作品の内容を検閲されるんじゃないかと勘違いされることがあります。また、1人スタッフが増えることによって確認事項が増えてしまいますし、そもそも「何をする人なんだろう」と思っている方も多いと思います。まずは存在を知ってもらい、役割を理解して貰いたいと思っています。

JK : 日本ならではの課題はどうお考えですか。

CA : 日本はまだルールが不明確で、監督やプロデューサーが現場の雰囲気で決めてしまうことが多く、特に経験の浅い俳優さんは「ノー」と言えなかったりします。ルールがないと、インティマシーコーディネーターとしてもあくまで「お願いベース」止まりになってしまいます。今後、日本独自のやり方を探り、ルールを作っていくことが大事だと思いますし、俳優の皆さんが必要以上の心配をせずに演技に集中できる環境作りをサポートしたいとも思っています。

JK :これは決して女性だけの問題だけでなく、男性にも重要なことですよね。

CA :はい、どうしても女性のケアが重視されてしまっているのですが、男性にも全く同じようにケアしていますし、LGBTQAの方々のことも考慮が大切だと感じています。

JK :今後ともぜひ撮影現場の環境を整えて、良い映画・ドラマの作品を世に出してください。応援しています。

「インティマシー・コーディネーター」浅田智穂さんWEBサイト