第一生命経済研究所の藤代宏一さんに、解説していただきます。
藤代:日銀総裁が10年ぶりに変わることについて
J.K.: 現在の黒田さんから、植田和男さんに引き継がれると報道されていますね。
藤代: 植田和男さんは経済学者で、卓越した経歴を持っている方です。意外にも日銀総裁はこれまで、学者出身の方が就任したことはなく、この点においてアメリカのFRB、ヨーロッパのECBに比べて、やや理論的な後ろ盾が弱いと指摘されてきたのですが、植田さんなら文句はないと思います。ご自身がかつて日銀の審議委員、つまり金融政策を決めるメンバーを努められた経験もありますし、植田さんを支える副総裁には現日銀理事の内田さん、元金融庁長官の氷見野さん2人を抜擢に歓迎の声が多いです。
J.K.: 金融界からは歓迎ということですが、金融政策はどう変化しそうですか?
藤代: 別に「植田さんだから」という訳ではなく、現在の経済環境を踏まえると、金融緩和の度合いは弱まると考えられます。そもそも現在どんな政策をしているのか。金融政策の柱は金利。二つの政策金利、つまり短期金利をマイナス0.1%、10年金利を0%程度。「程度」の幅は上下に0.5%とされているので、0.5%が上限です。今後変更が予想されるのは、この10年金利を日銀が操作するのではなく、本来の形、つまり市場参加者の取引によって決まる形に戻すこと。これが従来の金融政策と違うポイントです。
J.K.: そうした背景で、日本経済にはどんな変化がありそうですか?
藤代: 賃金が上がり始めています。実感に乏しいという方が大半かと思いますが、実のところ現在の賃金上昇率は1%台後半、1990年代半ばと同じぐらいまで回復しています。30年近く、ほとんど上がらない状態でしたが、ようやく明るい兆しが見えてきました。植田次期総裁は、この良い流れを、更に加速させる金融政策のかじ取りをしてくださると期待しています。