第一生命経済研究所の藤代宏一さんに、解説していただきます。

藤代: バイデン大統領の来日に際して語った経済政策について

J.K. アメリカが主導するIPEF(アイぺフ)という新たな「インド太平洋経済枠組」など注目するべき点はあったかと思いますが、どうでしょうか?

藤代: これと別で、日本に直接関係ないのですが「中国製品の関税引き下げ」に注目しています。この背景は、中国との関係が友好的になったというより、アメリカ国内のインフレ抑制をどうにかしたいという事情だと思います。今、日本では「食エネ(食糧とエネルギー)」の価格上昇が話題ですが、全体の消費者物価上昇率は2%です。それに対して米国は8%を超えていて、「食エネ」以外の住宅や車、旅行代金などほぼ全てが急速に上がっているという事情がありますから、そこで関税引き下げという流れです。

J.K. 関税引き下げで消費者の負担を減らすということですね。

藤代: 先に関税の仕組みをおさらいしておくと、関税を負担するのは、中国の輸出業者ではなくて、アメリカの輸入業者です。そこで支払った関税のコストは製品価格に上乗せされて、消費者が間接的に負担することになります。したがって関税引き下げで物価は少しだけ低下し、消費者の負担は減ると期待されます。ただしインフレが落ち着くかと言えば、それほどの効果は期待できません。やれることはやるといった程度です。ちなみに日本には追い風です。中国の子会社からアメリカ向けの輸出がしやすくなります。

J.K.: インフレによる混乱。アメリカ経済大丈夫でしょか?

藤代: インフレの理由は、アクセル全開の経済政策と、予想外に早い経済活動の再開が組み合わさったことです。そこで政策当局は、金利を引き上げて経済にブレーキをかけている最中です。この調整が実に難しく、ここ数週間ブレーキを踏み過ぎて景気が急速に冷え込んでしまうという懸念が強まっています。夏場にかけて景気が減速しそうなので、中間選挙を控えたバイデン大統領はかなり難しい立場にあると思います。