藤代:毎月勤労統計(マイキン)の不適切調査について

J.K.:厚生労働省が公表する賃金統計がきちんと調査されてなかった、ということで大きな話題になっていますね。

藤代:この統計はその名のとおり、賃金動向を把握する際に最も重要かつ幅広く使われている指標で、通称マイキンです。今回発覚した不適切な処理は、本来は全ての事業所が調査対象であるはずの従業員500人以上という、大企業の事業所について、2004年以降、東京都では1500あるうちの500しか調査していなかった。問題が発覚した経緯は、統計の改善のため、民間人が委員長を統計委員会―を努める―で、厚労省の担当者が「マイキンは、全てを調査していません」と説明したというから驚きです。

J.K. なぜ、このようなことになったと思いますか?

藤代 調査の負担が重かったのに加え、1/3くらい調査しておけば統計の精度に問題がでないとの判断から、当時の担当者が調査方法を無断で変更したのだと思います。統計の多くはサンプル調査といって、一部を摘み出して全体を把握するという、選挙の出口調査に近い方法を用いているので、全部を調査しなくてもOKという認識があったのだと思います。これは統計に詳しい人間ならではの発想です。ただし、まずかったのは、東京都のみを無断でサンプル調査に切り替えたうえ、サンプル調査を本来の全数調査に近付けるための計算処理をしなかったので、結果的に大企業が集積する東京都の数値が小さく算出されてしまいました。言語道断です。

J.K.これによって失業保険の給付額が少なく計算されてしまったという問題があるそうですが、経済の分析にはどういった影響が出ていますか?

藤代 厚労省をかばうつもりは毛頭ありませんが、致命的な影響はなさそうです。賃金は基本的に「伸び率」をみるので、2004年以降不適切でも同じ方法で集計されていれば、伸び率そのものに大きな歪みが生じないからです。不幸中の幸いです。とはいえ統計の連続性が途切れたり、信用が落ちる、という問題の根は深いですから、再発防止を徹底すべきです。