身体が麻痺してしまった患者の腹部に装着することで呼吸や発声、更には歌唱を補助してくれる、「Exo-Abs(エクソ・アブス)」というデバイスをピックアップします。韓国の歌手の方が交通事故に遭い、体が麻痺してしまったことがキッカケで開発されたというこのデバイス。一体どのようなものでどのような仕組みになっているのでしょうか。今朝は、Exo-Absの開発者でいらっしゃる、韓国はソウル大学の博士課程を修了された研究員、イ・サンヨプ (Sang-Yoep Lee)さんに伺います。

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JK: このExo-Absの形、装着方法、機能について教えてください。

SL シンプルで小さいバックパック(リュック)型で、簡単に背負うことができます。本体から出ているベルトをお腹の前でカチッと留めます。フィット感もあります。

JK:発声には呼吸が必要です。しかし、例えば、脊髄を損傷された方は呼吸を整えられず、発声はおろか、歌唱はかなり難易度が高いです。呼吸をうまくコントロール出来ない人たちへのアシストのために生まれたこの装置、どのような仕組みで呼吸をアシストするのでしょう。

SL 健康な皆さんはわざわざ意識していないかと思いますが、呼吸の際に腹筋と横隔膜を使っていますよね。この呼吸に関与する筋肉のメカニズムをアシストするのがExo-Absの役割です。「もう一つの腹筋」と言えるでしょう。バックパック型の装置から出ているベルトを腹部に装着することで、まるで腹筋のように収縮します。非常にデリケートに、各身体に合わせてキツくなったり緩くなったりします。このように呼吸、更には歌唱をアシストすることが可能になります。

JK: 実際に歌うアシストをされた事例があるそうですが、Exo-Absで何が可能になりましたか。

SL 1人は元歌い手さん、そしてもう1人は素人の方の2例があります。歌い手の方はロックシンガーでハイピッチで歌っていましたが、残念ながら自動車事故に遭い肩以下の筋肉を全く動かせなくなり、歌うどころか会話も難しい状況でした。もう1人は同じような事故状況で、レベル4の脊髄損傷を負い事故以前の生活に戻れなくなりました。歌い手ではなかったのですが、社会復帰したいという強い意志があり、その術として「歌うこと」を選択しました。このお2人の方々にExo-Abs開発の初期段階から参加して頂いています。完璧に事故前の状態に戻すまではいけていませんが、例えば教会のコーラスに参加したり、アルバムをリリースしたり、という段階までは可能になりました。引き続きリハビリの一環としてExo-Absを使っている状況です。

JK:今後の予定はどうお考えですか。

SL 現行のモデルではまだ皆さんに簡便に使って頂くレベルに達していませんが、グローバルレベルでの商業的なリリースを目指しています。現在、韓国とアメリカで特許を申請しています。コロナで呼吸器を患っている方も多くいると思いますので、もっと簡便でもっと安価な形で提供したいと思っています。

JK:呼吸が困難な患者さんの様々なニーズに対応しカスタマイズできる、所謂「もう一つの腹筋」。今後の世界的な展開を楽しみにしたいと思います。