Singapore 2010/12/11

シンガポールは建築家の方達も世界各国から招かれてて、その感覚は他の大都市ではない感じは受けますね。

稲葉なおと (作家)

1959年東京生まれ。東京工業大学建築学科卒。一級建築士の建築プロデューサーとして活躍後、執筆活動に専念。1998年、短編旅行記集『まだ見ぬホテルへ』(日本経済新聞社)で紀行作家としてデビュー。01年、『遠い宮殿—幻のホテルへ』(新潮社)で第10回JTB紀行文学大賞奨励賞受賞。その後、旅行記、写真集、長編小説、児童小説を次々と発表し、活動領域を広げる。著書に旅行記『名建築に泊まる』(同)、写真集『アール・デコ ザ・ホテル』(求龍堂)他多数。風変わりな博士が不思議な「大発明」で子どもたちの悩みを解決する、最新刊の児童小説『ドクター・サンタの住宅研究所』(偕成社)が話題に。父親と幼い息子が「世界でいちばん美しい道」をふたりだけで旅する長編小説『0(ゼロ)マイル』(小学館文庫)を1月6日刊行予定。
 

観光名所とか行った先々で必ず花婿と花嫁が記念撮影している街というのがシンガポールの第一印象だったですね。(稲葉)

稲葉さんが初めてシンガポールに行かれた時の印象は?

14~15年前でしたが、観光名所とか行った先々で必ず花婿と花嫁が記念撮影している街というのが僕の中の第一印象だったですね。ホテルでウェディングして、その周辺で撮るなら分かるんですけど、あらゆる名所に出没してる訳ですよ。噴水があると大体居たりして。日本人的な感覚だと有り得ないでしょ?写真撮るにしても、普段着で「ちょっと記念に」って感じじゃないですか。でも向こうの人はビシッと決めて、暑いのに女性はメイクもきちっとして撮ってらっしゃるのが、建築とは何も関係無いんですけど(笑)、印象に残ってますね。

(笑)。15年前と今とを比べると、変わってるところは?

やっぱり仕事で行く関係で、観光やホテル関係の方にお会いする機会が多いんですが、どこが賑わってるかを聞くと、その年々によって場所が移動していくんです。15年前は「アラブ・ストリートというか、確かインターコンチネンタルとかがあった近辺を是非見てきて下さい」という感じでしたし、10年前には「マリーナ・シティの方のコンラッドやリッツ・カールトンとか新しいホテルが出来て、あそこが一番だから絶対見ずに帰っちゃだめ」みたいな。つい最近行った時に言われたのは「セントーサ島やマリーナを臨む近辺を」つまり運河沿いですよね。一方で、15年前に行ったホーカーズ(屋台村)は全く変わらず、名刺交換した訳じゃないですけど記憶にあるおやじさんが、今でもお互い年取っただけで、いらっしゃったりとか。

所謂新しいホテルやビルディングはどんどん出来てるんですよね?

凄いですよ。それが日本人の著名な、故・丹下健三さんの作品をはじめ高層建築家が造った超高層がババッと建っていき、逆に古い建物も壊さないで、きちっとリノベートして外観も綺麗にブラッシュアップして、照明が入ると古い建物の表情が全然違うんですよね。照明だけで全然変わっちゃうんですよ。きちんとクリーンアップされてるから映えるんですけどね。でもちゃんと見てみると、各部屋の大きさが全部違ってたりとか。元々ホテルじゃないから。客室なのに変な所に段差があったりとか、そういうのに気付くのもまた楽しかったりするじゃないですか。

日本はなかなかその発想が無いですよね。

そう、壊しちゃうんですよ。勿体ないですよね。外観だけ無くすと言うと、日本人の感覚だと本当に表面一枚だけ残して、裏側に超高層が立っちゃったりするでしょ。建物は建物として敬意を払って残すという感覚がシンガポールの人達にはあって、それが大きなホテルだったり、ここ2~3年ブティック・ホテルという小さなホテルも随分出来てるんですけど、その中にも新しい建物というよりも、元々古い建物をリノベーションしたのがあって。

それは、アジアの中でも古くからのヨーロッパの文化がシンガポールにはあるんですかね?

そうですね。建築家の方達も、日本人もイギリス人もアメリカ人も、世界各国から招かれてきちっと仕事してる感覚は、なかなか他の大都市ではないかなって感じは受けますね。


シンガポールに行ったら、フラトンに2泊、カペラに3泊とか、新しいのと古いのを両方対比させてホテルを楽しむのも良いんじゃないでしょうか。(稲葉)

稲葉さんは世界各地のホテルを取材されてますが、シンガポールでお薦めというと?

