ON AIR DATE
2018.04.22
BACKNUMBER
  • J-WAVE
    EVERY SUNDAY 20:00-20:54

☆☆☆☆☆☆☆☆

訓市がantenna*からセレクトした記事は・・・

果てしない作業の応酬。コマ撮りアニメ映画『犬ヶ島』のパペットメイキング映像
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TUDOR logo

Theme is... NEW YORK Premiere

『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。


★★★★★
番組前半はリスナーの皆さんから送られた
手紙、ハガキ、メールをまとめてご紹介!
旅のエピソードと、その旅に紐づいた曲をオンエアします。

後半のテーマは「ニューヨーク・プレミア」。
訓市が約3年間にわたって製作に関わってきた
ウェス・アンダーソン監督の新作『犬ケ島』が完成し、
先日、ニューヨークでプレミア上映されました。

そのタイミングに合わせて渡米し、
ウェスを始め出演者やスタッフとともに過ごした数日間について語ります。
出演俳優でもあるビル・マーレイ主催のディナーを楽しんだあと、
ホテルのエレベーターでビルから受けた進言により
訓市が考えさせられたこととは?


★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。

手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
メールの方は番組サイトの「Message」から送信してください。

リクエスト曲がオンエアされた方には番組オリジナル図書カード、
1000円分をプレゼントします。
皆さんからのメッセージ&リクエスト


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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛

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2018.04.22

MUSIC STREAM

旅の記憶からあふれだす音楽。
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
1

Sweet Lorraine / Nat King Cole

2

Dancing... / Milton Nascimento

3

Nakamarra / Hiatus Kaiyote feat. Q-Tip

4

My Darling / Wilco

5

琥珀色の街、上海蟹の朝 / くるり

6

Slow Emotion Reply / The The

7

Needle In The Hay / Elliott Smith

8

New York Minute / Don Henley

9

K. / Cigarettes After Sex

2018.04.22

ON AIR NOTES

野村訓市は、どこで誰に会い、
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。

Kunichi was talking …


★★★★★★★★

映画『犬ヶ島』のニューヨークプレミア。高校時代を過ごしたテキサスというのは、たしかに心の第二の故郷なんですけど、ニューヨークの方はまさにしょっちゅう行く、本当の第二の故郷みたいなところです。現地の友達たちも、僕がずっとこの『犬ヶ島』という映画に取りかかって仕事をしていたのは知っていましたし、誰よりも楽しみに待ってくれていていました。ただ、全員をプレミアに呼ぶわけにはいかないので数人を呼んだんですけど、もちろん全員来てくれて。20年来、仲良くお酒を飲んでるカメラマンのシェイディという本当の親友とか、俳優のノーマン・リーダスとか。彼はすごく優しくて、ドイツで仕事してたんですが、プレミアの日に帰ってきて、呼ばれてもこういうところで写真撮られるのが嫌で来ないんですけれども、ちゃんと来てくれて、出てもいないのにプレス活動までしてくれました。あとはSupremeというブランドの若いスケーターたちで、パーティーだからどうしても行きたいっていうのもいれば、トム・サックスというアーティスト。あとは映画を作ってるときにいつも監督のウェスと一緒にご飯を食べていたスパイク・ジョーンズももちろん来てくれて。学校の発表会に友達がみんな来て、ドキドキしながら見せるっていう心境でした。プレミアはメトロポリタン美術館、通称Metという一番格式のある美術館を借り切ってやるというかなり豪快のもので、「そんな金があるんだったら俺たちにギャラをくれ!」と、みんなで笑ってたんですけど、プレミアっていうのは最初の上映ということで、僕らスタッフだけではなく、観客の皆さんもちゃんとブラックスーツとかタイをしてきてくれるんです。キャストの方も、他の映画を撮影中のエドワード・ノートンとスカーレット・ヨハンソン以外は、ほぼ全員集まりました。そのうちのほとんどは、ベルリン、そしてオースチンと一緒に旅をしてきているので、もう緊張感も何もあったものではなくて、和気藹々とひたすらお酒を飲むという感じでした。僕はその上映が始まってから、映画をもう何度も見てるんですけど、通路の後から皆の反応が気になってチラチラ見ていました。ニューヨークの人はすごく厳しいですからね。みんなの笑いとか歓声が聞こえてきて、なんとかなったのかなと思いました。そして、上映が終わって隣の大きなホールでレセプションパーティーが始まると、みんな代わる代わる走るようにやってきて、いかに映画が楽しかったかとか、『お前、本当にがんばったなぁ。名前が出てきて、泣きそうになったぞ。』とか、夢中で話してくれました。こういうときは、やっぱり海外の友達っていいなってちょっと思ってしまう瞬間で、とにかく皆すごく熱くて、興奮して話をしてくれるんです。日本だと、もちろん皆さん褒めてくれたりするんですけど、その場でいきなりつばを飛ばしながら細かく話したり、どこがいかによかったったかとか、どこで自分が感動したかとかあんまり話さないじゃないですか。海外、特にアメリカだと、熱いというか、その場で自分が思ったものが消えないうちに全部伝えてくれるので、褒められてると最初はこっちも照れてしまうというか、こそばゆい感じなんですけど、やっぱりそこまで感情を込めて言われると嬉しいものです。僕もすっかり、『本当に?そんなに良かった?』みたいな感じでしたけが、多分、鼻の穴は膨らんでたと思います。すっかりご機嫌になってしまいまして、結局、美術館が閉まった後も、近くのバーに移動して、『出ていけ』と言われるまで皆で飲みました。最初はキャストとか関係者だけだったんですけど、オースチンにもいた友達のスケーターたちを2・3人入れたら、案の定、あっという間にメールで仲間を呼び集めまして、気付いたら全くわけのわかんないTシャツを着た、それこそ10代の子どもからいろいろ来て、ウェスにまた「訓の友達はみんな元気で若いね」と。結局、ぜんぶ彼が払ったんですけども、楽しい夜となりました。



