藤代 おはようございます。今朝は、「履歴効果」と呼ばれる、今の日本経済を上手く説明できる言葉を紹介したいと思います。

J.K. 過去の履歴、履歴効果、馴染みのない言葉ですがどういうものですか。

藤代英語のヒステリシスという単語を直訳したもので、日本語では良い表現がないのですが、簡単にいうと「過去の苦い経験が後遺症として残る」こということです。たとえば、リーマンショックなど大きなマイナスのショックを経験すると、その危機が過ぎ去った後も、なかなか元のような強い経済が復活せずに、低成長が続くという現象です。これは低反発枕をイメージすると良いかもしれません。叩いてベコッとへこむと、元に戻るのに時間がかかる。これが日本経済で起きている可能性があります。

J.K. 景気回復の実感がわかず、株価下落にも敏感です?

藤代 履歴効果は人々の心理面の影響も説明できます。例えばリーマンショックが未だに話題になること。今や金融機関の経営はアメリカも日本も健全ですから、あのような危機が再発する可能性は低いのですが、それでも人々はもう一度似たような危機が起こるのではないかと、心配し、消費者も企業も貯蓄を積み上げている、或いは企業経営者は設備投資や従業員への還元に消極的になっているのかもしれません。苦い経験が残っているので、すぐには楽観的になれないというものです。

J.K. 心理面以外にも影響はありますか?

藤代 景気が落ち込んでいる時に、本来使うべきおカネが削れてしまい、将来の成長のタネが撒かれないという側面もあります。たとえば、労働者の育成や、研究開発費など成長に必要な類の資金です。危機が過ぎると、熟練労働者がいない、新製品の開発が進まない、結果として、けん引役が不在となり、経済がへこんだままになります。最近日銀は日本経済が十分に強くならないことの説明として、この履歴効果によく言及しています。過去の不況から得られた教訓を無駄にしないためにも、こうした経済現象があることを知っておくと、同じ失敗を犯す可能性が減ると思います。