今回注目するのは、車いすをより使いやすくする道具。名前は、アルファベット表記で【JINRIKI】。

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「これはいま使っている車椅子にそのまま装着するものです。車椅子につける棒で、これをつけると車椅子が人力車のような形になって、前輪を持ち上げて引いていただく、という補助装置です。」

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見た目はまさに、人力車。1メートルほどの棒を車いすに取り付け、車椅子の前輪を持ち上げて 引っ張る道具【JINRIKI】。なぜ、こういうものを作ろうと考えたのか、株式会社 JINRIKIの中村正善さんにお話をうかがいました。

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「たまたまご縁がありまして、長野県の上高地というところでお仕事をさせていただきました。その際に、もっと上高地にいろんな人に来ていただきたい、特にこれまで来れなかった車椅子のお客様、高齢のお客様に来てほしいと考えました。その方々が来られる方法は何だろう?ということでいろいろ調べたんです。上高地は素晴らしい場所で、河川敷もそうですが、山も素晴らしくて、一日散策しても飽きないほどの大自然です。ところが、ここに車椅子が入ってくるのが非常に難しい。上高地に限らず、実際には車椅子は前輪が小さいので、1センチ2センチの段差でも越えられないんです。ましてや、砂利であったり、砂、雪、階段なんてもってのほかで、ほとんどのところが車椅子では進めない、というのが問題点。車椅子というのは実は平らな舗装されたところでしか使わない、というのが基準なんです。でも実際にお出かけの場合、山や川、そしていろんな観光地、こういうところで全部バリアフリーにするのは難しい場合があります。」

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この課題に対して、どうすればいいのか?中村さんは、こう考えました。

ヒントになるものが日本には古来からたくさんありまして、一番代表的なものはリアカーです。この【JINRIKI】の原理はまさにリアカーなんです。大きなタイヤを2輪にして引っ張る一番効率的なのはこのやり方。これを車椅子に適用しただけですし、名前も人力という名前なんですが、人力車も同じ原理です。車椅子を人力車のように引っ張ってしまおう、ということから、商品名も会社名もJINRIKIにしたということなんです。」

中村さんは、試作機を開発。そして、応援してくれる仲間も現れました。

「試作をテストしたときにかなり強力な方々が協力してくださったんですが、実はその方々はパラリンピックのチェアスキーの選手の方たち。自分たちで試作を作ったんですが、手作りですから不安要素がたくさんあったんです。この試作を使って万が一のことがあったら困ると気にしていたんですね。誰か強い人いないかなと考えたときに、そうだ、チェアスキーの選手は時速100キロですべってて、転ぶこともある。厚かましくもパラリンピックのナショナルチームが合宿しているところに試作機を何台か持ち込んでみたんです。そしたら、選手の方がこれを見て、『面白いからやってみようと』とゲレンデの中を動いてくださって、そしたら今まではあのアスリートですら3人がかりで動いていたところ、これを使うとひとりのサポートでゲレンデのなかを移動どころか、下から上まで上がっていっちゃったんです。それから選手の方々が、この原理はいろんなところで使えるということで、試作機をワールドカップとか、いろんなところの海外遠征に持っていってくださってテストしていただいたということで、ほんとに強い味方がそこでついたと。」

【JINRIKI】を手がけた中村正善さん。

開発を進めるなかで、こんな気づきもありました。

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「あるとき三重県の防災避難訓練に参加させてもらったんです。三重県も約40年間、毎年避難訓練をやっているんですが、車椅子の方は参加できていませんでした。そして、2011年の震災のあった年に、無理矢理にでも車椅子の方に参加いただいた訓練をやったんですが、みなさん坂が急すぎて避難できなかったんです。なので、その翌年に私は試作機を5台ほど持ち込んで訓練に参加させていただいたんですが、そのときすべての車椅子の方々が健常者と同タイムで山頂まで行くことができたんです。急な坂道をイメージしていただくとわかりやすいと思います。まず押すことを考えてみてください。前に行こうと思っても実はかなりの力は地面に押しつける力に変わっているんですね。これを引くことによってすべての力を前に行く力に使えるようになるんです。」

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急な坂道の場合、車椅子を押して上がるのは難しいけれど、【JINRIKI】を使って引っ張れば楽に進むことができる。車椅子を使うみなさんが避難をあきらめない道具として。そして、段差があっても砂利道でもどこでも楽に動くことができる道具【JINRIKI】。2014年の春、本格的に発売開始。これまで多くの方の力になってきました。

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「お出かけになること、これはお客様個人もそうですが、お客様を迎え入れる観光事業者さんの活性にもつながってくると思います。そして何よりも、出掛けることをあきらめなくていいということで、いろんなところに行ってもらえるようになりました。さらに、もうひとつが防災対策です。これまでは避難をあきらめていた方が多くいらっしゃいます。今年の国の防災予算は7兆円という非常に大きな金額が組まれているんですが、ほとんどがインフラ整備、備蓄品の購入ということに使われていて、避難の方法ということでは具体的にうたわれていないんです。ここに着目いただき始めていて、いろんなところに出掛けていただくのと同時に、とにかく命を守るためにつなげるんだと。」

JINRIKIウェブサイト

http://www.jinriki.asia