セントーサ島にある“カペラ”というホテルです。実は最近、ホテルを舞台にしたショートストーリーを書く機会を頂いて、きっかけは去年、雑誌「婦人画報」でアジアの4つのホテルを舞台にしたストーリーを書いて欲しいという依頼があって、その1つがシンガポールだったんですよ。「アジアの新しいホテルなら何処でも」というので編集者と選んだのが、セントーサ島に去年の春、建ったばかりのカペラだった訳なんですけど、そこを選んだのは元々あった19世紀の建物に新しい建物をくっつけていて、その設計者がイギリスのノーマン・フォスター卿という常に最新技術を駆使した建物を世界中に造っている建築家。彼がシンガポールに最新ホテルを造ったと聞いたら行ってみたくなるじゃないですか。僕は元々古い建物が好きなもんですから、あまり最新のものって実は余り見てないんです。それで最新の所へ行ったら驚きましたね。例えばベッドのチェストを引くと液晶パネルが出てきて(笑)、照明とかエアコンディションとかのボタンが全部ついてて、タッチパネルで自分好みの部屋の環境をそこで作れちゃうんですよ。

そんなことになっちゃってるんだ!

カード・キーも新しくて物凄く反応が速いし、「最新ってこういうことなのね」と教えて貰ったホテルでした。

新しいものになってくると、インテリアも含めて大体ちょっと無機的になっていくじゃないですか。そういう居心地の悪さみたいなものは無いんですか?

大きな窓ガラスの向こうは海で自然が目に飛び込んでくるので、リゾート気分があって、そういう違和感みたいなものは無かったですね。あと驚いたのは、電話も当然ワイヤレスな訳ですが、パッと握るとボタンの部分がフワァっと赤く光り出してね、なんか「電話をかけて頂けるのを待ってました」って電話がこっちに訴えかけてるみたいな(笑)。そういうのを知って誰かをご案内すれば、一緒に行った人は凄く喜んでもらえるホテルだと思いますよ。

お薦めをもう一つ挙げて頂くとすると?

もう一つは昔から好きな、元々古い建物があって、それをリノベーションしたという意味での代表はフラトン。1928年に出来た、かつての中央郵便局が、その後為替取引所になったり国会会議所とか色々用途は変わっていったんですが、9年位前に丸3年かけて大工事をしてホテルにしたという所ですね。

そこも、古いのを壊さずなんですね。

はい。また照明が素晴らしいですよ。ホテルに限らず、建物の夜間のライティングは言ってしまえばお金がかかる訳です。ホテルに来てる人は大体夕方にはチェックインしちゃってるから、夜に出掛けない限り外観を見る機会が意外と無いんですよね。じゃ誰の為かと言うと、街の為だったりして、街の為にそこまでお金かけてライトアップして、美しい街並みを作る意識を持ってるかどうか。郵便局を改装したフラトンはその代表みたいなものです。

なるほど。ライトアップするってことは、ホテルって世界中から色んな人が集まってくる、所謂、迎賓館みたいなものじゃないですか。そこに意識を持ってるかどうかですよね。

だと思いますね。ホテルというのは24時間スタッフが働いて、どんなサービスにも対応しますと言ってる割には、深夜は深夜なりの対応しか出来ないホテルが多いじゃないですか?良い意味での静けさってあっていいと思うんですけど、外観のライトアップも然りで、24時間いつでも帰れる宿な訳だから、ちょっと近くに遊びに行って帰ってきた時にピカッと迎えてくれて「あそこに帰れるんだ」って気持ち。逆に昼間チェックインして、そのままホテルの中に居続けちゃったりして、夜の外観を見ないまま翌朝チェックアウトするのは勿体ないですよね。全然違いますから。外観に限らずレストランにしても、ホテルっていうのはオープンな訳ですから、見に行かれるだけでも是非行かれるといいです。川があってそこに美しい建物が建っていて、川面に映し出されてキラキラっと。フラトンの良さはもう一つあって、プールからの眺めが最高なんです。そこら辺に最新の超高層建築が建ってる訳です。あれは丹下健三だとか、あれは誰々だとか、それを見ながら泳げる(笑)。

いや贅沢ですねえ。ちょっとお高いんでしょ?(笑)

安くはないですよね。でもそれだけの価値はあるホテルだし、シンガポールっていうとラッフルズ・ホテルとかあるじゃないですか、そういうホテルに比べれば当然安いですよ。オール・スイートとかじゃないので安い部屋もありますし。ニーズに合わせた部屋選びが出来るという意味では良いんじゃないですかね。シンガポールに行ったら、フラトンに2泊、カペラに3泊とか、新しいのと古いのを両方対比させて楽しむのも良いんじゃないでしょうか。


シンガポールのおススメは、Vivo Cityという巨大なショッピングセンター、リトル・インディア、SKYTRAINという新交通システムの一つ目の駅にエキスポ駅の3つ。(稲葉)

ホテルだけでなく、街の取材もされると思うんですが、シンガポールのお気に入りの場所を教えて頂けますか?

