けさは、小学校では今年度から、中学校では来年度から必修となる「コンピュータのプログラミング教育」についてお届けします。

学校の授業再開が遅れつつあるなか、自宅でオンライン形式の学習をする生徒も増えているでしょう。そんな中、スマートフォンを使って自宅でも手軽に気軽にプログラミングを学ぶことのできる教材「easel」(イーゼル)が今年3月に登場しました。

この時間は、プログラミング教材「easel」の共同開発者・監修者で、慶応義塾大学 環境情報学部教授の脇田玲さんにお話をうかがった内容を届けします。

スマートフォンとインターネット環境があればコンピュータのプログラミングを学ぶことができる「easel (イーゼル)」。まずは、この教材を考案したいきさつについて伺いました。

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OECD加盟国の中で、中高校生のパソコン所有率は日本が最低なんです。みなさんスマートフォンを使うんです。義務教育までは学校にパソコンがあって使っているんですが、自分で手に入れるとなるとスマートフォン。

つまり、いつでもどこでも使うデバイスで学ぶということが大と思っていて、プログラミングを学ぶために、10万円のパソコンを新に買うのはばかげていると思うんです。なので最初に誰でも体験するためには、誰でもアクセスできるデバイス、

つまりスマートフォンを使うのがいいと思いました。その背景には、パーソナルコンピューティングという考えをつくったアラン・ケイさんの概念がありまして、彼は子どもがコンピュータやプログラミングを学ぶコンパクトな薄い板のようなデバイスを作りました。それをダイナブックと呼ぶんですけども。

今、我々、スマートフォンというのを、情報を消費するツールとして使っている人が多いと思うんですが、実は当初、クリエーションのために考えられたもので、このような誰もがひとり1個が持てるようになった時代、これを使って消費するのではなく、生産をする、創作をするというのが大事なんだろうと思ってスマートフォンを使うというところにいきつきました。

サッシャ : そうだったんですんね。70年代、パーソナルコンピュータは、子どもが自由な表現活動をするためのツールとして開発されたとは。脇田さんがおっしゃっていた、あふれかえる情報を消費するためのツールだけでなく、スマートフォンを何かのクリエーションのために使うということ。70年代と比べるとデバイスの大きさはうーんと小さくなりましたが、その理念を受け継ぐように誕生した、プログラミング教材「イーゼル」では具体的にどんな作業によって、プログラミングを学ぶのでしょう?

絵を描くという行為をプログラミングでするという教材になっています。カンバスに絵を描きますが、カンバスの大きさを決めます。カンバスの背景はまず黒に塗りつぶしますとか、そこに赤いペンで横に線を引きます、など物語として絵を描いていくんです。その物語の一個一個のプロセスをプログラミングの言語で描いていくというものでして、そういうプログラミング環境になっています。

サッシャ : なるほど。ただ、絵を描くという行為は、特段、コンピュータを使わなくても、紙と描くペンや絵筆があればできますし、iPadでお絵描きをする人も多いと思います。なぜ、プログラミングを通して絵を描くことが大切なのでしょうか?

学校で学ぶ基礎的なもの、読み書きそろばんも大切ですが、「イーゼル」で学ぶアートの制作を通して、プログラミングを学ぶということは、抽象的に言い換えると感覚をロジックに変換するという行為なんです。洞察力や感性というものが手続きに置き換えるというそういう身体が鍛えられると思うんです。今、新型コロナウィルスで社会が停滞して、新しい生き方が模索されている中で、Volatilityの高い社会の中で洞察力や感性が大切だと思います。過去の経験や知識の積み上げが通用しない側面にわれわれは向き合っているからです。個人の中にあるアートとロジックを高めるということ、連関させることが大切で、今のような時代だからこそ、「イーゼル」のような融合領域を学ぶ意味があるんじゃないかなと個人的に思っています。

サッシャ : なるほど。脇田さんの言葉の中で、「Volatilityの高い社会の中で」という表現がありましたが、不安定で変動しやすい社会ということですね。創造力豊かなことはすばらしいけれど、それを感覚的に表現するのではなく、こうすると、こうなる、という論理を立てる力を持つことが先行きの見えない社会では大切なのではないか、というのが脇田さんの見解。ところで、今の小学生はローマ字にも抵抗がなく、キーボードも打てるようなんですが、プログラミングは難しいものではないのでしょうか?

私も心配だったんです。中学生や高校生であれば、英語も勉強しているし、キーボードも打てるのですが、小学校の2年から4年生を中心に、半日のワークショップを実践したんです。お母さんも一緒に来てもらってともに学んでもらうという。意外とできるんです。なぜできたかというと、最初の15分くらいで、面白いと思ってもらえたんです。ほっといても、彼らは学び始めるんです。こんなことをするためにはどうしたらいいのって質問があふれてきて、創作行為に没頭していくんです。これが大事なことで、先生がこれを覚えてください、という上から下に伝えるのはプログラミングのような抽象的な思考は小学生にはなかなか普及しない。むしろ子どもが作ってみたいという気持ちをいかに育んで行くかですね。面白いと楽しいと思ってもらえたら、彼らは自発的に学習し始めるんです。Easelもできるかぎり楽しい、キレイとか感性に訴えるサンプルを用意していますので、多くの子どもは学べると思っています。

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サッシャ :  教材「イーゼル」を立ち上げると、次にやることなどがテキストで表示されるだけでなく、人気イラストレーターの長場 雄さんが描くキャラクターとともに表示されるんです。愛嬌あるキャラクターがお子さんたちの関心をさらに高めそうですね。最後に、プログラミングの未来について脇田さんに尋ねました。

もちろん、IoTとか、新しい製造業とか、データドリブンで社会の仕組みが作り替えられていくから、みんなが知っておくべきというストーリーもありますが、それはそれで進むと思いますが、それとは別の文脈で個人がクリエイティブに生きるという意味において、プログラミングというのを当たり前にする時代になればステキだなと思っています。

サッシャ :スマートフォンでプログラミングを学ぶことのできる教材「easel」を共同開発した脇田玲教授、ありがとうございます。

脇田玲さんと、プログラマーで、アプリケーション開発者の田所淳さんが監修したプログラミング教材「easel」。月額料金は990円ですが、5月31日までの期間、一部のコンテンツが無料になっています。

「easel」