★★★★★★★★

プレミアがあった翌日は朝からプレスデーというやつで、ホテルを2フロアぐらい借り切ってそこにカメラが置いてあって、10時からテレビの取材を10件続けて受けたり、本当辛かったです。差別する気はないですが、テレビのインタビュアーさんというのは基本的にあまり調べずに来る人が多くて、非常にイライラしました。まあ、しょうがないと思うんですけどね、本職じゃない人たちが来たりもするので。だからみんな嫌がるんだっていうのを、ここで身にしみてわかったわけです。1日それをして、最後の日、一緒に仕事をしていたビル・マーレイという俳優の息子がレストランをやっているということで、ビルが皆を招待してくれて、そこでディナーとなりました。スパイクとかも呼んだんですが、誰も知らない物静かなメガネをかけた黒人の友達を連れてきまて、みんな『Hi!』って言ってちょっと話して、彼は用があるということですぐに帰ってしまったんです。後で、「ずいぶん感じがいいけど、静かな友達だね」と言ったら、「あぁ、フランクかい?」「フランクって誰?」って言ったらFrank Oceanのことで。もっと早く言えよって、みんな総ツッコミになりました。なぜなら、オースチンで車で皆でFrank Oceanの『Moon River』をかけて大声で歌った、翌々日のことです。気付かない全員、いかにおっさんかっていうことなんですが。
ビルは本当に面倒見が良くて、全員のお酒をついで、取り皿を並べ、息子の手伝いをするという、とてもアイリッシュらしい家族思いの人です。その日は季節外れの雪が降って、すごく吹雪いてたんですが、気付いたらビルがないんです。僕が外にタバコ吸いに行ったら、「道が凍結するから」と、吹雪の中、ものすごいスピードで雪かきしてる人がいるんです。それを見たらビルで、なんて素晴らしい人なんだ、と。それでまたレストランに戻ってくると、テキサスにも持ち込んでいた、アルコール度数75度のウイスキーをクイクイ飲んですすめてくるわけです。バケモノジジイということになったんですが、もう店が閉まるということで、「飲み足りないやつは俺についてこい」と、車で今度はマンハッタンに戻りました。でも、どこに行っても閉まってるんです。そしたら『一番、行きつけのいいところに行こう。』と、ホテル・カーライルに向かいました。ホテル・カーライルというのは、もうニューヨークでも数少ない昔ながらのいわゆるホテルで、東京で例えると、壊される前のオークラみたいなところ。冬になると下のカフェで毎週月曜日にウディ・アレンがジャズをやっているところです。ついたら当然閉まってまして、入った瞬間に『帰れ、帰れ。何時だと思ってる。』僕も戻って、「ビル、当然のごとく閉まってたよ」って言ったら、どけ、という感じで中にビルが入っていた瞬間に、電気も消されてたレストランの電気が全部ついて、『特別席を作るから待ってろ。』と。営業時間をずらせる人って数少ないと思うんですが、聞くと、大酒飲みのビルは、だいたい主要なバーを全て知っていて、どこでも特別待遇らしいです。そしてもう2時を過ぎてたんですが、ビルが全員分、酒を頼んだと言って届いたのが、こんなに大きなカクテルグラスあるの?っていう大きさのグラスに、なみなみと注がれたマティーニ。「え、今からマティーニ飲むの?」で、結局、早朝までマティーニを飲まされて、みんな帰ると。同じホテルだった僕とビルは車で一緒に帰って、千鳥足で階段を上って、エレベーターに乗ろうと思った瞬間、階を押さずにビルが突然、話をしてくれました。「訓よ、お前はこの映画で非常によく働いたのを知ってるし、素晴らしい仕事をした。それは認めてやる。ただ、その映画に対してウェスがお前にこんな大きな仕事をちゃんと任せてクレジットをあげた意味を、お前はちゃんと考えてるの?」僕は最初、褒められたと思ったのに、なんか雲行きが怪しくなってきたなと思って、「いや、ありがたいと思ってるけども。」「ありがたいだけじゃない。普通、映画をやる人間としたら夢のような立場だ。確かにお前は素晴らしい仕事をしたが、ここで止まってはいけない。働き続けて書き続けて、とにかく現状に満足するな」と。突然の説教モードのような感じで僕は酔いから覚めて真剣にその話を聞きました。最近、誰かに褒められるだけじゃなく、仕事の仕方とか、これからどうするべきかなんて一度も言われたことがなかったな、と思って。その後、部屋に戻って窓を開けて、雪混じりの風を顔にあびながら、真剣に「次はどうしよう」って考えました。とってもいい話だなと思ったんですが、でも、僕は映画関係の人間ではないしな、と。とはいえ、常に満足しないというか、次を考えて動かなきゃいけないんだなと。そしてそれを65歳までやってきたんだろうな、と感じさせてくれる話でした。