震災や台風などの自然災害が多い日本ですが、避難所の質のレベルは世界に比べて課題があると言われています。

「避難所における二次災害」と呼ばれ、実際に、先の大震災で命の危険を免れたはずの被災者の方々が、厳しい避難所での環境によって健康を害し、中には命を落としていったケースが多く報告されています。

更にこのコロナ禍では避難所でのウィルス対策も必要不可欠となりました。災害時における避難所の環境や、プライバシー等生活の質をどう保てるのか、大きな課題です。本来「避難所だから我慢が当たり前」ではないはずです。

今朝は、そんな避難所での生活の「質」を良くすべく尽力されている一般社団法人「避難所・避難生活学会」の発起人で、大阪府八尾市の段ボール会社「Jパックス」社長 水谷嘉浩さんにお話しを伺います。

JK:段ボール会社の社長でいらっしゃる水谷さんですが、どのような経緯で避難所や避難生活の質を向上したいと思われたのでしょうか。

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YM:東日本大震災の際、寒さが原因で、本来は安全であるべき避難所で沢山の方々が亡くなられているということをメディアで知りました。寒さ対策として暖かい段ボールを使って寝床を作れば助かる人が増えるのではないか、と考えたのがキッカケでした。

JK:東日本大震災から10年が経った現在、日本の避難所はどのようなレベル・状況にありますか?

YM:日本の避難所では過去100年間雑魚寝が続いていて、これがエコノミー症候群や様々な病気の原因となっていました。この10年間ではとにかくベッドを導入してもらうべく活動をし、以前より行政に届くようになったことで状況は良くなってきていると感じています。

JK: 自治体によっては整備の差はありますか?

YM:災害対策基本法に基づき、各市町村が災害対策を担うことになっています。現在1,741の市町村があり、つまりは1,741通りの避難所のあり方が存在していて、標準化されておらず質の濃淡が生じています。本来ならば国で統一されるべきですし、諸外国では国で統一されています。

JK: 段ボールベッドもどこに備蓄するのか、有事の際にどうやってそれを運搬するかのロジスティックスなど考える必要がありますね。

YM:マンパワーが課題になっています。行政の方は災害時に非常に忙しく、夜寝る間もなく働いています。今私が提言しているのは、大小合わせて3,000社あると言われている段ボール会社が業界として動き、災害支援をすることです。避難所にベッドを届けて、組み上げて寝てもらうまでの一連の流れを業界が担えたらと思っています。

JK:プライバシーの確保も重要なポイントですよね。

YM:従来なかったパーテーションが入ればある程度のプライバシーが守られます。また、今後は夜落ち着いて安眠できる環境作りも整えていくことが大事だと思います。

JK: 特に現在のコロナ禍において避難所で求められることはありますか?

YM:多くの方が体育館に集まってくるので、ウィルス対策は必要不可欠です。飛沫は床に沈着し、4-5日ほどウィルスが存在していると言われています。この時点で床に寝ることが危険であることがわかりますよね。20cmの高さを保つことで目に見えない埃に絡まったウィルスの吸引を防げると言われているので、35cmの高さがある段ボールベッドはとても有効です。

JK:参考にされている海外の例はありますか?

YM:イタリアの避難所状況は進んでいるので、度々調査に出向いています。イタリアでは「Toilet Kitchen Bed48時間以内に届ける」ことになっていて、私はこれを「TKB48」と呼んでいます。トイレとシャワーで「衛生」、キッチン若しくは温かい食事提供で「栄養」、ベッドや生活空間で「睡眠」。これらをなんとしてでも災害発生から48時間以内に届けることがイタリアでは法律で定められていています。

JK: 震災の後は津波の影響もありました。国土強靭化という形で多額の国家予算が使われていますが、このような取り組みにも予算を使って貰いたいですよね。

YM:復興予算35兆円の内、人に向かったお金が1兆円に満たない数千億円と言われています。先述のTKBも、少し金をかけるだけで準備をできます。

JK:10年で色々な課題が浮き彫りになったということですね。是非また避難所・避難生活学会で動きがありましたら教えて下さい。有難うございました!

一般社団法人「避難所・避難生活学会」

段ボール会社「Jパックス」(大阪府八尾市)