藤代: 何かと話題の毎月勤労統計の続報についてです

J.K.: 賃金が実はマイナスだったという報道もあり大変な騒動になっていますね。

藤代: 賃金が上がっていると聞かされていた人からすれば、大変な失望、怒りを覚えるのは当然のことだと思います。簡単に直近の報道をおさらいすると、不正処理の見直しにより2018年の賃金上昇率が下方修正され、これまでプラスとされていた2018年の実質賃金がマイナスだったと、事実が変わりました。

J.K.: この実質賃金とは、そもそもどんな意味を持つのでしょうか?

藤代: 経済の文脈で必ずでてくるのが、「実質」と「名目」という言葉です。「名目賃金」とは給与明細の額で、2018年はおよそ0.8%のプラスでした。「実質賃金」は「名目賃金」から「物価上昇率」を引いたものです。物価はおよそ1%上昇していて、今回「名目賃金」が下方修正された結果、実質の数字がゼロを跨いだということです。ただし、物価変動を引く前の賃金がプラスという事実は変わりません。

J.K.: それでも賃金は+0.8%しか伸びていないのですか?

藤代: エコノミストの一般的な見方を示します。名目賃金は 90年代後半以降は下がるのが当たり前だったので0.8%でも十分に強いというのが1点。そしてもう一つ非常に重要なことは、最近のように雇用者が増えると、平均賃金は低めにでるという「クセ」があること。マイキン統計は「平均賃金」を測る指標なので、最近のように女性や高齢者がパートで働いたりすると、全体の数値を下押しします。他方、企業が払う総人件費、すなわち日本の労働者全員を一人の人間とみなした数値は3%程度伸びていて、これは2000年代の最高水準です。統計の不正は言語道断ですが、経済の見方に大きな変更を迫るものではありませんから、そこは切り分けて議論する必要があると思います。