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浜松町の「四季劇場・春」で絶賛ロングラン上演中、ミュージカル『アナと雪の女王』の演出を手掛けたエイドリアン・サープルさんにフォーカスします。エイドリアンさんはアソシエイト・ディレクターとして「アナ雪」のブロードウェイ版、そして今年6月に開幕した日本版、双方の演出を手掛けました。大ヒットしたアニメ映画をどのようにミュージカル化したのか、そしてこの難しいコロナ禍における日本での開幕についてお話伺いました。

JK:ミュージカル「アナ雪」日本公演開幕、そして今年のチケットはほぼ完売とのこと、おめでとうございます。

AS ありがとうございます。本当に嬉しいです。平時であってもチケットが売り切れるのは大変なことなのに、このパンデミック下でこれだけの反響があり沢山のお客様に期待されているのは素晴らしいことだと、関係者一同嬉しく思っています。

JK:このコロナ禍で劇場を含むエンタメ業界がかなり厳しい状況になっていますが、この状況をどうお考えですか。

AS どこからお話すればいいかわからないくらい、本当に大変な状況です。演劇などの舞台は、国や行政から「必要不可欠なビジネスでない」とみなされてしまう傾向が元々あります。しかし、人を呼び寄せるという意味でもエンタメは観光業にとっても大事な産業で、世界にも経済にも必要なのです。ライブエンターテイメントはNetflixとかHuluとかサブスクの世界とは根本的に違うということも強調したいです。もちろん映像作品も素晴らしいですが、一つの場所にみんなで集って共通のエンターテイメントを体験するということは普遍的で価値のあることであり続けると信じています。

JK:その大変なコロナ禍の中でのミュージカルの開幕でしたが、どのような点が大変でしたか?

AS 感染防止のプロトコルに則って稽古を進めるのが大変でした。例えば、ダンスシーンがある中でソーシャルディスタンスを担保しつつどう稽古をするのか、難しかったです。当然行政サイドと協議をしつつ、オリンピック同様バブル方式のような形で安全を担保しながら稽古進めていきました。他にも、稽古中はずっとマスク着用必須だったので、目の動きだけで表情を読み取理ながら稽古を進めるのも大変でした。本番直前になってやっとマスクを外して稽古を出来ました。

JK:コロナ禍で色々な制限があったとのことですが、ディズニーの大ヒットアニメ映画をミュージカル化する上でも制限があったかと思います。どういうところが大変でしたか。

AS 映画は興行的にも大成功しましたし、多くの人に愛されています。例えばオラフのあのシーン、とか、アナのあの台詞、とか、作品の象徴となっている誰もが知っている部分が沢山存在します。それらをステージ上で再現し、更にそれを超えるようなものが求められるので、その期待に応えるのが挑戦でした。また、実際にお金を払って切符を買うのは保護者である大人です。その大人の心も掴まなくてはいけないという点も勿論考慮しました。そういう意味では本当に老若男女、幅広く楽しんで頂ける作品になっています。

JK:さて、エイドリアンさんはミュージカル『レ・ミゼラブル』にも携わり、日本だけでなくブロードウェイ、ロンドン、ブラジルなどの演出を手掛けたそうで、この「アナ雪」もこれからドイツで上演されるとのことですが、上演される場所によって演出を調整したり、現地に合わせた演出をしたりしますか?

AS それぞれの土地で微妙な違いはあります。ただし、これは脚本を訳す翻訳家さんの腕にかかっています。脚本を訳す、歌詞を訳すという作業は大変な労力だと思います。文化的な差異を考えながら説得力のあるステージの元となる脚本を作らなくてはならない訳です。日本語の台本翻訳と訳詞を手掛けたのは高橋知伽江さんでしたが、本当に素晴らしく訳して下さいました。文字面だけのことではなく、ステージ上に展開するリズムや雰囲気も、翻訳されたものがベースとなるわけです。例えば、物語内での微妙な上下関係や言葉遣い、家族の関係性などの文化に起因するような要素が、どのようにして違和感なくストーリーを完成させるか。私は日本語がわかりませんが、そんな私でも高橋知伽江さんの訳した台詞、歌詞を聞いて、「完璧だ!」と確信しました。高橋さん以外の日本サイドのスタッフの皆さんも本当に良く尽力して下さったと思います。

JK: これを聴いているリスナーの皆さんの中でも、これから観劇予定、若しくはチケットを取りたいと思っている方も多くいると思います。最新を技術を使った、ワクワクするような仕掛けが沢山あると聞いていますが、見どころを教えてください。

AS お聞きの通り、皆さんがビックリするようなエキサイティングなテクノロジーを駆使しています。映像だけ、セットだけ、ではなく両方のスムーズな融合を心がけて舞台を作りました。更にはその中で俳優が動くことによって視覚的にどのような効果が得られるか、など、細かい計算を徹底的に重ねました。皆さんが気になっている、エルサが氷のドレスに変身するシーンですが、あそこでは舞台ならではの仕掛けを施しています。どのような仕掛けかは...劇場でご覧ください。

JK:文化の差異を調整しながら作品を世界中で創る、大変でしょうが、とてもやり甲斐のあるお仕事ですね。あのアニメ映画がどのようにミュージカル化され、日本の観客向けに作られたのか、必見です。劇場へお出掛けの際は感染対策を慎重にお願いします。