12月18日
天涯通信2025
第一信
今年も放送日まであと一週間というところまで押し詰まってきました。
例年なら、「この一年もとっても早かった」と書くところでしょうが、今年はいささか違っています。
とりわけ長くは感じませんでしたが、短かったという気もしないのです。
それは、一年が前半と後半で大きく分かれ、いわば一年が二つあったような印象が残っているからかもしれません。
六月に、長編小説の『暦のしずく』を出版しましたが、その前と後とで一年が二つに分かれているのです。
まず『暦のしずく』は、去年のうちに朝日新聞での連載は終わっていましたが、その原稿をさらにブラッシュアップするために今年の半分近くの時間が必要でした。
それでもなんとか満足のいくところまで磨き上げることができ、装丁もすばらしい本ができあがりました。
この五、六年、ノンフィクションの『天路の旅人』から時代小説の『暦のしずく』へと、五百ページを越える大部の作品を続けて手掛けていたため、休んだという実感がないまま今年まで来てしまっていました。
そこで、『暦のしずく』の刊行を機に、残りの半年ほどはゆっくり休もうと思っていたのですが、そうはうまくいきませんでした。
いまの仕事場に引っ越してきてから溜まりに溜まってしまった二十数年分の資料の山と書物が気になりだし、処分を始めてしまったからです。
これが想像以上に大変な作業で、実は現在まで終了していないのです。
そうこうしているうちに、しばらく仕事はしないでおこうとしていたのに、ひとつ、ふたつと、開始を迫る状況が生まれてきて、ついに手掛けはじめるということにもなってしまいました。
前半の一年は、『暦のしずく』を手直しするため、江戸時代にどっぷりつかっており、後半の一年は、過去数十年の仕事を振り返りながら資料や書物を処分しつつ、新たな仕事にも取り掛かるということになり、ふたつの一年をたっぷり生きたような気がしているというわけなのです。
ここで、唐突ですが、この決して早くも短くもなかった一年を振り返って、僕が今年一番驚いたことは何かについて書いてみたいと思います。
それは何か。
クマ、です。
先日、清水寺で発表された「今年の漢字」に選ばれたのも「熊」でしたが、しかし、僕が驚いた「クマ」は、少し違ったクマです。
これについては、また明日の「天涯通信」に書かせてもらうことにします。
では。
沢木耕太郎