藤代: 10月末で退任したECBマリオ・ドラギ総裁が日本に与える影響です。

J.K.: ヨーロッパ中央銀行総裁、名前は聞くことがありました。どんな方でしょう?

藤代:日本では必ずしも有名ではありませんが、ヨーロッパでは英雄的存在で、スーパーマリオと呼ばれています。イタリア人で総裁就任は8年前の2011年。ギリシャが破綻して通貨ユーロの崩壊が現実味を帯びていた頃です。その時ドラギ総裁が「ユーロを守るためなら何でもする。私を信じてほしい」と、気持ちを込めた発言し、すぐにルールに縛られない大胆な金融政策を矢継ぎ早に打ち出して、危機を落ち着かせた経緯があります。

JK: 10月をもって退任ということですが、日本にも影響があるのでしょうか?

藤代:在任中のドラギ総裁は自身の金融政策がいかに効果的であるかを繰り返してきましたが、最後の3か月くらいは「金融緩和はもうあまり効果がない」という趣旨のことを言い始めました。「金融政策はもうやり尽くした、あとは各国政府が景気対策を」と自分の存在意義を否定するような発言です。これこそが日本への置き土産といえると思います。

J.K.: その置き土産というのは具体的にはどんなことでしょう?

藤代:日本はヨーロッパと同様、マイナス金利を実施してきましたが、ここへきて効果が薄くなっているのは明らか。逆効果との見方もあります。ただし現日銀執行部がそれを認めるのはかなり酷です。ドラギ総裁の言葉を借りるような形であれば、「金融政策はもう限界。あとは政府にお任せします」と言いやすくなります。実際日本の政策担当者もそれに近いような発言をするようになってきましたから、置き土産を受け取った形です。通常政治家など政策を担う人は自分の政策を「べた褒め」する傾向がありますが、このように客観的な発言ができるのは素晴らしいと思ったので、今日ドラギさんを紹介したかった、というワケです。