3つあるんですけど、1つはVivo Cityという巨大なショッピングセンター。さっきお話したカペラというセントーサ島への入り口でもあり、モノレールが出てる駅でもあるんです。設計は伊東豊雄さんで、有機的なデザインにも関わらずモダンという、形を言葉で説明するのは難しいんですけど。楽しいのはブランドショップもありつつ日本で有名な100円ショップが入ってたり、雑貨店もあったり、街の男の子女の子がデートに利用するようなちょっと気取ったレストラン、フードマーケット、映画館と、1日居ても楽しめる所です。子供達が遊べる屋上庭園みたいなのもあって、家族で行くにも凄く良いんじゃないですかね。

なるほど。Vivo Cityへ行った後はどこへ行きましょう?

今度は地下鉄に乗って、リトル・インディア(インド人街)へ。インドの街とか中国人の街は世界中にありますけど、シンガポールで凄く印象に残ってるのは、駅の直ぐ目の前のテッカ・センターという市場で魚や肉を売っている横にホーカーズという屋台村があって、そこで食べる物はどれも美味い!高くても300円位で食べられるんです。チキンライスは日本人が思うケチャップライスの感じじゃなくて、ぐつぐつ煮たプリップリの鶏を上に載っけるんですけど、そのご飯自体が鶏を煮たスープで炊いていて。オックステールスープとかも好きなんですが、そういう専門店があったりするので、そこでちょっとお腹を温めて、今度はムスタファセンターというでかいショッピングセンターに行くとインド系の物が安い!何でも売ってますよ。日本人の口に合う物も、「え!?」っていう物もあったりしますけど、1日居ても楽しいです。僕は免税店は余り行かないんですけど、各都市のスーパーマーケットやショッピングセンターに必ず行くんです。その街ならではの果物やお菓子を見たり食べたりして過ごすには、リトル・インディアはいいですよ。

そして、後一つ教えて頂くとすると?

3つ目は、チャンギ空港を通るSKYTRAINという新交通システムの一つ目の駅にエキスポ駅というのがあって、その駅舎はカペラと同じイギリスのノーマン・フォスター設計で、格好良いんですよ。金属の全長70m位の大きなパネルみたいな天井が浮いてるように見えるデザインなんですよ。凄いんですけど、チャンギから一つ目の駅で乗降客も凄く多いにも関わらず、誰も気付いてないんですね。上なんか見ないし、駅舎っていうのは通り過ぎるだけで、ましてや旅行者はそこで降りるなんてこと無い訳ですよ。チャンギ空港は必ず皆さん通る訳だし、新交通駅を利用される方は多いと思うんで、そこで降りて上を眺めると、「スゲー!」って得した気分になれると思いますよ。


一人で行った時は勿論、家族で行ったとしても、今の自分と近い将来の自分を、ちょっと立ち止まって考えられる時間を持てるのが旅かな。(稲葉)

10月に最新小説「ドクター・サンタの住宅研究所」を発表されましたね。

これは僕としては初めての、小学校高学年から読める内容で、勿論大人の方達にも面白いと言って頂けるかなというものにしたつもりなんです。子供の時に読んだ本は自分の中に残るじゃないですか?僕はやっぱり大人向けの住宅の本とかホテルの本とかをいくつか出してますけど、子供達に家というものに対してもっと関心を持って貰いたいし、楽しんで欲しい気持ちがあって、これを書いたんですけど。子どもにとっては家が“親が自分達に贈ってくれた物”という意識は無いですよね、もう汚しまくって(笑)。車とかだとお父さんが買ってくれた実感があるかもしれないけど。でもそれは説教臭く実用書っぽく書いちゃうと、僕だって読みたくない。だから凄く楽しい物語として、すっとその世界に入っていけるものが書けたらいいなというのを最初に発想してから2年位かかったんです。凄く頼りになる編集者は付いて下さって二人三脚でやってきましたけど、難しかったですね。

僕も読ませて頂きましたけども、何しろ稲葉さんの建築に対する愛が読み取れました。それが子供達が興味を持つきっかけになれば良いんですよね。さて、前回も前々回も伺ってると思うんですが、稲葉さんにとっての旅とは?

一人で行った時は勿論、家族で行ったとしても、今の自分と近い将来の自分を、ちょっと立ち止まって考えられる時間を持てるのが旅かな。別に東京に居たって一人になれる時間はあるんですけど、仕事がらみの直近のことを考えちゃったりするんですよ。でも旅先っていうのは、今の自分、それから近い将来、もしかしたら長い将来、自分がどうなっていたいのか、子供達はどうなって欲しいのかをじっくり考える時間をもてるのかなと思いますね。

 

PLAYLIST

  1. SOMEDAY / YIDA
  2. PHOTOGRAPH / JAMIE CULLUM
  3. SEND ME A WIND / MARK CHAN
  4. ユートピア(找一個新天地) / GINA
  5. COME FLY WITH ME / 葉加瀬太郎
  6. SINGAPORE / MATTHEW HERBERT

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